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相撲に学ぶスイスの相撲

相撲力士とにらめっこ。「相撲部屋で学んだことは今年の大会に生かしたい」 sf.tv

スイスの国技の代表格「シュヴィンゲン」は野外リングの上で男性2人が戦う格闘技。「男対男の戦い」として、アルプスの牧童たちが力比べをしていたのだが、徐々に全国に広まった。

ローザンヌ大聖堂にある絵画は、13世紀にシュヴィンゲンを描いた最も古いものとされているが、起源はエジプトとも中国とも言われているという。

スイスの国技

 白やブルーなど素朴な綿のワイシャツに、長ズボンの上に綾織りの麻布で縫われた短ズボンを重ねて履いた男たちに声援を送りながら、観客が囲む。おがくずが飛び散るたびに、観客の熱狂も高まっていく。現在は夏に各地で催されるアルプス祭に欠かせない競技として、人気を博しているスイスの伝統スポーツのシュヴィンゲンは、16世紀から17世紀には禁止されたという歴史を持つ。体をぶつけ合う格闘技をキリスト教会が嫌ったためだ。

 おがくずが敷かれたリングの上、両者は相手のズボンをつかみ、身体を組み合ってスタートする。「ブリエンツ型 ( Brienzer ) 」、「農民型 ( Der Bur ) 」といった型で相手を抱え込んで投げ飛ばし、相手の背中を地面に抑えつければ勝つ。始めに倒れても、どうにか背中を地面につけまいと体をくねらせ、逆に相手を負かすこともある。

 現在、最も有望だと期待がかけられているのはベルン州のクラブに属するクリスティアン・シュトゥキさん ( 25歳 ) だ。

巨漢、力士に飛ばされる

 シュトゥキさんの身長は17歳の時から198センチメートル。体重は現在、155キログラム。町の繁華街を歩いていても頭1つ出る。

 父親に習いながら7歳で始めたシュヴィンゲンは、兵学校の訓練中にしたけがで1年半休むことになったが、カムバックした2008年には11の大会を総なめにして優勝した。2009年にはひざの故障もあり6勝にとどまったが、3年ごとに開催される今年の連邦大会の優勝候補の第一人者と目されている。
 「 ( ファンの ) 期待は感じます。良い気持ちである一方、一人になる時間も欲しいと思ったりもします」
 今シーズン、休暇で行ったスキー場で10メートルごとに声をかけられたという。
「身体が大きいので目立ちますから。みんなぼくのことを知っているわけだし、そういったことは我慢して、感情的にならないようにしています」

 2010年正月、シュトゥキさんは相撲力士に稽古をつけてもらいに、東京に飛んだ。身長の低い相手が苦手なシュトゥキさんにとって、力士相手の練習は特にためになると思ったからだ。
 「力士たちは太いだけで、力が無いとスイスでは笑われることもありますが、それはまったく違います。機敏だし、広げた両足を見ればわかるように柔軟」

 元力士との対戦では初回はシュトゥキさんが勝ったものの、その後3回とも土を付けられた。シュヴィンゲンではぶつかり合いは無く相撲の型に慣れていないこともあるが
「( 自分より ) 小さい力士に投げられ、勝ち目が全くなかったことにびっくり。想像以上だった」
 相撲部屋では「お客様」として丁寧な扱いを受けたものの、相撲には負けた。4日目の稽古は筋肉痛が祟 ( たた ) って断念。しかし、力士と同じ部屋で3日間、ちゃんこ鍋を食べながら稽古をつけてもらい学んだことは、今年の連邦大会に大いに生かせそうだ。

地味な男たちの戦い

 「シュヴィンゲンは男と男の戦い。強い者が勝つ」格闘技であるにもかかわらず「地味で、非常にスイス的」とシュトゥキさんは言う。賞金が現金ということは少なく、伝統に従い牛が贈呈される。シュトゥキさんはこれまでおよそ20頭の牛を貰ったという。もっとも「食べるのはかわいそうなので」その場で売却した。

 シャツやズボンにスポンサーのロゴを付けることが禁止されていることからも分かるように、スポンサー制限が厳しいことも地味な一面だ。フーリガン問題を抱えるサッカーと比較し
 「観客が興奮して暴れるということもなく、平和です」
 大会はヨーデル合唱団やシュヴィンゲンと並ぶ伝統的なスポーツなども催される民族祭であり、国民が楽しむ祭りの要素が大きい。

 シュトゥキさんは子どものころから体が大きかったことから、なるべく目立つようなことはしたくなかった。けんかもしたことはないという。最近、有名になってインタビュー番組などに出演することもあるが、無口なため、3分間の持ち時間を持て余したこともある。「でも、今はだいぶ慣れました」

 普段は肉屋のトラック運転手をしているシュトゥキさんの将来について、プロ転向を示唆する報道もあるが、彼自身はそうしたことは全く考えていない。
「ぼくよりもっと練習していてもチャンスが巡ってこない仲間に対して、ぼくがプロになれば、フェアじゃないですから」
 シュヴィンゲンは男と男の戦いで、強い方が勝つ。スイスの各地方にその土地に深く根ざしたシュヴィンゲンクラブがあり、地方同士のライバル意識がある一方で、戦う男たちの間にある「人情が篤 ( あつ ) い仲間意識」を大切にするスポーツなのだと、何度も繰り返した。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

起源はエジプト、中国とも言われる。スイスの最古の記録はローザンヌ大聖堂にある絵画。アルプスの牧童が力を比べ合って戦ったが、現在は各地方のクラブに所属し、トレーナーに付いて練習をしている。
大会は毎年各地で多数あるが、6年ごとにあるキルヒベルク ( Kirchberg ) 大会、3年ごとにある連邦大会などが重要な大会だ。
白やブルーなど地味な色のワイシャツに黒、もしくは白のズボン。その上綾織りの麻布で縫われた短ズボンを履く。リングには濡れたおがくずが敷かれている。連邦大会では直径14m、おがくずの厚さ15cm以上、35立方㎡。
両者が握手した後、右手もしくは右手の指で相手の背中の中央まで、左手で相手の腰から腿のあたりをつかみ組み合って試合開始。相手を倒し、背中全体か両肩もしくは肩甲骨から下全体を土につけたら勝ち。
点数制で、勝ち9.5~10ポイント。引き分け8.5~9ポイント、負け8.25~8.75ポイントを獲得するが、意識的に戦いに消極的だったり、危険なつかみ方をしたりすると減点となる。

1985年1月21日生まれ
198cm、155kg
トラック運転手
2008年には、6年ごとに開催され、60人の強豪が集まるキルヒベルク ( Kirchberg ) 大会で優勝するなど11大会で優勝。2009年はビュリューニク ( Brünig ) シュヴァルツゼー (Schwarzsee) 、ベルン州大会、ソンセボ ( Sonceboz ) など6大会で優勝した。
今年は3年に1度の連邦大会 ( Eidg. Schwin- und Älperfest / ESAF ) が8月20~22日まで、フラウエンフェルト ( Frauenfeld ) で開催されるが、最も有力な優勝候補と目されている。

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