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高速道路上の考古学

旧病院博物館(Musée de l’Hôtel-Dieu)、1761年建造。美しいバロック様式の建築物で一見の価値あり。建設当時から1956年まで病院として使用されていたが、現在は博物館を初め、図書館、市観光局、文化センターなど、重要な文化施設が入っている swissinfo.ch

この春からジュラ州で面白い展覧会が開催されている。タイトルは「古代のA16」(Archéo A16)。Aは高速道路(フランス語でautoroute、ドイツ語でAutobahn)の頭文字、A16は、フランス-スイス国境のデル市(Delle、フランス側)-ボンクール村(Boncourt、スイス側)からジュラ州を横断し、ベルン州ビエンヌ/ビール(Bienne/Biel)に達する、高速道路(全長85km)の名称である。1987年から現在まで続いているこの工事より1年早く始まった発掘調査は高速道路建設予定地で順に行われ、調査と発掘物の保存が終了したところから道路を敷いている。この展示を通して、27年間の発掘成果が初めて大々的に公表されることになった。

 「古代のA16」の特色は、ジュラ州内の4つの博物館でそれぞれ違う種類の物質をテーマとした展示が成されていることだ。展示計画は、発掘の総合責任者でもある、ジュラ州文化局・考古学部門主任ロバート・フェルナー(Robert Fellener)博士を中心としたプロジェクトチームによって進められた。先日、フェルナー博士の講演会に行ってきたが、ジュラの考古学の夜明け・歩みからA16上の発掘にまつわる逸話まで、素人にも分かりやすい内容だった。

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 ジュラ地方での発掘は19世紀より行われてきたが、当時は学者が個人レベルで進めており、やり方もまちまちだった。バーゼル大学が介入した本格的かつ計画的発掘は1968年から始まったに過ぎない。1982年、州レベルの投票にて70%以上の支持を集めてA16建設が正式に決定すると、考古学的・古生物学的大発見の可能性が高いとされる建設予定地域の発掘計画が発足し、州は、前代未聞の広大な面積の発掘に着手することになった。以来、この壮大な計画と気の遠くなるような作業は、ジュラの考古学・古生物学発展に拍車をかけ続けている。

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 現在に至るまで探査のために掘った溝は8054箇所にも及び、そのうち拡張採掘調査は44箇所、発掘物は64万4318個に上っている。この工事には、これまで短期・長期勤務者合わせて513人が関わった。高速道路A16は2013年7月15日現在、69%に当たる59kmが開通、全面完成予定は2016年ということである。

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「古代のA16」展覧会の場所・日程とテーマは以下の通りである。

セーニュレジエ(Saignelégier)市 レ・セルラテ自然センター(Centre Nature Les Cerlatez)2013年5月4日~2014年11月2日 ― テーマ「骨」

ポラントリュイ(Porrentruy)市 旧病院博物館(Musée de l’Hôtel-Dieu)2013年5月4日~2013年9月1日 ― テーマ「土」

ドレモン(Del émont)市 ジュラ芸術・歴史博物館(Musée jurassien d’art et d’histoire)2013年5月4日~2013年8月4日・既に終了 ― テーマ「金属」

ポラントリュイ(Porrentruy)市 ジュラ自然科学博物館(Musée jurassien des sciences naturelles)2013年7月12日~2014年3月31日 ― テーマ「石」

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 このうち、「土」と「石」の展示を見に行ってきた。

 「土」の会場は旧病院博物館(Musée de l’Hôtel-Dieu)。1761年建造で、ポラントリュイを代表するバロック式建築物の一つである。展示では、復元された土器、織機の部品、ビーズなどのガラス製品、瓦など、多岐にわたる発掘物が見られる。

 「石」展示があるジュラ自然科学博物館は、学校の社会見学や遠足でもよく利用され、恐竜の化石コレクションや動物の剥製の豊富さで定評がある。「古代のA16」展示室では旧石器時代からローマ時代までの発掘物と、マンモスや太古の動物達の遺物(歯や骨など)が陳列されている。天気が良ければ、建物を取り囲む緑豊かな庭園で休憩するのもよいかも知れない。

 これらの博物館を「はしご」すると、1つ目は7フラン、2つ目からは4フラン(常設展込み)で見学できるという仕組みである。(同日の訪問でなくても可)両博物館共、常設展も見ごたえがある。皆様にも、まだ暖かな季節のうちに是非各博物館に足を運んでいただきたい。

 実は、前出のフェルナーさんは1年半ほど前から日本語を学んでおり、日本の歴史にもかなり詳しい。彼は、日本同様、スイスの地域考古学は非常に発達していると認めながらも、連邦制度であるがゆえ、州によって発展のペースにばらつきがあることは否めないと語った。また、彼は日本の古い侍映画が好きで、ダマスク(刃の上にある波状の模様、錵=にえ)が浮かび上がる日本刀は、A16建設予定地でたびたび発掘される、ジュラの鍛冶屋が製造していた剣を思い起こさせると教えてくれた。

 近年スイスでは日本に興味を持つ人が増えつつあるが、来年初来日予定のフェルナーさんは、考古学を通じてスイスと日本との共通点を見出し、日本に対する理解をより深めようとしている。

 記事執筆に関し、ご協力いただいたフェルナーさんに厚く御礼申し上げます。

Je remercie chaleureusement le responsable de l’Archéologie A16, Monsieur Robert Fellner,  pour son aide.

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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