国境を越えて〜ドイツ、フランス、そしてイタリアへも日帰りで!
スイスはヨーロッパのほぼ中央に位置する内陸国だ。国の面積は日本の九州よりもやや小さく、東はオーストリアとリヒテンシュタイン、南はイタリア、西はフランス、北はドイツに国境を接している。スイスは欧州連合(EU)に加盟してはいないが、隣国とはシェンゲン協定で結ばれ、こうした国々とパスポートコントロール無しで行き来ができる。
今年でスイス在住12年目を迎え、現在チューリヒ州に住む筆者は、最初の2年間を同じくドイツ語圏のバーゼルで過ごした。バーゼルはドイツとフランスとの国境にある街で、初めてスイスにやって来た頃、あまりにも簡単に陸路で隣国と行き来が出来る事に驚いた。今回は、スイスに住んでいると意外と普通な、国境を越えての日帰り小旅行を例に挙げ、綴ってみようと思う。
バーゼルに住んでいた頃はまだ、スイスと欧州諸国とのシェンゲン協定は締結されていなかったが、筆者は国境を超えて他国へ出かける際に、税関で大きなチェックを受けた経験はない。車で国境を超える場合、徐行しながら通過する。時には待機している係官に止められ、口頭での質問や、トランクをチェックされるケースもある。当時、市内から車で約1時間のフランスの街、サン・ルイ(Saint-Louis)やミュルーズ(Mulhouse)にしばしば買い出しに出かけた。フランスまで出かける理由は単純で、物価がスイスより、ずっと安いからだ!商品の種類も、スイスと比べると目移りする程、豊富に感じた。海の無い国スイスでは目にしない、様々な種類の新鮮な魚が山ほど並んでいた事は、とてもありがたかった。バーゼルからはフランスのアルザス(Alsace)地方の村々へも近く、時には周辺のワイン街道をドライブした。おとぎの国のような可愛らしい家々が並ぶ小さな村で、ワインを試飲したり、フランスのお菓子や料理を味わえるのも魅力であった。ドイツへは、ラインフェルデン(Rheinfelden)という街をよく訪れた。国境の橋を徒歩で渡り、ショッピングや食事に出かけたりもした。この地区にはライン川を隔て、ドイツ側とスイス側に、ラインフェルデンという同じ名前の街がある。
チューリヒに移り住んでからもアルザスまでは、十分に日帰り旅行が叶う距離だ。しかしドイツを訪れる際は、別の街に出かける機会が増えた。チューリヒ方面から人々が気軽に国境を越えて訪れるドイツの街が、ボーデン湖に面するコンスタンツ(Konstanz)である。土曜日になると、駅前の大型ショッピングセンターの駐車場にはずらりとスイスナンバーの車が並ぶ。今年始めに起こったスイスフランショックでユーロが急落した際には、ドイツへと買い物に出かける人々の車で混雑し、週末の国境は大渋滞となり、ニュースでも大きく報じられた。
数週間前、久しぶりに秋晴れのコンスタンツを訪れてみた。通常は車で国境を通過する事が多いのだが、今回はチューリヒ中央駅から電車を利用し出かけた。チューリヒからはコンスタンツ行きの電車で1時間17分。スイス側の国境駅は、最終目的地の一つ手前のクロイツリンゲン(Kreuzlingen)だ。ここでは往復とも、特にチェックはない。スイスフランショックの際には電車を利用し、スイスからドイツへと向かうショッピング目的の人達が殺到し、週末には臨時列車が運行される事態となった。筆者がスイスに住んで間もない頃は、スイスから他国へ買い物に出かける事に対し、人々の意見は賛否両論であった。反対意見の中には、自国の経済を潤すべきで、わざわざ別の国に出かけて、他国へお金を落とす必要は無いというものもあった。今では混雑する中を隣国までショッピングに出かける人も増え、時の流れと共に、人々の意識も変わったようだ。
コンスタンツの駅に到着すると、「Zoll」と書かれたサインが目に入る。Zollとはドイツ語で税関を意味するのだが、実際にはクロイツリンゲンに税関が設けられている。コンスタンツ駅のZollは、税金の払い戻しのため、スタンプを押してもらうために利用する。払い戻しの方法は至ってシンプル。筆者は街でコートを購入した。するとその店舗で、税金の払い戻しフォーム(申請書)を渡された。申請書を駅のZollの事務所へ持ち寄り、スタンプを押してもらう。それを購入した店舗に持参すると、その場で税金を払い戻せる。面倒な手続きがなく分かりやすい。駅とショッピングストリートは徒歩数分で行き来できる距離だ。
コンスタンツのメインストリートを歩いてみると、雰囲気がスイスとは異なっている事を感じる。同じドイツ語圏に住んでいても、ドイツの街の風景はやはりどことなくスイスとは違う。片道たった1時間とちょっとの旅でも、国境を越えて、外国にやってきたのだなと感じる。
チューリヒからはイタリアへも遠くはない! 現在、チューリヒからミラノまでは、特急電車で約4時間。2016年に開通予定の全長57キロと、鉄道トンネルでは世界最長となるトンネル、ゴッタルドベーストンネル(Gotthard-Basistunnel)が完成すると、時間が大幅に短縮され、チューリヒーミラノ間は片道3時間になるという。(最初の発表では、2時間45分と報道されていた)早起きをして、ミラノで美味しいイタリアンを堪能し、その日のうちにスイスへ戻って来るには日帰り圏内という魅力なのだ! 実は筆者は、現時点での片道4時間(以前は最短で3時間45分)の道のりを、日帰り旅行で何度かトライしてみた。午前7時過ぎのチューリヒ発の電車に乗車すれば、正午前にはミラノに到着する。チューリヒ州の自宅に帰宅するのは深夜。結構ハードな旅ではあるが、不可能ではない。電車でイタリアへと向かう車中では、スイスイタリア語圏のティッチーノ州に差し掛かると、車内アナウンスが、それまでのドイツ語と英語から、イタリア語と英語へと切り替えられる。車窓から眺める景色も、イタリアの情緒豊かな風景へと移り変わり、国境を越えて旅している事を実感する。スイス側の駅キアッソを通り過ぎ、イタリアへ入ったコモで、イタリア側の係員が停車している電車に乗り込んできて、目だけででチェックを行う。帰りはスイス側の駅で同様にチェックされる。
10月のある週末、チューリヒ中央駅構内の広場にて、来年オープン予定のゴッタルドベーストンネルの記念展示会「Die längsten Tunnel Termine Ausstellung Gottardo 2016」が開催された。トンネルをイメージした巨大な展示物の横には、オープンまでの日にちと時間が刻々と刻まれる、カウントダウンもスタート!トンネルの工事の経緯、それに携わった人々の資料等も展示されていた。CGを駆使し、電車に乗車してトンネルを抜ける様子を体感できるスペースも設けられ、通行人達の興味をそそっていた。新しいトンネルが開通すれば、ミラノへの距離がぐっと近くなる。ドイツへ、フランスへ、そしてイタリアへ。スイスから国境を越える小さな旅は、これから益々機会が増しそうだ。
スミス 香
福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。今年の春で、スイス在住12年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。
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