貼るだけじゃなかった、スイスの美しい切手たち
2014年は、日本・スイスの国交が樹立されて150周年を記念する特別な年である。1864年2月6日、双方の間で修好通商条約が締結され、国交が樹立された。今年は上記を祝うべく様々なイベントや催しも各地で開催され、大いに盛り上がっているところなのだが、このような記念時に必ず登場するのがスイスの切手だ。
条約が締結されて150周年の今年2月6日、日本とスイスで、一部を共通のデザインとする特殊切手が両国で共同発行され、スイスでも話題を呼んでいる。今回は、切手収集家でなくとも魅力に引き込まれてしまいそうな、美しく、時には遊び心さえも感じられるスイスの切手について少しご紹介をしてみようと思う。
両国が共に発行した切手のデザインは、「富士山と桜」「スイスの山の春」と、それぞれの国の美しい春の自然美が描かれている。スイスで発売されたものには、発行された日にちのスタンプ付きのものもある。スイスでは特殊切手を販売する際、コレクター用に保存版として発売日が印字されたものと、記念スタンプ無しの2種類が同時に発売される事が多い。
スイスでは新しいデザインの切手は年に4回、数種類が同時にまとめて発行される。スイスの切手はデザイン性や印刷技術が優れている事もあり、古くからコレクターばかりではなく利用者たちの間でも高い評価を得てきた。特殊切手の多くは観光地を含むスイス各地の記念行事やイベント、祭り、地域産業の様子を表す内容や、時には人物像なども登場し、各切手には古代ヨーロッパ中央地域(現代のスイス西部)のローマ名である「HELVETIA(ヘルヴェティア)」の文字が刻まれている。
歴史を辿ると、1943年から1949年にかけて発行された「アルプスの高山植物シリーズ」は、スイス人画家、ハンス・フィッシャーによって、20種類の美しいアルプスの高山植物と花々が描かれ、古くから収集家たちを魅了し続けた。
通常、スイスの切手の形は日本と同様に四角形だが、過去にはミツバチの絵が描かれた六角形の切手が発売された事もある。切手が発表された2011年は、スイスの養蜂家たちで形成される養蜂家組合の150周年を迎える記念すべき年であり、記念切手を六角形にした理由は、蜂の巣の形を強調するためであったのだそうだ。
特殊切手の中でも特に印象に残るものを例に挙げてみると、2000年にザンクト・ガレン州で製造された、世界初となる刺繍の切手が印象深い。この切手はポリエステル素材の布地に本物の刺繍が施されており、切手ファンでなくとも興味深い美しいもので、収集家の間でも稀少価値の高い切手である。こちらも記念スタンプ付きのものと、スタンプ無しのものの両方で発売された。手の平にちょうど乗る程の大きさの刺繍切手は布地の厚みもあり、貼る部分はシール式ではがせるようになっている。限定版の5フラン切手なので、実際にこれを貼って手紙を出す事も可能だ。
実は筆者がこの切手について知ったのは数年前の事。たまたま視聴していた日本のクイズ番組でスイスが取り上げられており、出題された問題によると、「5フラン程度で購入できる、スイスならではとも言える特別なものとは何?」というような内容であったと記憶しているのだが、その正解がこの切手であった。刺繍がされた世界初の切手という部分に非常に興味を持ち、この切手について調べてみた。
世界初となる刺繍切手が発売されたザンクト・ガレンは古くから刺繍産業を含む、織物・繊維産業で栄えた。現在町には、ヨーロッパの代表的なレースの産地から集められた作品や、東スイス地方で発展したレース等、約3万点ものコレクションが展示される、世界的に有名な博物館も存在する。そもそも刺繍切手のアイデアは、1700年頃にヴェニスで製造されたレースの縁取りのある飾りや、18世紀に男女の首の回りを飾ったバレンシア・レース編みなどからヒントを得て実現したのだそうだ。そんな背景もあり、世界初となる刺繍の切手は莫大な投資の元、ハイテクで革新的な生産プロセスを使用して完成し、2000年6月、同市の国立切手展示会の開会式で公開された。
この切手を発売日のスタンプあり/なし、共に偶然手に入れる事ができた自分には、それらはもったいなくて、時々手に取って眺めつつも、ずっとしまっておきたいような気分にもかられる。
2007年にはスイスが誇るテニス界の王者、ロジャー・フェデラーがウィンブルドンで優勝し、トロフィーを掲げている姿を表した切手が発行された。これは同選手が世界で初めて、3年続けて世界ランキングの1位を維持したという偉大なる功績に敬意を表したもので、過去に発売された人物像としては、故人を除いて初めての試みであったのだそうだ。
2009年にスイスチョコレート製造業者連盟の創立100周年を記念して発行された切手は、表面部分を軽くこすると、チョコレートの甘い香りが漂う…等、ユニークなものが発売された事もある。年に数回、限定で販売される事の多い、スイスの観光名所や、象徴でもある花々、鉄道などを表す美しい景色が描かれた切手も見逃せない。
記念切手の中には、数枚の切手が組み合わさり、まるで物語のように1枚の絵図を形成している興味深い内容のものある。美しいデザインや興味深いテーマが盛り込まれたスイスの切手は、それを貼った手紙を受け取り、喜ぶ人々の笑顔が思い浮かぶようだ。
次回はどんな趣向を凝らした切手が発表されるのか、季節の風景や時事に関した切手を目にするのも、とても楽しいものである。
スミス 香
福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住10年。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、ブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より毎日更新中。
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