中国の人権問題、北京五輪を前に
人権関係のNGOにとって、2008年北京五輪は中国政府がいかに人間の尊厳、自由を傷つけているかを明らかにする機会になりそうだ。
一方、NGOが挙げた一連の人権侵害項目に対して、ジュネーブ中国代表部の人権問題担当官ケ・ユシェン氏は、それらの正当性を疑い反論。12月10日の世界人権デーにちなみ、両者の意見を聞いてみた
「アムネスティ・インターナショナル・スイス ( Amnesty International Swiss ) 」のスポークスマン、マノン・シック氏は「北京が五輪候補地に挙がった時、中国政府は北京五輪開催は、中国での人権擁護の向上に役立つと宣言した」と語る。そのためアムネスティは五輪準備期間中の北京での人権問題に力を入れているという。一方、ユシェン氏は、まず司法制度の改正など中国政府の努力を挙げ、特に死刑の求刑に関し、以前より深い考察が行われるようになり、それはアムネスティも認めるところであると語った。
強制的立ち退き
アムネスティ側は北京五輪準備に関連した一連の人権侵害の例を挙げ、
「北京の多くの地区で、さまざまな家族が土地を押収されたり、またその賠償問題で北京市当局と紛争を起こし、抗議デモを行った人たちが捕まったりしている」
という。
対するユシェン氏は、
「2002年以来、9つのプロジェクトの建設に伴い、6037の家族が住む場所を失った。しかし全員が賠償金を受け取るか、近隣に住めるようになった。この問題に関して北京市当局は厳格に対処してきた」
と答える。
インターネットの検閲
一方、ジャーナリストの表現の自由に関し、アムネスティも「国境なき記者団 ( RSF/RWB ) 」も中国でインターネットが監視されていると指摘する。
「1億6200万人のインターネット利用者に対し、中国政府は世界でもっとも複雑で、もっとも広範囲に広がったフィルターシステムを持っている。いくつかの監視機関によると、3万人のインターネットの検閲警官が存在する」
とアムネスティのシック氏。
ユシェン氏はこれに反論し、
「中国にはインターネットの検閲機関は存在しない。技術的にも今日の溢れる情報量をコントロールすることは不可能。もし仮に中国がインターネットをコントロールしたとしたら、かえって中国の発展を阻止してしまうことになるだろう」
と言う。
国境なき記者団スイス支部のミカエル・ロワ氏によれば、北京五輪を取材する記者のチェックも中国は行っており、たとえオリンピック委員会が承認したとしても、中国のブラックリストに載った場合は入国拒否されるという。
「この指摘は北京に在住する外国人記者の数がますます増えている事実と矛盾する。確かに、政府は五輪開催に際し、記者に対するいくつかの対策を立てているが、それはすべて記者の仕事がスムーズに運ぶようにと考慮された対策。中国は以前より透明性に力を入れており、例えば中国に来る記者は中国の公的証明書が必要でなくなっている」
とユシェン氏は説明する。
広がる自由
「西ヨーロッパ諸国が想像する以上に、中国での新聞、インターネット上の表現の自由は進んでいる。大学でもあらゆるテーマでセミナーが行える」
と言う。
「中国は確かに中央権力が強い国。しかしすべてをコントロールする全体主義の国ではない。また、中央政府と地方間や、異なる政党間での勢力争いが進むにつれ、あらゆる分野での自由が広がっている」
と分析する。
最後に、人権担当官であるユシェン氏は、人権侵害が存在する事実は否定せず、
「途上国がそうであるように、中国も人権に関してはまだ多くの問題を抱えている。しかし世界はこの分野で中国が行ってきた努力と、すでに成し遂げたことを評価すべきである」
と締めくくった。
swissinfo、フレデリック・ヴュルナン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
北京五輪は2008年8月8~24日の間、北京で開催される。中国開催は初めて。
28の競技種目で302の試合が行われる。
開会式は8月8日、午後8時08分。
北京のオリンピックスタジアムは、スイスの建築家ヘルツォーク&ド・ムーロン両氏によって設計された。
およそ3万人の労働者がオリンピック会場の建設に携わっている
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