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ジュネーブで米国不在のイラン核協議、進展なく終了 

ジュネーブ
スイスで英独仏・イランによる核協議が行われた(写真は2015年、ケリー米国務長官とイランのザリフ外相がジュネーブで直接会談したときのもの) KEYSTONE

英仏独・イランは今週、スイス西部・ジュネーブ近郊でイランの核開発問題と欧米の対イラン制裁をめぐり協議を行った。米国不在のまま行われた協議は目立った進展なく終了した。

13日の協議初日終了後、イラン、フランス、英国、ドイツの外交官たちは会談は「真剣かつ率直で、建設的だった」だったと語った。英仏独とイランは昨年11月末にも外務次官級協議を行っている。2日目の夜、イランの外務相は、仏、英、独側がイランの核開発プログラムに関する交渉再開への「真剣な意志を感じた」と付け加えた。

双方が「交渉」ではなく単なる「協議」だと位置づけた今回の協議は、イランと欧州列強がいくつかの問題について話し合う場を設けることが狙いだった。その「いくつか」には、イランの核開発という喫緊のトピックも含まれた。

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欧州諸国はイランの核開発計画の急速な進展を懸念している。国際原子力機関(IAEA)によれば、イランは現在、ウランを60%まで濃縮する能力を持つ。核兵器製造に必要な90%に迫る数値だ。仏、英、独はイランに対し「核のエスカレーション」を止めるよう求めているが、イランはこのエネルギーの民生利用の権利を盾に譲らない。

またイランは、対立するイスラエルがヒズボラやハマスなどこの地域の「代理人」に与えた軍事的挫折と、同盟国シリアのバッシャール・アル・アサド政権崩壊によって弱体化し、深刻な経済危機にも直面している。こうした背景から、イランは欧米の対イラン制裁解除を求めている。

2015年に署名されたイラン核開発計画に包括的共同行動計画(JCPOA)の一部条項は2025年10月に失効する。このためイランにとって、欧州諸国との合意は喫緊課題だ。特に、仏、英、独が一方的にイランへの国際制裁を復活できる「スナップバック」メカニズムだ。失効後は、欧州諸国はこの手法をとることができなくなる。

イランと欧州諸国との関係は、45年間国交断絶している対米関係に比べれば歴史的に良好だった。しかしそれも近年は悪化している。原因は、ウクライナ戦争でイラン製の無人機がロシアに納入されたこと、そしてマフサ・アミニ氏の死後、イランで起きた女性の反乱に対する弾圧だ。

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米国の不在

米国はドナルド・トランプ前政権下の2018年にイラン核合意から離脱している。バラク・オバマ前政権の大きな外交成果の1つである核合意を、トランプ氏は以前から不平等だと批判していた。仏、英、独、中国、ロシアも署名したこの協定は、イランへの国際制裁を解除する代わりに、イランの核開発に制限を課す内容だ。米国は脱退後、イランへの経済制裁を再開した。

核合意の再建については、対イラン強硬姿勢を取るトランプ次期政権も合意できる内容になるかどうかが焦点になっていた。しかし今回の協議には、米国の姿はなかった。

「この協定が今や時代遅れであることは周知の事実だ」と、パリ拠点のシンクタンクIRISリサーチ・アソシエイト、ダヴィッド・リグーレ・ロゼ氏は言う。「協定の調印以来、イランはウラン濃縮とその量において飛躍的な進歩を遂げ、IAEA自身ももはや民間の域を超えていると言っている。したがって、ナショナリズムが悪化したイランがこの協定に応じるとは考えにくい」

同氏によれば、イランが核兵器を持つかどうかは、もはや「技術的な問題ではなく、政治的な選択」にかかっている。そして、イランが圧力にさらされ弱体化しているという事実が、同国に抑止力、すなわち核兵器を装備することを促す可能性がある。

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今後の交渉は複雑に

イランのマスード・ペゼシュキアン新大統領は昨年8月の就任以来、国際舞台でパートナーとの交渉を再開したいとの意向を繰り返し表明してきた。

「大統領とその外交チームは、米国の新政権と合意を結ぶ方を望んでいる。そこに欧州が含まれない可能性もある」と、ジュネーブ国際開発研究大学院の中東安全保障専門家ファルザン・サベト氏は言う。「イラン政府は制裁を緩め、米国との緊張を緩和したがっている。米国との軍事的対立を回避し、核兵器開発を余儀なくされる状況に陥ることを避けたいと考えている」

問題は、大統領が核問題に関する唯一の意思決定者ではないということだ。大統領はイラン政権内の他の有力者、特に最高指導者らの立場に依存している。「核問題やその他の重要な問題に関して、イランがどこまで譲歩できるのかを知ることは難しい。特に最近の一連の出来事がイランの安全保障と影響力の低下につながったことを考えればなおさらだ」

トランプ氏の政権復帰

トランプ氏が20日に大統領に返り咲くことで、不確実性が増すかもしれない。トランプ氏は対イラン強硬路線を支持し、新政権でもこのアプローチを共有する人物が周りを固める。しかし、トランプ氏は自らを交渉人「ディールメーカー」とみなし、最初の任期中に北朝鮮を訪問したように、単独でテヘランと直接交渉したいという誘惑に駆られる可能性もある。

ダヴィッド・リグーレ・ロゼ氏は、トランプ氏が欧州を差し置いて交渉を試みる可能性は確かにあるが、その場合、ジレンマに直面するだろうとみる。トランプ氏は一方ではイスラエルの揺るぎない支持者でありたいと考えており、イスラエルにイランの核施設を攻撃させる可能性を示唆する。またその一方で、自らを平和を支持する国家元首として見せたいという思いもある。「トランプ氏が合意を望むなら、イランにとっては、JCPOAよりも厳しい内容になるだろう。問題は、イラン側がそれを受け入れないということだ」とリグーレ・ロゼ氏は言う。

仏、英、独、そしてイランが今後会合を開く兆しはある。だが現段階では日程も場所も確定していない。

編集:Virginie Mangin/ac、英語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子

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