春のベルン探訪
この春、次女のパスポート更新のため、ベルンにある日本大使館を2度続けて訪れた。我が家からベルンまでは電車で片道1時間半かかるため、ただ手続きのために行くだけではもったいない。イベントと抱き合わせて、丸一日、町を楽しむことにした。
今回、1度目の訪問ではインターラーケン在住の日本人友達との再会を果たすことができた。2度目はパスポート受理の際に本人確認が必要なため、次女を伴って行き、久しぶりに親娘2人でベルン観光をしようということになった。
インターラーケン在住の友達は、実は幼馴染。2人が2歳の時に知り合い、同じ幼稚園に通った。その後、お互いの国内外での引っ越しや渡欧で物理的には離れても、ずっと交流を続けてきた。双方とも縁あってスイスで婚姻。幼少期を共有した、心置きなく話せる友人が自分同様、スイスの大地に根を張っているかと思うと、心底心強い。
まずは2人のお気に入りアジア料理レストラン「プンクト」(Punkt)で腹ごしらえ。それから、ガイドという職業柄、町に詳しい彼女の提案で、ベルン市内のバラ公園内に植えられている桜を見に行くことになった
桜の木々は奈良県榛原(はいばら)町からベルン市に寄贈されたソメイヨシノである。幸運なことに、その日はほぼ満開。世界各国からの観光客に混じり、私達も長い間、写真撮影に興じた。
公園内のカフェテラスをふと見上げると、何と、いつもこのブログ編集でお世話になっている、スイスインフォの日本人スタッフの方々が! やはり桜は日本人を惹きつけるのか、地元在住とおぼしき日本女性やその家族を他にも何組か見かけた。
バラ公園散策の後は、2009年10月にリニューアルされたベルン名物クマ公園へ。以前のクマの住まいは、殺風景な堀の中にあり、動物愛護の観点から「ベルンの恥」と呼ばれていた。私の記憶では、クマは見物客を見上げ、時には立ち上がって「餌をくれ」と媚びるようなポーズをしていて、可愛いと思いつつも時には哀れみを覚えたものだ。
新しい住まいはアーレ(Aar)川沿いの土地を贅沢に使い、自然と一体化した美しい場所、真の意味で「公園」として生まれ変わっている。見物客は上から見下ろすだけでなく、川の畔を散策しながら柵越しにクマの生活を観察することができる。ちなみに旧住居である堀はそのまま保存されており、中に降りて、クマの彫刻と記念撮影ができる。
クマを見た後は、友達と川沿いを散歩した。観光客はあまり通らないコースかも知れないが、アーレ川に沿って素朴で静かな小道があり、しばらく行くと街の中心地がある対岸に渡ることができる。そこから坂を上がって連邦議事堂の裏手に出た。
歩き疲れた体を休めるにはカフェでの「ガールズトーク」に限る。私達は有名なチェーン店を避け、老舗の静かなカフェの2階で長々と話し込んだ。ふと時計を見ると、もう帰宅時間が迫っていた。春分を過ぎたスイスはどんどん日が長くなっているため、外の景色だけでは、なかなか時間を推測することができない。
スイスの首都であると同時に国の中央に位置するベルン駅からは、スイス各方面への電車が出ており、出会いという歓喜と同時に惜別の舞台ともなっている。私達は再会を約束し、別々の電車に乗り込んだ。
2週間後、復活祭休暇中の次女と再びベルンを訪れた。日本大使館で新パスポートを受け取った後、市街地にあるパウル・クレー・センター(Zentrum Paul Klee)に市バスで向かった。小山のような3棟から成る施設は、イタリアの有名な建築家レンゾ・ピアノの設計。超近代的な造りながら、スイスの風景に上手く溶け込んでいる。
スイスを代表する近代画家パウル・クレー。私のような素人には語り尽くせないほど、その作風は独特で革新的である。このパウル・クレー・センターは、ベルン美術館に収蔵されていたパウル・クレー財団のコレクションと、クレーの義理の娘が寄贈した作品を一堂に集め、2005年6月に開館した。
私達が訪れた時は、特別展「チュニジア旅行」(展示期間2014年3月14日~6月22日)の最中であった。1914年、パウル・クレーは2人の画家、アウグスト・マッケ(August Macke)とルイ・モワイエ(Louis Moilliet)と共にチュニジアを旅行し、その体験は作風に決定的な変化を与えた。旅行中やその後に描かれたデッサンや絵画は明るく色鮮やかでユーモアたっぷり、興味深いものであった。
第一次世界大戦では多くの芸術家が戦場へと送られ、戦死しているが、その中には前出のマッケもいた。彼の戦死は、芸術家人生の転機になるはずのチュニジア旅行直後。享年わずか27歳。才能ある若者の早世は、痛ましい限りである。
普段は全くと言っていいほど美術鑑賞をしない次女は、金管楽器奏者である。優れた音楽家でもあったクレーの絵の中に「音楽」を感じ取ったのか、この展示は熱心に鑑賞して感想を述べたり、時には私のために日本語で説明をしてくれた。
その後、次女の願いでクマ公園へ。2頭のクマが陽だまりの中で仲良く寝そべっていて微笑ましかった。
快晴に恵まれたベルン訪問の2日間、親友、そして次女と楽しく実りあるひとときを過ごすことができた。両日を通して町の様々な側面に触れてみて、スイスの首都が、国の政治機能を果たすだけではなく、文化の中心地として重要な役割を果たしているとあらためて感じ入った。
マルキ明子
大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。
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