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思い出の地グリンデルワルトに再び

「娘が『お父さんは脊髄 ( せきずい ) でものを考える』というのですよ。考えが頭まで行く前に、もう行動を起こし、そしてものを考えるというのです」と辰野さん ( 写真提供 : モンベル ) Montbell, Osaka, Japan

16歳で読んだハイリヒ・ハラーのアイガー北壁登攀( とうはん )記『白い蜘蛛』が人生を決定したという辰野勇氏( 59歳 )。自分も登ろう、登山用品のビジネスも始めようとこの時決心。この2つの夢は見事に実現され、いまや従業員800人のアウトドア用品総合メーカー、「モンベルグループ」の壮年社長である。

 小学校のハイキングにも参加できない位体が弱かった。そんな彼が21歳の最年少でアイガー北壁登攀。「白い蜘蛛」とは、蜘蛛が手を広げたような形の氷壁のこと。ここで多くの人が遭難する。彼も雪崩に遭い、カメラやザイルを捨て、身を軽くして登攀に成功。日本人としては第2番目、世界的には60番目。だがその間に60人もの人が亡くなっているという。

 なぜそんな危険なことを?「神が、人がやらないことを、命をかけてもやってみたいという、好奇心の強い人間を全人口の0.5%ぐらい作ったんでしょうね」と笑う。

 だがこの命をかける登山の「リスク・マネジメント」が、そのままビジネスに役立っている。悪天候などに遭遇しても後悔せず、前向きに次の手段を考える。これもそのまま、辰野氏のビジネスのやり方。「僕には失敗という概念がありません。うまくいかなかったら他の方法を考え出すだけです」

 昨年、思い出の地、アイガーのふもと、グリンデルワルトにモンベルの店を出した。今なぜスイスに?実は、ヨーロッパの他の国でスタートした大掛かりなビジネスがうまく軌道に乗らなかった。「若い時、小さな店から始めたように、思い出の地から、コンパクトな形で再スタートしたいのです」

 しかし、次はマッターホルンのふもとやベルンに支店を出そうという展望はある。「軽いことが命を救う」というコンセプトのモンベル製品を、スイスのあちこちで手にする日はそう遠くないようだ。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 大阪にて

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