スイス中央部の観光地・ルツェルンには毎年およそ900万人の観光客が訪れる。住民1人当たりの観光客に換算すると、かのベネチアを上回る。経済効果は高いが、観光バスや通りを埋め尽くす観光客に迷惑を被る住民も少なくない。(SRF/swissinfo.ch)
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2018/09/25 17:15
ドイツ語圏の日刊紙NZZによると、ルツェルンの住民は8万1千人、年間訪問者数は940万人。住民1人当たり116人の観光客が訪れている計算だ。ベネチアは人口26万人に対し観光客は2500万人で、住民1人当たりでは96人。観光の中心地だけで比較するのは難しいが、ベネチア中心地の人口は6万2千人であることを考えると、また別の実態が見えてくる。
フランス語圏のスイス公共放送(RTS)が同じような比較調査を行ったところ、ローマやバルセロナ、パリ、ベネチアを押さえルツェルンは「観光客密度」が最も高い都市であることが分かった。ただこの調査には人口842人のバチカン市国は含まれていない。システィーナ礼拝堂だけで年間5百万人が訪れる。
伸びる団体旅行
ルツェルン応用科学芸術大学で観光業を研究するユルグ・シュテットラー教授は、ルツェルンの年間訪問者数は2030年までに1200万~1400万人に達すると予測する。現在のパリ(1500万人)に近い規模だ。
現地の小売店にとっては喜ばしい話だ。チョコレートやアーミーナイフ、鳩時計を売るロバート・カサグランデさんは、時計・宝飾品販売のブヘラやギュベリン、エンバシーと共同で、団体旅行者のもたらす経済効果を調査した。結果はルツェルン中心の白鳥広場(Schwanenplatz)周辺だけで年間2億2400万フラン(約260億円)の付加価値を生むと分かった。市内で1000人以上が団体ツアーの関連で働くという。
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悩ましい交通問題
ツアー客は経済的な恩恵をもたらす一方、住民の暮らしには厄介な存在だ。ルツェルン駅から白鳥広場までの数百メートルをぶらぶら歩く観光客のために、多くの車や市バスが足止めを食らう。市は駐車場の代替策を練るための調査を始めた。提案の一つは、観光バスの停車場の大半を少しだけ街の外側に移し、そこから観光客を公共交通機関で街の中心に移動させる仕組みだ。街の中心部に観光バスを停車させる場合、特別料金を課すことを提案する政治家もいる。
市街地に並ぶ観光名所、リギ山を繋ぐ交通機関も観光客の増加に悩む。リギ鉄道のカール・ブッヒャー社長 は、より多くの観光客が展望を楽しめるよう列車本数を増やすことを検討している。だが地元住民の一人、レネ・シュテットラーさんは拡充を阻止する請願活動を始めた。シュテットラーさんは大量の観光客が景観を壊すと指摘する。
(英語&独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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スイスにおけるポスターの歴史は、観光ポスターから始まった。既に前世紀に芸術とみなされていた観光ポスターは感情に訴えかける存在でもあり、今日までその輝きを失わずにいる。展示会場には交通手段をモチーフに、洗練されたデザインの作品が並ぶ。登山鉄道、船、バスなどの交通手段が、マス・ツーリズムを可能にした。
スイス交通博物館とルツェルン応用科学芸術大学が共同で取り組んだこのポスター展では、合計で36枚のポスターが展示されている。それらのデザインは時代を反映しているものの、スイスの観光ポスターの伝統は失われていないのが特徴的だ。
(写真・PHOTOPRESS、スイス交通博物館)
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