赤十字国際会議、福島も災害法強化の教訓に
4年ごとに開催される「赤十字・赤新月国際会議」の第31回会合がジュネーブで11月28日にスタートした。187カ国の赤十字・赤新月社の代表、194のジュネーブ条約加盟国の代表など約2000人が一堂に会し、東日本大震災の教訓も生かした災害法強化を一つの決議案に掲げた。
また、紛争地の犠牲者の法的保護や人道活動に従事するボランティアの法的保護など、法的側面から人道活動を守り国際人道法を強化していく。
「人道活動は今日困難を極めている。人道援助が以前にも増して求められているにもかかわらず、人道援助活動を行う人の安全が脅かされている」と、同会議の開催演説で、スイスのミシュリン・カルミ・レ大統領は語った。
実際、今日の人道援助活動の大きな課題は、病院が爆撃の標的になったり、ボランティアの活動家が危険にさらされるなどの事態にどう対処していくかだ。
こうした状況を踏まえ赤十字国際委員会は、最近アフガニスタン、リビア、コロンビアなど16カ国で起きた約650件の事件を提示し、人道活動を守る法的枠組みの強化を今年の議題の中心に据えた。
一方、国際赤十字・赤新月社連盟は、ここ2年の大災害、ハイチ地震、パキスタンの洪水、東日本大災害での救助活動の反省から、2007年のガイドラインを再活用し、各国の災害法の強化を訴える。
以下、国際赤十字・赤新月社連盟の副事務局長マティアス・シュマール氏に、災害法の強化を中心に話を聞いた。
海外からの援助受け入れ法
災害法の強化とは、結局「各国がその国の法律を強化し、災害に向けて準備すること」を意味する。
このためにすでに2007年にガイドラインが作成さた。しかし、メンバーの約180カ国中20カ国だけが国内法を強化しているという現状に対し、シュマール氏は、「新しいガイドラインを作成するのではなく、2007年のガイドラインを活用するよう促し、そのために材料を提供する」と話す。
具体的には、ガイダンスとして法作成のモデルを示し、一つまたはいくつかの法の作成を促し、どの分野でどういった法が適切なのかを示していくと語る。
こうした法律の一つに、国際的援助受け入れのための準備としての法律の改正または作成があるという。
「ハイチ、パキスタン、日本で我々が見たのは、国際的援助に対する受け入れ体制の不十分さだ。例えば、海外からの援助はありがたいが自分たちでできるので必要ないという返答だ。日本のような組織化された国ですらそうだった。海外から援助に来る人や組織に対し、受け入れの法的な制度化と受け入れ機関の設置が今後必要とされている。こうした準備は必須だと痛感した」
土地の所有権問題
さらにもう一つの課題は、災害で破壊された後の土地の所有権問題だ。
ハイチ地震の例でも、地震で崩された後に津波ですべてが押し流された日本でも、自分の家がどこにあったのかも分からない状態が問題となった。さらに土地の所有を明示する法的書類も失われた。そうした場合を見越しての法的制度の準備が必要だ。
「インドネシアで赤十字が一番援助し、また苦労したのは、実は土地の法的所有権を認めてもらうことだった。これは新しい法的分野だが、各政府に働きかけ、法の制度化を促したい」
災害発生地域に対策決定権を
「これは新しいことではないが強化したい部分だ」とシュマール氏が言うのは、地方政府の対策決定権とその法的強化だ。
中央集権化した日本のような国の場合、特にそうだが、地方政府も(法的な)準備を整えなければならないということだ。なぜなら、「災害はいつでもどこでも起こる。従って災害の起こる場所に最も近い所にある自治体(県や市、村)の政治的決定者に決定権を与えることが最も被害を少なくし、災害援助に応えることができる」からだ。
そのためには財政的にも地方政府に対し十分な資金配分が必要で、そのための法改正があってしかるべきだという。「これは、各国の政府を批判するのではなく、今後準備をした方がよいと呼び掛けたいだけなのだ」と念を押す。
例えば、今回福島原発でメルトダウン(炉心溶融)が起こった際に、いくつかの周辺の自治体は安定ヨウ素剤のストックがあったにもかかわらず、子どもたちに配布しなかったといわれている。それは県など「上からの指示」がなかったためだ。
「それは典型的な例だ。もし自治体に安定ヨウ素剤を配る決定権を与える制度が整っていれば可能だった。もちろん特別な状況では全員が混乱状態だ。しかし混乱することを見越しての命令体系や法的制度の準備が必要なのだ」
原発による災害にも取り組む
ところで、災害での人道援助という観点からは、また多くの子どもが災害に苦しんでいるという人道的観点からは、自然災害のみならず原発事故の放射能被曝も赤十字の災害援助の対象になるのではないだろうか。
これに対しシュマール氏は「赤十字国際会議に先立つ、先週の赤十字の年次大会で、核による災害についても準備を行うことを決議した」と語る。
チェルノブイリやその他の数件の事故、またフクシマから学び、特に原発を所有する国の赤十字社は、政府や関係当局との情報の共有化を含め、政府と一緒にどのように問題解決を行うかを(4年後の大会を待つのではなく)、直ちに検討することになったと話す。
この決議を受け、来年の5月には日本赤十字社が中心となって日本で会議を開き、具体的な対策を話し合うという。さらに「現在の国際赤十字・赤新月社連盟の会長近衛忠煇氏はこの問題に力を注いでいる」と付け加えた。
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と赤十字国際委員会(ICRC)が合同で開催する4年に一度の国際会議。
2011年11月28日から12月1日までジュネーブで開催。
187カ国の赤十字・赤新月社の代表、194カ国のジュネーブ条約加盟国の代表が参加し、総勢約2000人が一堂に会する。
4年前の決議を検討し、今後4年間の計画を立て、その決議案を採択する。
今年は国際人道法と人道活動の強化を共通課題に、主に紛争地における犠牲者の法的保護の強化、各国の災害法の強化、緊急活動に従事するボランティアの保護、紛争下などでの医療サービスの保護強化を目的に決議案を採択する。
なお、赤十字国際委員会は、最近アフガニスタン、リビア、コロンビアなど16カ国で起きた約650件の事件を発表し、議題の根拠とした。例えば病院が爆撃され医療サービス従事者や患者などが負傷する事件が相次いでいる。
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