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16種目のスポーツを無料体験! スポーツ祭り@バーゼル郊外

開催日の数日前に、ポストに入っていた案内のチラシ。この地図に会場が示されているので、各自それに従って好きなところへ行く swissinfo.ch

何かスポーツを始めたい人にはもちろん、家族皆で楽しむにはうってつけのイベントがある。好きな種目を選び、初心者なら手ほどきを受け、必要最低限のルールを覚えたら、試合のまねごとまで体験できる。この「スポーツ祭り(Sportfest)」、バーゼル市および周辺の町で行われている。ここでは、私の住む町のスポーツ祭りをご紹介したい。

 夏休み最後の日曜日、朝10時。スポーツウエアを着た夫、娘、そして私は張り切って家を出た。夫は「優勝を目指して頑張るぞ!」と言うが、それは冗談。勝ち負けにこだわることなく、体を動かし汗を流して楽しめるのが、このイベントの良いところだ。

 「スポーツ祭り」の主催は町のスポーツ委員会。この小さな町に点在する、16のスポーツ団体が協力している。体験できる種目は、サッカー、ハンドボール、ユニホッケー、射撃、インディアカ、卓球、サイクリング、水泳、ローラースケート、柔道、護身術、エアロビクス、体操、フラダンス、バドミントンなどなど(年によって若干変わる)。事前の申し込みは必要なし、費用も一切かからない。必要な道具はすべて揃えてある。

 参加方法だが、まずは受け付けで参加カードをもらい、名前や住所を記入する。カードの下部に6つスペースがあり、1種目終わるごとにスタンプを押してもらう。時間は10~16時まで。

受け付け。メイン会場である町の体育館前の広場に設けられている swissinfo.ch

 私たちはまず、体育館を覗いてみた。バレーボールかと思いきや、バドミントンの羽根のようなものを打ち合っている。これは「インディアカ」という競技なのだった。私たちが眺めていると、彼らも寄ってきて言う「どうぞ、やってみませんか。簡単ですよ」。熱心な勧誘を受け、私たちはインディアカに挑戦することにした。

インディアカ。協会の方々は、みな白髪の混じる初老の男女混合という顔ぶれ。つい、簡単なのかなと思ってしまった…… swissinfo.ch

 まずは球の打ち方から。基本的に片手で、ほら、こうやって下から上へ……私たちはその男性に教わりながら、4人で打ち合いをして慣れていった。続いて、試合に挑戦。インディアカ協会のメンバーは、ワインレッド色のユニフォームを着ている。ふだんから鍛えているだけあって、返ってくる球も実に正確である。力の入れ具合がわからず、私たちはまずシュートからして相手コートに届かない。なのにいつもシュートを打たせてもらい、何度も球に触らせてもらい、細かい指導を受けながらの試合。ほんの数分だったろうが、緊張にさらされ、汗だくになった。いつまで続くのだろう・・・と不安になったところで、夫が「じゃあ、この辺で。ありがとうございました」と切り上げてくれた。選手1人1人と握手を交わし、参加証明のスタンプをもらう。興味があったらと、インディアカ協会のチラシをくれた。毎週金曜日、この体育館で練習をしているという。

卓球。箱に入れてあるラケットと球を取って、どんどん参加していく。インディアカと違って、卓球は笑顔で誘われることもなかった swissinfo.ch

 地下では、「卓球」をやっていた。町の卓球クラブのメンバーが担当だが、大人2人以外は全員小学生。

 私たちはまず男の子2人と、5人で卓球台を囲み、飛んできた球を打っては右に移動する、というルールでプレイをした。休む暇なく打ち続ける破目になり、目も回って、早速ヘトヘト。とんでもない方向へ飛ばす私たちに対し、彼ら2人の安定したショット。

 タイミングを見計らって、横へ移動。球をラケットに乗せ、落とさないように歩いたり、平均台に乗ったりする、というゲームが用意されていた。娘がそこで遊んでいる間、私たちはベンチで休憩。そして無事、スタンプをもらう。

 去年は、上の階で社交ダンスをやっていた。残念ながら、ダンス協会は今年参加していない。そろそろお昼だと帰途についたが、途中、「射撃」に寄ることに。今年は、私も初挑戦してみた。

射撃。これがスポーツかと私なんぞは思うが、実は毎年いちばんの人気で、なかなか順番が回ってこない swissinfo.ch

 そこは町役場分館の地下室で、面積は50平方メートルほど。台に固定されたエアピストルが4丁と、自分の手で持って撃つエアライフルが4丁。ピストルクラブの方々はみな赤いTシャツを着ていて、ごく普通に見える男性。とても射撃をするようには見えない。中には女性もいる。

 まずはエアピストルで、照準の合わせ方を教えてもらう。1点で支えているだけなので、とにかくグラグラする。ちゃんと中心に合わせようと苦心して、著しく目が疲れた。私は10発でやめておいたが、続いて夫と娘はエアライフルへと移動。両腕を伸ばし、銃を体から離して撃つのだが、かなり重たく、持っていること自体が難しいのだそうだ。

合ったかなと思った瞬間、即座に軽く指を動かすだけで、弾が一気に飛んでいくのが、意外に快感ではある swissinfo.ch

 的中率を紙に記入して、最後にスタンプをもらう。ミリタリー経験のない夫の、意外な腕の良さに驚く。しかし結果より何より、自分の手でピストルを撃ったという体験に満足する。

 昼食後、小学校の体育館へ。夫と娘は「護身術」を、私は「体操」を選ぶ。その体操が、昼食後の消化に最適だったのである。参加者は全員60~70代とおぼしき方々。先生も白髪だが大変エレガントな女性で、背筋をピンと伸ばし、動作もきびきび、見ていてすがすがしい。音楽に合わせて動くのだが、音楽を口ずさむ人、うまくできずに笑い出す人と、和やかな雰囲気の中で楽しんだ。帰り際、体操協会のチラシをもらう。ここで毎週水曜日にやっていると、お誘いをいただく。

 夫と娘は、マットに寝転んで護身術にいそしんでいた。夫は空手家で、ほかの武道にも興味しんしん。汗だくになり、力を込めて先生の持つ盾を蹴り上げていて、楽しんだ様子。私はやらなくて正解だった。

この「柔道」だけはなぜか参加が子供限定だった。あとはすべて、年齢に関わらず誰でも参加できる swissinfo.ch

 残り、あと1時間。別の学校の体育館へと移動。

 まずは、「ハンドボール」。近所のお友達一家が、ちょうど試合を体験していた。体力がほとんど残っていない私は恐れおののきながら始めたが、シュートの練習を軽くしたところで、後はすーっと逃げることができた。

 続いて、「ユニホッケー」。どう見ても、部屋にこもって漫画でも読んでいそうな少女が指導員だ。「それしか残っていない」と左利き用スティックを渡され、左打ちを余儀なくされる。スカスカのプラスティック球をスティックで移動させていくが、軽すぎていうことを聞かない。何度もとんでもない方向へ行った球を拾いに行き、疲れは倍増。シュートした球は、網の下をすべるばかり。もはや体力も限界と感じ、さっさとスタンプをもらいに行く。

ユニホッケー。隣のコートで試合を楽しむ家族たち。制限時間ぎりぎりまで、盛り上がっていた swissinfo.ch

 スタンプはようやく6つそろった。本当は「フラダンス」もやりたかったな。「水泳」も楽しみにしていたのに、レジオネラ菌が見つかったためプールが閉鎖され残念だった。この機会にクロールを教えてもらいたかった(ちゃんとお金を払って、コースに申し込めということか!)。

 受け付けに戻り、カードを提出すると、参加賞がもらえる。実は去年もまったく同じ景品だったが、ありがたく頂いておいた。

参加賞は、このコップと傘のうち、好きなほうが選べる。どちらも町のスポーツ祭りのロゴ入りのオリジナルだ swissinfo.ch

 ふだん運動していない人は翌日、当然ながら筋肉痛になる。あの雰囲気の中で乗せられてしまい、つい調子に乗ってジャンプしたり、全力投球したりするのが楽しいのだが……やはり年齢には勝てない。

 しかし参加者は全員、プレゼント懸賞の対象となる。もらったスタンプの数だけ応募できるので、確率を上げるために私たちは最初から6つのスタンプ全部を集めるつもりでいた。

 そして翌週。ローカル新聞を見ていたら、当選者リストになんと娘の名前が。近所の自転車屋の商品券300フラン分が当たっていたのである!ウソのような、本当の話。

 また来年も頑張るぞと、決意をあらたにする私たち家族であった。 

平川 郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。

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