スイスで暮らす65歳以上の人の約16%が貧困層に分類される。その現状を探った (SRF/RTS/Julie Hunt, swissinfo.ch)。
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この16%という数字は、国連、世界銀行、国際労働機関(ILO)やギャラップ世論調査のデータを元にした最新の「グローバル・エイジウォッチ指数」と、スイスの高齢者支援団体「プロ・セネクトゥーテ(Pro Senectute)」がはじき出したものだ。
スイスは国民1人当たりGDPで世界第3位なのに、である。
定年退職した人は全員が国民年金を受け、多くの人はそれに加えて厚生年金も受け取る。しかし厚生年金がない人の場合、追加の経済的支援が必要になることが多い。14年末の時点では、年金受給者約19万3千人が年金にプラスして補足給付金を受け取っていた。これは年金受給年齢の全人口の12.4%に相当する。老人ホーム入居者の2人に1人がこの補足給付金を受給していると推定される。
補足給付金の目的は最低限の生活を保障することだ。しかし、家賃と公共料金が01年比で約2割上昇したのに対し、給付金額はそれに合わせて調整されていない。連邦議会(国会)では、今後の年金財源について議論が続いている。
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子供の貧困問題、豊かなスイスにも存在
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5歳になるニールス君は、いつもお腹を空かせているわけではない。自分の部屋もあれば衣服も清潔で、サッカーの練習にも通っている。しかし母親の収入だけでは暮らしていけないため、公的扶助を受けている。
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スイスの医療保険制度、貧困の一因か?
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スイスの医療保険制度は、世界で最も優れたものの一つとして知られている。だが、 医療問題が多くの国で議論される現代において、スイスの同制度は低所得層にも高所得者にも適したものなのだろうか?
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「貧しい人々のための店」 物議を醸した1号店オープンから25年
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この豊かな国、スイスに「貧しい人々のための店」は必要だろうか?人道援助団体カリタスが運営する食料品店「カリタス・マーケット」の1号店をバーゼルにオープンした創立者の1人が、その成り立ちを語った。オープン当時は「スキャンダル」として物議を醸したこの店も、今では多くの人々にとって欠かせない存在へと発展した。
「ほら、ここにはまだ当時の名残が残っている」。建物の表構えにある刻印を指しながらクリストフ・ボッサートさんは言う。プレートには1992年、スイスに初めてオープンした、貧しい人々のための食料品店の名前が刻まれていた。「初めはこの店を『カリザット』と呼んでいた。これは『カリタス』と『ザット(満腹)』を繋げた造語だ。だが結局このネーミングは定着せず、今ではカリタス・マーケットで通っている」とボッサートさんは話す。
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バーゼル大学の社会学教授でもあるメーダー氏は、数十年間、貧富の格差問題について研究している。 「ベルリンの壁の崩壊は、世界の貧困撲滅において相反する二つの影響を与えた。資本が全てを支配するようになったからだ」とメーダー氏…
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シニア世代 ネット利用なしでは社会的孤立の可能性
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シニア世代のインターネット利用はスイスでも増えているが、ネットを利用しない高齢者は依然として多い。こうした人たちは重要な情報源にアクセスできず、社会的にも孤立する可能性があると、専門家らは警告を鳴らしている。
高齢者支援基金団体プロ・セネクトゥーテの委託でチューリヒ大学老年学研究所が調査したところによると、高齢者のネット利用者数はこの5年間で47%増加した。
つまり65歳以上の半数が現在ネットを利用していることになる。しかし全人口のネット利用率は2015年で88%になり、シニア層の利用率と大きな差がある。
「インターネットは現在、私たちの日常生活の大部分を占めている。シニアたちもその恩恵を受けようとしている」と、プロ・セネクトゥーテ役員のベアトリス・フィンクさんは言う。
高齢者にとってタブレット端末は使いやすく、こうした電子機器を使ってネットに接続する高齢者が今後数年で増加するとプロ・セネクトゥーテは予想している。
高齢者がネットを利用する目的は主に、電子メールのほかに、旅行や行政や健康に関する情報の収集などがあるが、ソーシャルメディアはあまり人気がない。オンラインショッピングは特にセキュリティ上の理由からあまり利用されていない。
ネットに接続しない人は2タイプ
高齢者のネット利用率は増加しているが、高齢者の44%はいまだにネットを利用しておらず、65歳以上の高齢者の中でも大きな差がある。65歳から69歳までのグループのネット利用率は全人口の利用率とさほど変わらなかった。
ネットを利用しない高齢者は二つのタイプに分けることができると、今回の調査を率いたチューリヒ大学老年学研究所のハンス・ルドルフ・シェリング所長は説明する。
「一つ目は、技術に関心はあるが遠慮しているタイプ。(ネットが)難しかったりお金がかかったりするのではと心配する人たちだ。こうした人たちにはサポートが必要。周りの人たちが実践面で手助けしたり励ましたりしないと、なかなかネットを利用できない」
二つ目のタイプは「ネットに興味がなく、自分ではその利便性に気づかない人たち」で、多くの人がこれに当てはまるという。
調査ではさらに、ネットを利用していない高齢者の15%が、今後は孫のためにネットを利用するつもりでいることがわかった。また、ネットを利用しない高齢者の半数以上が身近な友人や家族に頼んで、ネットで情報を調べてもらっていることも判明した。
ネットを利用しないリスク
「インターネットに接続できないと、行政や健康・予防対策に関する情報が今後ますます得にくくなる可能性がある」とフィンクさんは指摘する。
そのため、プロ・セネクトゥーテではこうした問題に対する意識を高めるための活動をしており、ネット利用に関する講座も開いている。中でもスイス連邦鉄道と共同で開催される講座は人気があり、チケットをオンラインで購入する方法などが学べる。
ほかにも、高齢者が運営するコンピュタリアスという協会では、スイスドイツ語圏で高齢者向けの講座を開いたり助言を行ったりしている(プロ・セネクトゥーテが一部支援)。
チューリヒにあるカトリック教会のコミュニティーセンターでも高齢者向けのネット教室が開かれており、記者が取材に訪れた日は老齢の女性数人がノートパソコンに向き合っていた。
仕事でパソコンを使っていたという参加者は、外国にいる家族とインターネット電話で連絡を取ってみたいという。また、別の参加者はあまりパソコン経験がなく、「夫はコンピューターの専門家」という人もいた。
技術の発展と将来
この教室の講師を務めるのは、以前はプログラマーだった67歳のドロテー・ランドルトさん。インターネットの利用が増えている背景には技術発展があるという。
「昔はコンピューターが今よりも格段に高価だったため、人々はなかなか手を出せなかった。そのためコンピューターは、本当に欲しいという人しか所有していなかったが、今では誰もが1台は持っている。ウェブサイトもはるかに使いやすくなった。また、コンピューターを使うのに専門知識はもう必要でなくなった」
チューリヒ大学老年学研究所の調査では、新しい技術が常に登場するので高齢者のネット利用は今後も増え、世代間のギャップは、なくならないとしても縮小するとの見通しが出ている。
だが、ネットを今後も利用するつもりのない高齢者が社会的に孤立してはならないと、シェリングさんは指摘する。
「インターネットが使えなかったり、使う気がなかったりする人たちのために、例えば銀行の窓口など、(ネット以外で)情報にアクセスできる方法を確保しておかなければならない」
国際比較
スイスはヨーロッパの中ではインターネットを利用する高齢者の割合がかなり高い。高齢者のネット利用に関する調査を率いたチューリヒ大学老年学研究所のハンス・ルドルフ・シェリング所長によれば、スイスでの割合はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、オランダ、デンマークなどの国よりは低いが、フランスとドイツよりも高く、イタリアはスイスよりもかなり低い。文化的背景や所得の差などがその理由だという。
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