「原点はスノーボード」竹内智香のスイス生活
スノーボードアルペン選手の竹内智香さん ( 25歳 ) は、スイスのナショナルチームとともにトレーニングを始めて3年目を迎えた。今ではチームとの会話には不自由しないくらいドイツ語も上達し、「家族以上の存在かもしれない」というつながりも築かれた。
スイス南部ヴァレー/ヴァリス州の村サース・フェー ( Saas-Fee ) での秋季トレーニングも終わり、北米での調整を終えるといよいよワールドカップ・シーズンは本場を迎える。
ブラックパールを共同開発
「今シーズンはオリンピックもあるし、もちろんワールドカップもあるので、すべてのレースで勝ちたい」
と、竹内さんは今シーズンの抱負を語る。スイスに来て間もなく、シモン・ショホ選手、フィリップ・ショホ選手のショホ兄弟と一緒に開発を手がけるようになった新しいスノーボード「ブラックパール ( Black Pearl ) 」を使い、昨年はワールドカップ女子パラレル大回転で総合3位という好成績を収めた。
ブラックパールは先端の丸みが少なく、長方形に近い形をしている。
「ほかの板 ( ボード ) に比べて雪面を捉える感覚がワンテンポ早いように感じた。雪面を早く捉えてくれることで時間に余裕ができ、思い描いたターンをしやすい」
というのが初めて滑ったときの第一印象だ。
もともとブラックパールの開発はショホ兄弟が始め、そこに竹内さんも「ぜひこの板で滑りたい」と参加した。最初は男性用のボードしか作っておらず、ショホ兄弟は女性用の開発にそれほど乗り気ではなかったようだ。だが、竹内さんの熱意が女性用ボードのプロトタイプを作らせることになった。今では
「彼女がいてくれてうれしい。ボードに関する的確な情報をくれるし、ブラックパールにとってもチームにとっても彼女は大きな恵みだ」
と、ショホ兄弟は口をそろえて言う。
ヨーロッパでトレーニングを
現在は心身ともに好調な竹内さんだが、スイス行きを決める前はスランプに陥っていた。このままダメになるか、それともこの苦しみから何としてでも這い上がるか。一方で、強いヨーロッパのチームと一緒にトレーニングしたいという思いもずっと抱いていた。そこで、意を決してヨーロッパの何カ国かのチームとコンタクトを取った。
スイスチームを選んだ理由について竹内さんは
「一番強いチームだったから。世界選手権やオリンピックで常に表彰台に上がっていた」
と語る。一方、スイス代表チームのトレーナーを務めるクリスティアン・ルーファー氏は
「問い合わせを受けたあと、チーム全員で話し合った。当時はチームに女性が1人しかいなかったこともあり、『ウィン・ウィン・シチュエーション』になると思った」
とナショナルチームに外国人を受け入れた初めてのケースを説明する。
竹内さんがスイス人に混じってトレーニングを始めて3季目を迎える今、
「彼女がチームに返してくれたものも多い。彼女の性格や態度はチームにプラスになっている。彼女はまた、どうすればもっと速くなるか、どうすれば勝てるかというアドバイスを理解し、実行している。伸びる可能性を感じた」
とルーファー氏は語る。
とはいえ、何もかもがすんなりと運んだわけではない。スイス人は比較的閉鎖的な国民だ。竹内さんも
「チーム全員から受け入れられたかなと思えるまでに2年かかった」
と言う。
1日でも長く
ブラックパールの開発を通じ、シモンさんとフィリップさんとの距離はぐんと近くなった。竹内さんにとってこの2人は
「時にはチームメート、時にはお兄ちゃんのようであってまた時には父親のよう。もしかしたら家族以上の存在かもしれない」
また、
「許される限り、可能であれば1年でも長く1日でも長くスイスチームと一緒にいたいという思いは強い。強いチームを転々とするつもりはない。日本人であることに誇りを持ち、今こうしてスイスにいられることに感謝もし、また誇りも持っている」
と、スイスを拠点とした生活にとても満足しているようだ。
竹内さんの原点はスノーボード。
「スノーボードがわたしをいろいろなところに連れて行ってくれて、いろんな人に出会わせてくれている」
雪上のシュプール以外にも、竹内さんの足跡はしっかりとスイスに残りそうだ。
小山千早 ( こやまちはや ) 、シュテーク ( Steg ) にて、swissinfo.ch
1983年12月21日生まれ。
北海道旭川市出身のスノーボードアルペン選手。
株式会社ロイズコンフェクト、スキー部所属。
<主な戦績>
1999~2000年
JSBA全日本スノーボード選手権大会、ジャイアントスラローム優勝
2000~2001年
FISコンチネンタルカップ南米大会、パラレルジャイアントスラローム総合優勝
FIS全日本スノーボード選手権大会、パラレルジャイアントスラローム2位
2001~2002年
FISオーストリア国内大会、パラレルジャイアントスラローム優勝
SAJ全日本ジュニアスノーボード選手権大会、スラローム1位、ジャイアントスラローム3位
2002~2003年
FIS冬季アジア大会、ジャイアントスラローム2位、スラローム3位
FIS全日本スノーボード選手権大会、パラレルジャイアントスラローム優勝、パラレルスラローム優勝
2003~2004年
FISカナダナショナルチャンピオンシップ、パラレルスラローム優勝、パラレルジャイアントスラローム3位
FISUSナショナルチャンピオンシップ、パラレルスラローム優勝
FISUSグランプリ大会、パラレルジャイアントスラローム優勝
2004~2005年
FISレース、パラレルジャイアントスラローム優勝
2005~2006年
FIS公認スノーボード全日本選手権、パラレルジャイアントスラローム優勝
ヨーロッパカップ、パラレルジャイアントスラローム3位
2006~2007年
FISヨーロッパカップ、パラレルスラローム優勝
FISキスマークカップ・スノーボード・ジャパン札幌、ジャイアントスラローム優勝
全日本スノーボード選手権大会2007、パラレルジャイアントスラローム優勝
2007~2008年
FISワールドカップ、パラレルジャイアントスラローム6位
FISヨーロッパカップ ( ドイツ ) 、パラレルジャイアントスラローム5位
FISヨーロッパカップ ( オーストリア ) 、パラレルスラローム6位
2008~2009年
FISワールドカップ ( オーストリア ) 、パラレルスラローム2位、パラレルジャイアントスラローム2位
FISワールドカップ ( カナダ ) 、パラレルジャイアントスラローム2位
FISワールドカップ ( アメリカ ) 、パラレルジャイアントスラローム2位
2009~2010年 ( 11月13日現在 )
FISワールドカップ ( オランダ ) 、パラレルスラローム20位
( 竹内智香公式サイトより )
2007年からスウェーデンチームとも共同トレーニングを開始した。
当時は2人、現在は1人がスイスナショナルチームとともにスイスでトレーニングを行っている。
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