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情熱と厳格の料理人 —「今年のシェフ」に選ばれる

37歳にして頂点を極めたシェフ、ディディエ・ド・クルテン氏 swissinfo.ch

『ミシュラン』(Michelin)と並ぶ有名グルメガイド『ゴーミヨ』(GaultMillau/2006年—スイス版)で20点中19点の最高点を獲得したディディエ・ド・クルテンレストランのスイス人シェフが話題を呼んでいる。シェフの名前はレストランと同じディディエ・ド・クルテン氏。37歳の若さである。

このゴーミヨが19点を出したのは7年ぶり。ド・クルテン氏は同ガイドから「今年のシェフ」に選ばれた。「最高点の味」とはどんなものか、ヴァレー州のローヌ渓谷にあるシエールにあるレストランまで探りに行った。

ゴーミヨの権威

 ミシュランの最高点が3つ星なのに対し、ゴーミヨは20点で評価する。両者とも、テスターが毎年最低1回は訪ねてくるので、点数が落ちないようにシェフ達にとってはプレッシャーでもある。 

 2006年版『スイスのゴーミヨ』で19点に輝いたレストランは全部で8軒、18点は15軒だった。19点のレストランのシェフのうち、ローザンヌのフィリップ・ロシャ氏とモントレーのベルナール・ラヴェ氏(ド・クルテン氏の師匠)のみがミシュランで3つ星を獲得している。ド・クルテン氏のレストランはミシュランでは二つ星の評価だ。

 2003年の2月にはフランスの有名なシェフ、ベルナール・ロワゾ氏がゴーミヨで2点を減点された後、自殺した悲劇があった。料理界ではそれほど、厳しく、重要視されている。スイスのグルメ評論家はスイスのテレビで「ゴーミヨのこのような評価は今後、1年間の収益が30%上がることを保障すると共に、今後6カ月のシェフのストレスは凄いものだろう」と語っている。

食材がスター

 実際に会ってみたド・クルテン氏はゴーミヨの評する「働き者で控えめ」という形容にピッタリだった。19点獲得の感想を聞くと「もちろん、嬉しいがプレッシャーは凄いです。これを保てるかがチャレンジだ」と慎重だ。「僕たちはアーチストである前に職人です。主役はあくまでも食材ですから」とどこまでも謙虚だ。

 ド・クルテン氏は朝6時半に一番にレストランに現れ、最後に帰宅する。36人も従業員がいるホテル終着駅にはグルメレストラン「ディディエ・ド・クルテン」ともっと気軽な値段とシンプルな味のブラスリー「アトリエ・グルマン」がある。両方とも彼がシェフを務める。週末は前者が週日は後者のレストランが一杯だ。「ボスが見本を示さないと従業員がついてきませんから」。質実剛健という言葉が浮かんでくる。

誰でも最高のシェフになれる

 美味しさの秘訣を聞いてみる。「僕より10倍料理の上手な人は沢山います。誰でも1回だけ最高に美味しく作ることは出来ます。でも難しいのは1日2回、常に波なく美味しく作ることだ」という。だから、料理しているときは「厳格さ」が大事という。実行のみで創造の余地はない。真剣勝負なのだ。

味は育てるもの

 ド・クルテン氏は12歳の時から料理人になるのを夢見た。銀行員の父、看護婦の母はこれを支えてくれた。母親はレシピーから離れて自由に料理をする人だったのでそれを見て、彼も自由につくってみた。彼は小さい頃からやはり「食いしん坊でグルメ」だったらしい。「味は乳幼児の頃から育つものです。母は忙しくても、いつも手作りのものを作る人でした」

余暇が創造の時

 しかし、ド・クルテン氏の料理を口にすると彼のモットーの厳格さよりも、創造性という言葉がピッタリくる。鴨のフォアグラと酢漬け林檎の取り合わせやへーゼルナッツケーキにのった赤いカモシカ肉の「すのきの実」のジャム添えなど「こんな味がこの世にあったのか」と思うほどだ。お皿も美しく、アルプスの自然を思い浮かばせる。常に本物の葉っぱや枝、花が添えてあるのも芸術的だ。

 ド・クルテン氏は常に手帳を持ち歩きアイデアを書く。新しいメニューのアイデアが湧くのは休暇中のみ。家族と森を歩いている時や自転車を漕いでいる時だ。どんな季節のものがどういった食材と合うかを考える。現在はニュージーランドの香り高いコブミカンに夢中で、研究中だという。そのコブミカンソースが添えられた真鯛の料理の香り高さは最高だった。

 しかし、実際に新しいメニューを試作するときは「一人で厨房に立てこもり、邪魔されるのが嫌い」。完成するまでには時間がかかる。「メニューは僕が作れるだけでなく、他の人が100回も200回もできなければならないから」。飛行機の操縦マニュアルのように細かい技術ノートが作成されていく。

美味しいだけでは駄目

 「20年前と違ってグルメ・レストランに来る顧客は要求が高い」とド・クルテン氏。「美味しいだけでは物足りず、フルに五感に訴えるものを期待します。目や耳で食べることだってできるでしょう」

 ド・クルテン氏のメニューはまさにこの点で勝るようだ。先ほどの「アーティチョークに包んだ真鯛に人参のソースとコブミカンのオイル」は引き締まった白身魚の歯ごたえとカリカリの熱く揚げた人参の破片と滑らかな人参のホイップクリームソースが口の中で混ざりあり、何ともいえない食感を体験できる。舌触りにこだわるシェフのようだ。「これはなんだろう?」と想像の広がる味を目指しているという。


swissinfo、  屋山明乃(ややまあけの)シエールにて

ホテル終着駅−ディディエ・ド・クルテン(Didier De Courten)レストランとブラスリー「アトリエ・グルマン」

住所:1 rue de Bourg, Sierre/ 電話:41-(0)27-455-1351

- シエールはローヌ川の渓谷にある街で有名なスキーリゾート、クラン・モンタナに近い街。ホテル終着駅(Hotel Terminus)はシエール駅から歩いて2分の中心街にある。駐車場付き。ホテル終着駅にはグルメレストランと手軽なブラスリーの2軒がある。日曜、月曜休業。クリスマス〜新年まで2週間休業。

- ド・クルテン氏は2006年版『ゴーミヨ』ガイドで19点を獲得。8人目の最高点シェフの仲間入りし、「今年のシェフ」に選ばれた。『ミシュランガイド』では二つ星。同氏のレストランは開店まもない95年には15点、2000年から18点を獲得していたが、今春移転してまもなくの格上げとなった。

<レストラン「ディディエ・ド・クルテン」>
- メニューは90フラン(お昼のみ)、125フラン、140フラン、155フラン、185フランと同格のレストランに比べると安い方だ。

<ブラスリー「アトリエ・グルマン」ではド・クルテン氏のシンプルで手頃な料理が楽しめる>
- メニューは46フラン。お昼のランチは一皿22フラン。

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