イランとの核協議、「圧力なければ時間の浪費に」
イランの核開発の急速な進展に懸念が高まっている。同国と英仏独の代表団は今月中旬、スイスの国際都市ジュネーブでこの問題を協議した。スイスを拠点にイランの人権問題に取り組むネダ・アマニ氏は、協議を時間稼ぎに使わせないため圧力が必要だと指摘する。
※本記事の原文(英語)は協議実施前に執筆・配信されました。
私はイランの問題に取り組む活動家として、この茶番を繰り返し目にしてきた。会議のための会議。終わりのない協議。それを尻目に、核爆弾の製造にじわじわ近づくイスラム教指導者(ムッラー)たち。国際原子力機関(IAEA)が2024年11月に公表した最新の四半期報告によると、イランが所有する高濃縮ウランは今、さらに濃縮が進めば複数の核弾頭を製造できる量に達している。
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今回の協議が組まれた前提には、包括的共同行動計画(JCPOA)をやり直せるかもしれないとの集団的楽観主義がある。JCPOAとは2015年に結ばれたイランの核開発計画に関する国際合意のことで、米国、英国、フランス、ドイツ、中国、ロシア、欧州連合(EU)とイラン政権が署名した。
イランとの核合意は瀕死の状態があまりに長引き、もはや再起不能との見方もあるが、英仏独は同調してこなかった。しかし今、その3カ国でさえ深刻な疑念を示している。
エマニュエル・マクロン仏大統領は今月初め、自国と欧州にとってイランは主要な「戦略上・安全保障上の試練」だと表現した。各国駐在のフランス大使を集め新年の外交目標の概要を示す年次会議外部リンクでの発言だ。
さらにマクロン氏は「核開発計画の加速によって、私たちはポイント・オブ・ノーリターン(後戻りできない地点)の目前まで来ている」と述べた。
変化したのは状況の切迫性だけではない。
核協議におけるイラン政権の交渉力は、低下の一途をたどってきた。2022年の反政府デモなど、国内で混乱が相次ぎ、いわゆる「抵抗の枢軸」(ハマスやヒズボラなどイランが支援する武装組織のネットワーク)が弱体化したためだ。ただし、イランの交渉姿勢には、わずかな変化の兆しも見られない。
イスラム教指導者らは第一に、国際社会の断固たる行動を滞らせる手段として外交交渉を利用している――イラン国民抵抗評議会(NCRI)など政権批判派や反体制派の多くは、長年にわたりそう主張してきた。JCPOAが瀕死の状態に陥ってからも、そもそもJCPOAが生まれるに至った過程でも、核協議のあらゆる会合に意味のある進歩がなかったことは、この主張を支持している。
今回のジュネーブでの協議についても、過去の展開が繰り返される恐れがある。そうした協議を実施したところで、JCPOAにも、より広範な核問題にも、飛躍的進歩がもたらされる可能性は皆無に等しい。一方、西側諸国の政策立案者のなかには、問題をさらに先送りし、協議を重ねるよう提案することへの衝動に駆られる者がきっと現れる。その間、イランが不正な活動の拡大に邁進する可能性があるのに、だ。
さらなる悪影響も考えられる。イランには核開発以外にもさまざまな問題がはびこり、そうした脅威への政権の対応が危険を増しているが、一連の核協議で注意がそらされかねない。核協議の開催が発表された今も、政権はバッシャール・アル・アサド前大統領が放逐されたシリアで足場を取り戻そうとしている。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、その動きを隠そうともしていない。また、国民抵抗評議会は、過去1年間にイランで死刑を執行された人が1000人を超えた外部リンクと報告した。対象者には女性34人や未成年者7人、少数民族バローチ人119人が含まれる。総数は過去30年間で最も多く、大衆を脅して異論を抑圧しようとする政権の姿勢が表れている。
こうした情勢を踏まえつつ、イランが意味のある政策変更に病的なまでに抵抗してきたことを考慮すれば、英仏独はただ協議を重ねて時間を浪費すべきではない。イラン側が交渉姿勢を劇的に変える意思を見せることが、話し合いの条件になる。つまり、3カ国は事前にイラン政権への圧力を強めておかなければならない。具体的には、制裁を拡大することや、西側諸国にあるイラン関連組織を閉鎖すること、イランの軍事・防諜を担う革命防衛隊をテロ組織に指定することなどが挙げられる。
このような圧力措置を組み合わせながら、国内での死刑執行の全面停止など強気かつ率直な要求を突きつけるべきだ。そうすれば、英仏独が国際的議論でのイランの立場について、極めて重要な事実を理解していることが同国政権と世界に示される。その事実とは、イランは決して自ら妥協しないため、強制的に譲歩させなければならない、ということだ。
編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:ムートゥ朋子
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