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星降る空と華やぐ街角、光り輝くチューリヒのクリスマス

ライトアップされたチューリヒ中央駅、夜のクリスマスマーケット swissinfo.ch

比較的天気が良く、穏やかに過ぎて行った今年の秋に終わりを告げ、スイスの町では厚手のコートを着用して出かける寒い季節が訪れた。大勢の人々で賑わうチューリヒの街はクリスマス商戦へと突入し、百貨店や通り沿いのショップでは、プレゼント用商品のディスプレイや、クリスマスを迎えるための準備の品々が並んでいる。チューリヒ中央駅では11月20日より、毎年恒例となっているクリスマスマーケットが開催され、目抜き通りのバーンホフシュトラッセでは、夜のライトアップもスタートし、街は一気にクリスマスムードが高まってきた。

 ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と4つの言語と文化が融合する国スイスでは、各地域で様々なクリスマスの伝統や風習が現在も引き継がれている。一方、新しい感覚のクリスマスの行事も各地で根付いてきた。一度にすべてをご紹介する事は残念ながら難しいため、今回は筆者の住むチューリヒ州のクリスマス前の行事と、ドイツ語圏の風習などについてふれてみようと思う。

 スイスでもクリスマスが近づいてくると、子供達にとってお楽しみがいっぱい!欧州の国々では12月6日が聖ニコラスの日で、この聖ニコラスがサンタクロースの起源だとされている。スイスドイツ語圏では聖ニコラウスを「サミクラウス(Samichlaus)」と呼んでいる。サミクラウスは聖ニコラスの日に子供達の元を訪問する。スイスのサンタは赤いガウンを羽織っているところが、日本で慣れ親しまれているサンタクロースとは少し異なっており、茶色かグレーっぽいガウンでスッポリと身を包んだシュムッツリというお付きの従者を引き連れてやってくる。サミクラウスは、子供達が悪い子でなかったかどうかの確認をし、しばしお話をした後、良い子にはナッツやみかんなどを与えて、次の訪問先へと移動して行く。チューリヒ市内では毎年、聖ニコラスの日の前週の日曜日にパレードが盛大に開催され、シュムッツリと共に登場するサミクラウスは、大通りをワゴンに乗ってパレードしたり、歩きながらお菓子を配ったりして、沿道の人々と子供達を喜ばせる。

子供達の夢を乗せて走るメルリトラムでは、スイスのサンタ「サミクラウス」がお出迎え swissinfo.ch

 スイスのサンタはチューリヒの町を、トラム(路面電車)に乗っても走り回る。毎年11月の最終の週から、2014年は12月1日より、クリスマス前の23日まで「メルリトラム (Märlitram)」が運行される。メルリ(Märli)はメルヘンの意味のスイスドイツ語だ。メルリトラムに使用されているトラムは100年以上前のレトロなもので、ひと際目立つ赤い車体には、天使やサンタクロースの絵が描かれている。乗車できるのは4~10歳までの子供達で、出発はチューリヒのベルビュー地区から。路面電車での短い20分間の旅では、見送りの保護者たちとはしばしのお別れだ。車内での子供達は、サンタ役の男性運転士と、2人の天使役の女性と共に過ごす。トラムの中では歌を歌ったり、天使に童話を読み聞かせられたりしながら、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。メルリトラムは50年以上も前から毎年この季節に運行されている。

毎年限定のクリスタルのオーナメントは、コレクターもいる程の大人気! swissinfo.ch

 チューリヒの町のクリスマスを語るのに欠かせないのが、クリスマスマーケットだ。クリスマスのマーケットはスイス各地で開催されるのだが、チューリヒでは市内だけでも数カ所で開かれ、中でも有名なのが、今年で21回目を迎えた、チューリヒ中央駅構内のクリスマスマーケット「クリストキントリマルクト(Christkindlimarkt)」である。Christkindliはキリストの子供達という意味のスイスドイツ語で、このマーケットはヨーロッパで最大規模の屋内クリスマスマーケットだ。ひと際目を引く高さ15メートルの豪華な巨大クリスマスツリーは、年ごとに変わるリミテッドバージョンのクリスタルと、毎年同じものを合わせた約6000個のスワロフスキーのクリスタルで埋められ、キラキラと光り輝くその姿は圧巻。夜になるとライトアップされ、クリスタルのツリーは複数の色に変化する。ツリーを囲むマーケットには、その年の限定オーナメントを購入できるスワロフスキーの店舗の他、200以上の小さな家の形をした屋台が並び、キャンドルや装飾品などクリスマスに関連するもの、ジュエリーや衣類、アーティストによるハンドメイドの作品など、クリスマスとは特に関係の無いものまで、様々なものが販売されている。チーズやサラミなどに加え、スイスを代表するチーズ料理のラクレットの屋台なども並ぶ。歩き疲れて、休憩がしたくなった時には、グリューワイン(Glühwein)を飲んでひと休み(ドイツ語の発音では、グリューヴァインとも)。グリューワインは香辛料などを温めて作るホットワインで、主に赤ワインで作られる。シナモンなどのスパイスをきかせた、甘くてパンチのあるアツアツのワインをかじかむ手を温めながら楽しんでいると、今年もまたクリスマスが近づいてきたのだと実感する。

クリスマス前のお楽しみ、あったかグリューワイン swissinfo.ch

 装飾も雰囲気も、毎年ずっと変わらなかった印象のあるチューリヒ駅のクリスマスマーケットなのだが、昨年の20周年記念を迎えた頃から、壁に映し出される夜の光の演出や、複数の色に変化するツリーのライトアップなど、バージョンアップしており、今年もまた昨年とは異なった雰囲気であった。美しいイルミネーションをワクワクとした気持ちで眺めつつ、その傍らで、これも時代の流れなのかと感じ、ずっと変わらないと思っていたスイスが少しずつ変わっていく様子に、ちょっぴり寂しさを覚える自分もいる。

 チューリヒ中央駅でクリスマスマーケットがスタートする日、もう一つのお楽しみが、バーンホフシュトラッセのイルミネーションの点灯式。数年前まではオーソドックスな白っぽい色合いのライトであったのだが、その後、「ルーシー(LUCY)」と名付けられた星降るようなイメージのクリスマスライトにリニューアルされ、今ではこちらもチューリヒの名物となった。ルーシーの名称はビートルズの楽曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ(Lucy In The Sky With Diamonds)」にちなみ、名付けられたという。筆者はこの点灯の瞬間を眺めるのが楽しみで、今年を含めここ数年の間は、時間が許せば午後6時の点灯式を見学がてら町まで出かけている。点灯の1分ほど前になると、教会の鐘の音が鳴り響き、6時きっかりに、星を散りばめたようなライトが一斉に点灯。その瞬間、一目見物しようと集った沿道の人々の間からは、オオオッーという歓声とともに拍手喝采が沸き上がる。この日はまた、ナイトショッピングと称され、大通りの店舗の多くが営業時間延長で営業され、夜のチューリヒの街は、一層賑わう。

チューリヒ名物のクリスマスライト「ルーシー」が灯ったバーンホフシュトラッセ swissinfo.ch

 点灯式を見学した後は、シンギング・クリスマスツリーの会場となる広場へ移動した。シンギング・クリスマスツリーとは、聖歌隊が巨大なツリーのろうそくの一部となり、合唱する人気のイベントで、クリスマスの直前まで、週末を中心にほぼ毎日開催される。筆者が見学をした初日は、チューリヒ地区のゴスペルの合唱隊でスタート。期間中の土日には、可愛い子供達の聖歌隊も登場する。公式サイトより応募できる事から、筆者の知人の中にも数年前にこの歌うツリーにグループで参加した人がいるのだが、人間クリスマスツリーとなって合唱した体験は、忘れられない格別な思い出となったそうだ。この会場の周りにも屋台が並び、人々は足を止め、温かいワインを片手にクリスマス気分にひたりながら、歌うツリーを鑑賞する。

クリスマスの人気イベント、チューリヒのシンギング・クリスマスツリー swissinfo.ch

 今年もクリスマスシーズンは始まったばかり。これから約ひと月の間、チューリヒの街は、クリスマスを待ちわびる人々や世界中から訪れる観光客で、大いに盛り上がる。

スミス香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住11年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。

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