第50回 モントルー・ジャズ・フェスティバルが熱かった!
スイス各地では夏になると、屋外ライブ、野外シネマなど、戸外での様々なイベントが開催される。筆者も今年は、約25万人が訪れる世界最大級の音楽の祭典、第50回記念となった、モントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)を訪れた。
モントルーはスイスフランス語圏、レマン湖の東の湖畔に佇む美しい町だ。リゾート地でもある。ここでジャズ・フェスティバルがスタートしたのは1967年の事。さほど大きくはないモントルーの町が、毎年夏になると最も熱い2週間を迎える。
フェスティバルは7月1日から16日まで開催された。現在ではジャズのみならず、ロックやブルース、レゲエ、ソウル等、様々なジャンルのアーティスト達が世界中から参加する大規模なミュージック・フェスティバルとなっている。
日本・スイス国交樹立150周年の記念となった2014年には、「ジャパン・デイ」という企画も組まれ、上原ひろみ、布袋寅泰、小野リサら、日本のアーティストも参加し、モントルーの夜を盛り上げた。
ライブ会場は、メインの「オーディトリアム・ストラヴィンスキー(Auditorium Stravinski)」の他、モントルー・ジャズ・クラブ(Montreux Jazz Club) 、2013年にオープンしたモントルー・ジャズ・ラボ(Montreux Jazz Lab) の3カ所に分かれている。
屋外の広場「Music in the Park」には特設ステージが設置され、夕刻から始まる野外ライブを無料で楽しめる。
今回は週末の夜のライブが目的だったため、チューリヒ州の自宅から1泊旅行で出かけた。モントルーに到着後、まずはライブ会場周辺を散策してみる。
晴天に恵まれた昼間のストリートは、世界各地から訪れた人々で賑わっていた。湖畔の遊歩道にはフェスティバルの期間中、数々の出店が並ぶ。
あちらこちらでミュージシャンが集い、路上ライブやパフォーマンスを行っていた。演奏している人達はセミプロ級でレベルが高く、見ていてとても楽しい!
4000人を収容するオーディトリアム・ストラヴィンスキーでのライブは夜8時スタート。この屋内会場は、着席用の2階席がわずかばかりあるのみで、1階のホールはオールスタンディングとなっている。各公演のチケットは、ほとんどが発売と同時に完売するのだという。
我が家はチケット販売開始直後、何とか土曜日の1階ホールのチケットを入手できた。会場では限られた数で発行される当日券を求めて並ぶ人達や、道端でチケットを譲って欲しい旨が書かれたボードを掲げている人々も目に入る。
ホールの開場は午後7時。アーティストに近い前方の位置を陣取るため、入り口には開場時間前から長い行列が出来ていた。
スイスのライブ会場では、入場時にイヤープラグ(耳栓)が渡される。大音響の音楽から耳を守るためだが、これは主催者側の義務らしい。
列の最後尾に並び、7時ピッタリに会場内へ。ここからが長丁場の始まりだ!ライブは3部構成で、3組の異なったアーティストが登場する。
トリを務めるのはその中でも一番人気か、最も知名度の高いアーティストだ。持ち時間はそれぞれ1時間なのだが、トリは長めというのが暗黙の了解なのだそうだ。
この夜の出演者は、リサ・シモーヌ(Lisa Simone)、ヴィンテージ・トラブル(Vintage Trouble)、 ジェイミー・カラム(Jamie Cullum)の3組。英国出身のジャズ・シンガーで、マルチプレイヤーでもあるジェイミー・カラムは、日本でも度々公演を行っている。
予定通り午後8時にライブがスタート。既に熱気はムンムン。最初の出演者の公演が1時間キッカリで終了すると、音楽機材の入れ替えも兼ね30分の休憩。
しかしオールスタンディングのホールは超満員なので、ここでその場を一旦離れると、もう二度と最初に確保した場所に戻る事は出来ない。ほとんどの人々は同じ場所で待機し、次の出演者を待つ。
時間通りに2組目の出演者がステージ終え、再び30分の休憩に入ると、ホールの混み合い方が更に凄い状況となった。
最後に登場するメイン・アーティスト、ジェイミー・カラムを少しでも近くで見ようと、後方から前に無理矢理に割り込んで入って来る人もいて、ホールはまるで満員電車のようにぎゅうぎゅう詰めだ。
周りでは観客同士で小競り合いが始まった。自分の目の前も、いきなり割って入った若いカップルに立ちはだかられた。日本人の常識で考えると、とても人が入れるスペースではなく、まさかの展開であった。
背後でも、「割って入って来るな!」「ナゼ悪い?」とフランス語で争い合う声が聞こえる。
ライブの最中にも、前方にいた人がその後ろにいた人とあやうく殴り合いになりそうになったのを周りの人が制止する。目の前で見ていてヒヤヒヤしてしまう。
割り込まれても文句の一つも言わぬ自分だったが、我ながら日本人はお人好し過ぎるのかな?とも思いつつ、意外な場所で感じてしまったカルチャーショックであった。
だが、ライブは終始大盛り上がりだった。アーティストが客席まで降りてきて、驚く観客の中を歌いながら歩く。距離がとても近い!パフォーマンスの一環で、降りた客席から観客に体を抱えられ、ステージに戻るアーティストもいた。
スイスではライブコンサート等の場合、開始前に特に注意がなければ写真撮影の制限はなく、フラッシュ無しでの撮影は可能だ。この会場も同様だった。
辺りを見渡すと、入場時に配られていたイヤープラグを着けている人達もいた。耳に栓をしてノリノリでホップしている人達の姿は、自分の目には不思議な光景に映った。
クライマックスを迎えたのは深夜0時過ぎ。予想通り、最後のライブは一番長く、すべてが終了したのは深夜1時頃だった。
午後7時に入場し、トイレにも行かず、結局6時間も立ちっぱなし!よく耐え、はじけ、そして最高の時間を楽しんだものだと思う。
出演したアーティスト達は各々のライブを無事に終了させると、バンドメンバー達と共に、みな涙を流し感激しているのが印象的だった。モントルーのステージに立つ事は、アーティスト達にとっても夢であり、感慨深い経験なのだと感じる。
ライブ会場を後にし、「Music in the Park」に戻ってみると、こちらの野外ライブはなおも続いており、夕刻に通りかかった時よりも人の数は更に増えていて大賑わい!ライブは朝方まで行われていたようだ。夏の16日間、モントルーの夜は眠らない。
以前から一度は訪れてみたいと思っていたモントルー・ジャズ・フェスティバルを体験できた事は、スイスの素晴らしい夏の思い出の一つとなった。
スミス 香
福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住13年目。最初の2年間をバーゼルで過ごし、その後は転居して、現在は同じドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。
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