再開発でトレンディスポットへ! 〜 チューリヒの新名所「IM VIADUKT」
若葉の薫る初夏から、日差しもまばゆい本格的な夏へと移り変わる季節がやってきた。人々は開放感たっぷりのオープンテラスのカフェやレストランで、ティータイムや食事を楽しみながら、家族や友人、仲間達と思い思いの時間を過ごし、短い夏を存分に満喫する。
目にする夏の風景は毎年馴染み深い光景ではあるものの、チューリヒの町はここ数年で大きな変貌を遂げようとしている。
チューリヒでは数年前から、注目をされている再開発地区がある。町の西側に位置するエリアで、5区(Kreis5)の地域だ。ちなみにチューリヒには12区のエリアがある。区という意味のクライス(Kreis)にはドイツ語で、他にも輪・円という意味を持つ。
この界隈はかつて産業革命時代に開発され、重工業地域として栄えた。その後、1980年代の半ばからは各企業が町の中心部から撤退し、海外へ拠点を移すなど、工場が次々と閉鎖されたため、工場跡地となる空き地が生まれた。地元の人々によると、工場跡地となったこの地域は当時、一般の人々があまり近寄りたがらない、いわゆる荒れた場所だったのだそうだ。近隣諸国からは薬物を常用する人々も流れ込み、注射器の針が無造作に捨てられていた付近の公園は“needle park”とも呼ばれ、あまりにも危険で、子供達が遊ぶ事も出来ない時代もあったのだという。
その後、チューリヒ警察によって取り締まりが強化され、整備された跡地には、劇場や映画館、クラブ、レストランなどの新しい施設が立て続けに建設され、チューリヒ地区の新開発地区として見違えるように生まれ変わった。2010年春には、チューリヒの町で最もトレンディなスポットである「IM VIADUKT(イン ヴィアドゥクト)」がオープンし、周辺は現在も急速に発展中である。
VIADUKT(ヴィアドゥクト)とはドイツ語で、「橋」や「高架橋」を意味する。この高架橋は、1894年に建設された古いもので、橋を間近で眺めてみると、その歴史の深さを目の当たりにする事ができる。鉄道が通る高架下には、お洒落なブティックや雑貨店、レストランなど、50以上の店舗が軒を並べている。周りには若い世代のクリエーターが手掛けるギャラリーやアトリエ、カフェが点在し、日本の若者たちの間でも人気のある「FREITAG (フライターグ)」の本社もこの近くにある。
「IM VIADUKT」まではチューリヒ中央駅からトラムで約10分。中央駅の次の、近郊列車のSバーンが停車する、Hardbrücke(ハードブリュッケ)の駅からはゆっくりと歩いて約20分。この界隈にも、趣向を凝らしたお洒落なレストランが並ぶ。天気の良い日には、高架橋の下に並ぶショップを眺めながら、のんびりと散策するのも楽しい。
筆者も暖かい5月のある日、ハードブリュッケから「IM VIADUKT」まで歩いてみた。目的地でもある屋内マーケット「Markthalle(マルクトハーレ)」の中では、新鮮な野菜、肉や魚、チーズ、パン、ワイン等などが販売されていて、奥にはレストランも併設されている。
マーケットの中には、スイスでは珍しい、英国産のチーズを専門に取り扱う店舗も入っており、地元のニュースでもよく取り上げられている。「チーズと言えば、スイスチーズ!」とのイメージも大きいこの国で、異例とも思えるチャレンジをした英国人のオーナーは、スイス人女性と結婚しスイスに移り住んだのがきっかけで、ビジネスチャンスをものにしたのだという。
マルクトハーレには、日本人のオーナーが手がける、テイクアウト専門のお寿司のお店も出店している。にぎり寿司や巻物が詰め合わされたものを中心に、種類はいくつもあり、その場で作られたお寿司はなかなかの美味である。
筆者の、もうひとつのお目当ては魚屋さん。この場所でも何度か購入した経験があるのだが、ショーケースに並ぶ魚は市内のデパートに並ぶものより価格は安いし、鮮度もずっと良いようにみえる。日本と大きく異なる点は、スーパーで見かけるパック入りは別として、専門の魚屋さんではお肉同様、好みの量(切り売りの場合は枚数)を伝え、それを計量して会計をする量り売りシステム。鮭など大きな魚の場合は、魚の一部を切って、切り売りしてくれる。スイスでも馴染みの深い、マグロやサーモンなどはお刺身用にブロックで販売され、それらも重さによって料金は異なるが、希望のグラム数を伝えれば、こちらもカットして販売してくれる事が多い。テイクアウト専用メニューもあり、昼間は数種を選んで購入するタパスのランチプレートもある。ショーケースの中の魚を注文し、グリルしてもらう事も可能で、その場でいただく事も出来る。
「IM VIADUKT」に並ぶカフェやレストランでは、多地域のレストラン同様、夏の期間中は店先にもテーブルやイスが設置され、夜はライトアップされた高架橋の下では、人々が気軽に夏の夜長を楽しめる。昼間はテイクアウトしたサンドウィッチやお寿司などを付近の公園で気軽に食べる事も、子供達が安心して公園内を駆け回る事も出来るようになった。少し離れたリマト川まで歩いて、河川敷に腰掛け、のんびりとランチを楽しむのもスイス流。
チューリヒの町はこれからも、あらゆる意味において、更に進化し続けて行くのであろう。
スミス 香
福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住11年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。2014年初春から夏までの数ヶ月間は、夫の仕事の関係でスイスと日本を行ったり来たりの日々を送っています。2009年より個人のブログ「スイスの街角から」 を更新中。
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