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ジュネーブでの「中東会議」、不参加者続出で中止 「あまりにも分断された」国際社会を反映

中東
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パレスチナ非占領地域での人権保護を話し合うため場として準備が進められていたジュネーブ第4条約締約国会議が、不参加者多数のため7日の開催直前で中止された。主催国のスイス連邦政府が6日夜発表した。

2024年9月、国連総会はジュネーブ諸条約の寄託国であるスイスに、ジュネーブ第4条約締約国会議を召集するよう要請した。目的の1つは、パレスチナ占領地域におけるジュネーブ第4条約の遵守をイスラエルに求める共同宣言を採択することだった。スイスは全締約国196カ国に参加を呼びかけたが、共同宣言の草案にコンセンサスが得られなかった。米国やイスラエルといった主要国の不参加表明が相次いだため開催の意義が薄れ、中止に追い込まれた。

ジュネーブ4条約は国際人道法の礎であるジュネーブ諸条約・追加議定書の1つ。特に被占領地域における民間人の保護について定める。占領地での強制移住や入植を禁止する内容などが盛り込まれている。1967年の国連安保理決議外部リンクで、同条約がイスラエルに占領されている東エルサレムを含むパレスチナ自治区、ガザ地区、ヨルダン川西岸地区に適用されるとした。

スイス平和財団のローラン・ゲッチェル理事は「この会議は(開催されても)おそらく現地に実質的な影響を与えることはなかっただろう。しかし、最低限のコンセンサスさえ得られなかったという事実は、この紛争において国際社会がいかに分裂しているかを示している」と話す。

外交筋が匿名を条件にswissinfo.chに語ったところによると、スイス外務省はここ数週間、神経をますますとがらせていた。スイスが締約国会議を開くことについて、イスラエルが「イスラエルに対する法的抗争」だと公に非難していたためだ。

ジュネーブの国連イスラエル政府代表部は「この微妙な時期に開催すれば、会議が民主主義国家イスラエルを攻撃する場所にすぎないと自白するようなもので、人道と法をまったく無視したテロ組織を煽るだけだ」と語った。イスラエルは目下、米国のドナルド・トランプ新政権との蜜月関係を享受している。

会議は数時間で終わり、共同宣言の発表をもって締めくくる予定だった。米国とイスラエルは不参加をすでに表明していた。そして6日遅く、アラブ諸国も不参加を表明した。

トランプ大統領はガザ地区を長期的に所有し再建するとした上で、住民を別の場所に再定住させると発言しているが、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、強制的な住民の移住は民族浄化に相当するとして、反対する考えを示している。

「現実を反映」

会議開催を主導したスイスのフランツ・ペレツ大使は記者会見で、参加国の「十分な数」が実現できなかったと説明した。合意に至らなかったのは「現実を反映している」とも語ったが、国際人道法の礎であるジュネーブ諸条約を疑問視する国はないと強調した。

swissinfo.chが入手した最終宣言の草案には、「参加締約国は、東エルサレムを含む被占領パレスチナ領におけるジュネーブ第4条約の継続的な適用可能性と重要性を強調する。すべての締約国は、いかなる状況においても同条約を尊重し、その遵守を確保する義務を負う」と記されている。

swissinfo.chは、57カ国が加盟するイスラム協力機構は国連に充てた書簡も入手した。宣言が「現地の深刻な状況や、OPT(パレスチナ占領地)における、イスラエルによるIHL(国際人道法)の深刻な違反や重大な違反を反映していない」と批判している。

在ジュネーブ国連パレスチナ大使のイブラヒム・クライシ氏はロイター通信に対し、パレスチナ代表団も会議に出席する予定はないと述べた。

スイス外務省は、参加国数が2014年の前回締約国会議の128カ国を上回れば成功とみなしただろう。「しかし、誰が来るかも重要だ」とゲッチェル氏は言う。「参加国が少なすぎたり、紛争にほとんど影響を与えない国ばかりでは、期待された成果は得られないことが明らかになった」

ゲッチェル氏は、会議の中止がスイスに悪い印象を植え付けるとは考えていない。「スイスはジュネーブ諸条約の寄託国として、事務局のような役割を果たしている。国際社会の分断が深刻で合意に至らなかったとしても、それをスイスの責任とすることは難しい」

綱渡りの停戦合意

イスラエルとパレスチナの過激派組織ハマスとの間の武力衝突は15カ月に及び、ガザの住民200万人の住民のほぼ全員が地区内での強制移動を余儀なくされた。ガザ保健省によれば少なくとも4万8000人のパレスチナ人が死亡し、インフラの多くが破壊された。

ロイター通信によると、イスラエルはハマス一派が2023年10月7日の攻撃で約1200人を殺害し、さらに251人を拉致したと主張している。イスラエルはこの戦闘で400人以上の兵士を失ったともしている。

ガザでは綱渡りの停戦合意が敷かれているが、イスラエルは一時的に援助物資の輸入を禁止し、ヨルダン川西岸では数カ月前から暴力行為が増加している。スイスをはじめとする欧州諸国は、予定されていた会議が紛争に悪影響を及ぼしたのではないかと懸念している。

外交筋は過去数週間、一部の国はイスラエル・ハマス間の今後の交渉に悪影響を与えないよう、会議をできるだけ中立に保ち、特定の「国の事情」には言及しないよう望んでいると語っていた。

編集:Virginie Mangin/ts、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子

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