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幸せ農場にようこそ

農場内に点在する、巨大な家畜小屋、合宿所など。 swissinfo.ch

ポラントリュイ駅に降り立ち、市街地とは逆方向に進んでいく。ほとりに小川が流れる団地、そして工業地帯を横目で見ながら通り過ぎると、深い森林に沿うように伸びている小道に自然と足が向く。ここで、時の流れを止め、周囲の緑を愛でながらのんびり歩いていこう。20分余りで、左手の小川のほとりに色とりどりのミツバチの巣箱が並び、さらに進むと、ちらほら、草を食む動物達が見えてくる。幸せ農場(フェルム・ドゥ・ボンナー = Ferme du Bonheur)である。1999年創業以来、年間1500人が訪れるファームステイ施設。スイスフランス語圏国営テレビのニュースでも取り上げられ(右記リンクご参照のこと)、2004年には、ジュラ州政府より公益事業団体と認可された。この農場の特色は何と言っても、一年を通じて学童または障害者グループを合宿所に受けて入れていることである。

 この農場には、先日、日本から視察にいらした女性達をご案内した。農場の総合責任者、ガブリエル・シェンクさんは、お忙しい中、快く、広大な農場の案内役を買って出てくれた。まず案内されたのは、合宿施設。ベッド数は36あり、一度に40人が座れる食堂、娯楽・工作部屋、パン燃き窯のある部屋などがある。男女別の洗面所を含め、すべての施設は車椅子に乗った人も利用できるよう、配慮されている。台所では、専属の調理人が、団体の要望に応じてバランスの取れた食事を提供してくれる。ここで合宿するのは主に小学校から先生に引率されてやってきた生徒達もしくは障害者施設から教諭に伴われて来たグループである。彼らは、シェンクさんを始めとしてプロの指導者に受け入れられ、農場で共同生活を始める。

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 ファームステイ・プログラムは、幸せ農場の公式ホームページに掲載されているが、軸となるプログラムをご紹介しよう。ステイ期間は一週間または二週間である。子供達はいくつかの班に分かれて作業し、動物の世話、パン作りなどをすることで、自然に囲まれた農場での生活を実体験する。指導者達は必要な時には手を貸し、安全確保に努めているが、各班に責任者を決め、子供達の自立心を養う。同じ仕事ばかりだと飽きてしまうため、日替わりまたは長いステイの場合は数日毎に班を替える。仕事のない午後は、広々とした敷地内でゲームをしたり、馬に乗ったり、近郊に遠足に行ったりと、様々なリクリエーションが用意されている。一番近い町、ポラントリュイまでは、冒頭に述べた道程で、子供の足でも容易に行けるが、希望すれば14人乗りのバスを有料で貸してくれる。その他、半日で行ける観光地として、レクレー(Reclère)の鍾乳洞や先史時代公園訪問、中世都市サンチュルサンヌ(St-Ursanne)訪問やこの町を流れるドゥー(Doubs)川での川遊びなどがお勧めである。また、遠足や誕生日会、会社のパーティなど、様々な機会に一日だけ農場で過ごすことも可能なので、興味がある方は、右記リンクより問い合わせしてみると良い。

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 障害者グループの場合は「農場と動物」または「乗馬」というどちらかのテーマが与えられ、専門の指導者に伴われてそれぞれ農場生活を満喫することができる。要望に応じて臨機応変に計画することができ、問い合わせすれば、無料で見積もりも出してくれる。

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 この農場は毎年、ファームステイ以外の独自の催しも行っている。8月1日、スイス建国記念日にはポラントリュイ市と共同開催で、夕方6時から祭りが始まり、野外バーベキューやダンスなどを楽しむことができる。夜が深けてくると大きな焚き火が灯され、恒例の花火が始まる。また、以前のブログでご紹介した聖マルタン祭(通称豚祭り・11月第二週末)では、農場独自の豚尽くし料理を楽しむことができ、その後、前述の合宿施設で宿泊することもできる(予約要)。

 シェンクさんに馬や豚などの動物達の小屋を案内してもらったが、どの動物も、驚くほど人に慣れている。とりわけ、ここの豚達・・・ベトナム豚や、マンガリッツァ(Mangalitza)の一種で絶滅の危機に瀕しているという縮れ毛の豚は、シェンクさんが近づいていくといかにも嬉しそうな声を上げて擦り寄って行き、まるで、我々が普段慣れ親しんでいる犬や猫などのペットのようであった。日本からの御一行との訪問中に見たマンガリッツァの雌豚は、出産を間近に控えて、雄豚と別居中であった。それから一ヶ月ばかりして、「子豚が五匹生まれたから見にいらっしゃい」というシェンクさんのお誘いをありがたく受け、写真撮影も兼ねて、再び農場に赴いた。

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 毎日午前9時から11時まで、シェンクさんは動物達がいる小屋や柵の中に行き、餌を与える。私が行った日、食欲旺盛な母豚の傍らで、数日前から固形食も食べるようになったという生後三週間の子豚達も鼻を地面に押し付け、盛んに餌を探して食べていた。実は子豚は八匹生まれたが、残念なことに三匹が死んでしまった。無事生まれた五匹のうち、よく見ると一匹だけ小さく、他の子豚達が競って母親のおっぱいにかぶりつき出したのに、少し離れたところでおどおどしている。シェンクさん曰く、「あの子は一番最後に生まれたが、他の子に比べて食べず、なかなか大きくならないから、おそらく食用になるだろう」希少種の豚を食べるなんて! そんなことが許されるの?と驚く私に、シェンクさんは説明してくれた。「良い、強い豚を残すためには選択が必要なんだ。それにこの豚の肉は美味で有名だ」また、種豚にならなかった雄豚も、食用に回される確率が高いそうだ。「女の子はよりチャンスがある!」とシェンクさん。ちなみに、ジュラ州のエポヴィレー(Epauvillers)村のレストラン「ド・ラ・ポスト(De la Poste)」では、35名よりこの豚肉料理を食することができる(予約要)。また、シェンクさんが紹介してくれたスイスのプロスペシララ(ProSpecieRara)協会では、希少種の動植物の保護・飼育を推奨しており、マンガリッツァも登録されている。インターネットサイトによると、マンガリッツアは、過去、ヨーロッパでは広く食べられていたそうで、丈夫で寒地にも適応している。妊娠は三度、そして一度に八匹しか産まないこの種は、繁殖力が強い通常の白豚に比べ、需要の増大と共に、数の減少に拍車をかけていくことになった。

 私のように、短時間の滞在期間中ですら、見るもの聞くもの、非常に興味深いことばかり。この農場に合宿にやって来る子供達は、できるだけ「自然」に近い環境で、仲間と協力し合いながら実地体験を積み、一生忘れ得ぬ思い出を作ることだろう。

 このブログの作成に当たり自らの時間を割いて全面的にご協力下さり、写真を提供下さったガブリエル・シェンクさんに、厚く御礼申し上げます。
 Je remercie sincèrement à Monsieur Gabriel  Schenk , pour votre disponibilité, collaboration et l’envoi  des photos.

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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