財政カットで懸念される犯罪増加
チューリヒ州政府が、管轄内の警察官のうち200人から1,700人をレイオフすると発表した。一方、州警察は、増加する犯罪に対応しきれないと、今回の州政府の発表を批判している。
州政府は、今回の警察官のレイオフを財政支出削減計画の一部として発表した。
チューリヒ州警察組合委員長、ピーター・ラインハルト氏は、今回の州政府の発表について、「犯罪防止の観点から言えば、冗談のような話だ」と語る。州警察長官も公式に非難を表明している。ドイツ語圏日刊紙アンツァイガー紙のインタビューによると、ピーター・グリューター州警察長官は、「200人の警察官削減でさえも社会の安全に与える打撃は深刻だ」としている。今回の警察官人員リストラは、州政府の財政赤字削減計画の一環として発表された。
逼迫する州の財政状況
州政府の人員リストラ計画によると、今後4年間で200人から1,700人の警察官がレイオフの対象となる。グリューター州警察長官は、このリストラが実施された場合、今のようにチューリヒ市警察と協力関係を保つことは不可能になると予測する。
たとえば、州警察と市警察は現在、協力しながら犯罪率の高い赤線地域のチューリヒ市ラング通りの見回りなどを行っているが、「少ない警察官では、麻薬の違法取引に厳しい対処をしていくことは難しくなるだろう」とグリューター州警察長官は語る。
また、複数の警察官も、「人員削減は、強盗や交通事故などへの迅速な対応にも影響する」とみている。現在、すべての主要道路にスピード制限のチェックが行われているが、これも一部の地域に限られるようになるだろう。
現在でも犯罪は増加傾向
今回の警察官人員リストラ計画が発表された2ヵ月前には、チューリヒ州における暴力犯罪数の大幅な増加が発表されたばかりである(2004年統計)。
前年に比べて、暴力犯罪は27%増加、このうち殺人や重体などの深刻なものは100%増の987件となった。
チューリヒ州警察官のマルセル・スーター氏は、2月にこの数字が発表された時点で「この傾向は今後さらに悪化すると思われる」と語っている。チューリヒ州政府は、スイスの他の地域の例にもれず、深刻な財政赤字に苦しんでいる。日本円で何億円もの赤字会計はほとんどコントロール不可能なほど急速に悪化しているのだ。
しかし「州政府や連邦政府は、会計の収支ばかりにとらわれすぎて社会の安全を軽視している」「不必要な人員削減だ」と非難する向きは多い。
責任の所在は誰か
一方で政治アナリストのハンス・ヒルター氏は、スイスインフォのインタビューに対し、以下のように語る。「政府というものは、そもそも会計の収支をいかに合致させるかが仕事なのですから、この非難はお角違いというものです」
「財政コスト削減に関して、責められるべきは政府ではなく政治家でしょう。そして、スイスの有権者もこの責任に無関係ではありません。増税や予算補填税政策が焦点となる投票ごとに、有権者はいつも否定的な態度を取ってきましたからね」
「最も非難されるべきは、もしかしたらスイスの富裕層かもしれません。彼らがこのような財政コストをまかなうほどの増税に我慢できれば、問題は解決するのですからね」
swissinfo 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
—チューリヒ州政府は200人から1,700人の警察官の人員削減を発表。
—州警察長官は、この計画が実施された場合、現状の治安維持は難しくなるとコメント。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。