死刑囚と文通を続けて
アメリカの死刑囚と文通を続けていたハイジ・ウッツさんは最近強い衝撃を受けた。文通の相手が9月末に亡くなったからだ。
10月10日は、世界的な、また今年からはヨーロッパでの「死刑反対デー」になった。ウッツさんが属するスイスの死刑に反対する団体「ライフスパーク ( Lifespark ) 」の活動を聞いてみた。
「私が文通を続けていたマイケル・リチャードさんは49歳。20年も死刑囚として監獄に入っていました。20年というのは死刑囚としては、かなり長いほうでしたが」とウッツさん。アメリカでは38州で死刑が法的に認められ、現在の死刑囚の数は3350人で、特にカリフォルニア、テキサス、フロリダ州に多い。また1976年来1099人が死刑を執行された。
文通での交流は一方通行ではない
ウッツさんの文通相手リチャードさんが20年も収容されていたのには訳がある。看護婦をレイプして殺したという罪で捕まったが、何回か上訴を繰り返したからだ。1つには、彼は知能指数が低いという疑いがあったこと、また「無実だ」と訴え続けたこともあった。
アメリカの最高裁判所は、2002年以来、知能指数が低い犯罪者の死刑を禁止している。リチャードさんの場合、知能指数が低いと判断されるギリギリのラインより少し上にあったという。
スイスに長年住むアメリカ人の女性もリチャードさんを一度訪ねている。「彼は文字も習い、外の世界の話を聞くのが好きでした。文通を通して彼が一度も経験したことのない世界が広がったのです」と語る。
ライフスパークの主な活動は死刑囚をサポートすることにある。1993年の設立以来、800人の死刑囚と文通を行ってきた。300人のメンバーのほとんどが女性だが、男性も活発な活動を行っている。
サポートは決して一方通行ではない。「死刑囚に何かを与えるだけではなく、自分も多くのものを受け取ります。新しい世界が開けるようです」とあるメンバーは言う。しかし、死を前にした人に手紙を送るという責任の大きさも十分知っておく必要がある。感情移入もしやすい。中には死刑囚と結婚した人もいるという。
死刑反対デーの意義
有罪か否かという判断はむずかしい。「リチャードさんも無罪を訴え続けていました。しかし本当のところ、私には分からない。ただアメリカの場合、貧困階級の生まれ、ピストル文化の横行というこの2点が犯罪を助長していると思います」とウッツさんは言う。
アメリカ、中国、イラン、イラク、パキスタン、スーダンという、世界で死刑を最も慣行している6つの国から、ライフスパークが選んだ文通先はアメリカだ。言葉が最大の理由。しかし世界中の同じような団体とも協力して死刑反対のキャンぺーンを行ってもいる。
「130カ国が死刑を廃止しました。これはすばらしいことです。しかしアメリカ、中国、イランなどの6カ国は死刑全体の90%を占めているのです」とウッツさん。10月10日の「死刑反対デー」については「象徴的なことにすぎないかもしれないが、この日に個人や国家レベルで多くのスピーチが行われれば、それは大きな力になるのです」と期待する。
swissinfo、イザベル・レイボルド・ジョンソン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
「欧州評議会 ( CE ) 」は10月10日を、「死刑反対デー」に決めた。この日は世界的な「死刑反対デー」でもある。
「欧州評議会 ( CE ) 」と欧州連合( EU ) のメンバー国では、1997年以来死刑は執行されていない。しかしおよそ70以上の国がまだ死刑を執行している。
EUの統計によれば、2006年に25の国で、1591の死刑が執行された。
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