難民に魅力のない国へ
右派、左派の両方から疑問の声が上がっているにもかかわらずスイス政府は5月26日、難民受け入れの審査のスピードアップとその条件を厳しくする法案を議会に提示した。
「スイスは難民にとって魅力のない国にならなければならない。そのためには審査を迅速に行う必要がある」とエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ法相は語った。
簡素化で魅力を低下
政府は、これまでの「複雑で分かりにくい制度」を簡素化したい意向だ。難民申請までの期限を短縮し、複数の申請は認めないといったことが新しく盛り込まれている。また、ヨーロッパ諸国で唯一スイスは在外大使館でも難民申請を受け付けていたが「非常に経費がかかる」ことを理由に、この制度を廃止するという。再審査を求める期限をこれまでの30日間から15日間に短縮することも提案されている。
難民の受け入れ条件も厳しくなり、例えば、自国での兵役の拒否もしくは軍隊からの脱走といった単一の理由は認めず、非人道的な扱いを受ける恐れがある場合のみ認めるという。難民として認められた人がスイスで政治的活動をすれば罰し、それに加担した人も処罰の対象となると提案されている。
反対意見沸騰
難民受け入れ申請件数は2007年には1万844件だったが、2009年には1万6005件に増加した。おもな出身国はナイジェリア、エリトリア、ソマリア、イラク、スリランカ。2008年に改正した法律では、いったん申請を却下された人の再審査のスピードアップが行われたが、今回の改正案はより厳しい内容だ。
ヴィトマー・シュウルンプフ法相は「保護が必要な人はこれまで通り申請が認められる」と語るが、反対意見が沸騰している。スイス難民評議会は
「審査のスピードアップで難民にしわ寄せが行くことは非常に残念だ。すでに能率化された現行制度でさえ短すぎる」
と反発している。また、アムネスティー・インターナショナルスイス支部のデニス・グラフ氏は「在外大使館が難民申請を受け付けないのは非道」と非難。
「保護を必要とする人たちが住んでいる近くの大使館に難民受け入れの申請ができなくなると、長く危険な旅をすることになる。アムネスティー・インターナショナルは、スイス大使館があったからこそ助かったトルコやコロンビアの難民を弁護してきた」
と指摘した。
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