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国連「未来のための協定」、交渉を行動に移せるか

Jerome Bellion-Jourdan

9月の国連総会で、地球規模の課題に対する国際社会の具体的な行動指針を示した「未来のための協定」が採択された。だが、国連や多国間主義に懐疑的な見方は少なくない。欧州連合(EU)の元外交官で、チューリヒのグローバル・ネゴシエーション研究所で上級研究員を務めるジェローム・ベリオン・ジュルダン氏は、協定を行動に移すことが重要だとみる。

「私たちは多国間主義を危機から救うためにここにいる」――国連のアントニオ・グテーレス事務総長外部リンクは9月22日、地球規模の課題に対する国際協力を話し合う「未来サミット」の開幕にあたり、こう強調した。ニューヨークの国連本部で開催されたサミットでは、成果文書「未来のための協定」と2つの付属文書「グローバル・デジタル・コンパクト」と「将来世代に関する宣言」が採択された。

私たちはその翌週、国連本部で、各国の元首・首脳が国連総会の一般討論で次々に演説し、ボディガードや代表団とともに二国間会談やイベントに向かっていく姿を目の当たりにした。はたしてサミットと採択文書は、「軌道を外れている」世界で、「軌道に戻るための厳しい決断」を求める国連事務総長の訴えに応えられるだろうか?

地球や宇宙空間での紛争やグローバルなリスクに見舞われる現状では、国連や多国間主義といったものに対して懐疑的な見方をする人もいるだろう。だが、文書の採択に向けた交渉は重要だった、採択文書を具体的な行動に移せるかは次に何をするかに懸かっている、とあえて反論することには意義がある。

土壇場の決着

困難な政府間交渉が結果を出せたのは、土壇場まで見通しが立たない多国間交渉に慣れている交渉官たちの功績だ。1つ1つの文書が、全加盟国で何度も行った非公開の会合での交渉の成果だ。市民社会や他の利害関係者との協議も行われたのは言うまでもない。

数週間にわたり、「暗黙の合意」をまとめる努力が見てとれた。193カ国のうち1カ国でも反対すれば、合意は破られる。そして、サミットのわずか数日前、沈黙は破られた(訳注:ロシアが異論を唱えて国連総会に修正案を提出)。

ゴールを目前に高官たちがこの行き詰まりを打開しようと介入したものの、グテーレス氏は成果のないサミットと1つの文書に同意することさえできない多国間システムという最悪のシナリオに直面した。ロシアによる修正案の提出を予想していた同氏は、協定採択の可否によって異なるスピーチを用意していた。

サミットの冒頭、議場の空気は張りつめていた。ロシアの修正案に対し、アフリカ・グループがカメルーン出身のフィレモン・ヤン議長を支持し、(修正案の審議や採決は行わない)「ノーアクション動議」を提出した。メキシコがこれに同調。動議は、賛成143、反対15、棄権7で採択された。それに伴い、「未来のための協定」は規則上、「全会一致」で採択された。

交渉から行動へ

協定の採択は、国連を死の淵から救ったのだろうか?各国が協定で誓ったように、国連が未来サミットによって「多国間主義の新たなスタート」をきれるかはまだ分からない。グテーレス事務総長は、「これは合意するかだけの問題ではない。行動するかの問題でもある。私は今日、皆さんに行動を起こすよう求める」と強く訴えた。

協定は、十分なコミットメント(関与)が盛り込まれた、具体的な行動に結びつく野心的な内容だろうか?これには早くも否定的な意見が出ている。協定は総会決議と同様に法的拘束力をもたない。その内容も、地球規模の課題の緊急性や規模に見合うものではない、と。

そうした点は否めないが、大多数の国家元首や政府首脳が参加したという事実は、集団的な政治的コミットメントがあったとみなすこともできる。採択に至るまでの紆余曲折について、スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領外部リンクは、「おそらくこうした困難があったからこそ、協定は多国間システムへのコミットメントを示す重要で明確なシグナルになっている」と述べた。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領外部リンクのように、故コフィ・アナン元事務総長の下で行われた過去の改革を思い起こす者もいた。当時、他の改革案は実現しなかったものの、ジュネーブに人権理事会が設立された。ダシルバ大統領は、「未来のための協定は(新たなリスクと機会に直面する)私たちに進むべき方向を示す」とした上で、こう警告した。「多大な交渉努力が求められるだろう。(中略)私たちは、廃墟の上に新しいグローバルガバナンス(世界の統治)を築く、第2次世界大戦のようなもう1つの世界的な悲劇を待つわけにはいかない」

協定の規定は、実施されれば野心的なものだ。事務総長は「未来サミットの実施方式外部リンク」に従い、政策概要外部リンクを発表し、報告書「私たちの共通の課題外部リンク」(訳注:事務総長が2021年に発表)で行った提案の詳細を示した。協定は、▽持続可能な開発と開発のための資金▽国際の平和と安全▽科学・技術・イノベーション・デジタル協力▽若者および将来世代▽グローバル・ガバナンスの変革という5つのテーマで56の「行動」を提示する。課題によってばらつきはあるものの、概ね野心的な内容だ。

協定が安全保障理事会を改革するものではないのは明らかだ。グテーレス事務総長は安保理を「時代遅れ」と評した。実際、数メートル先で開かれている安保理が中東情勢の悪化に対して何の行動も取れずにいる。ところが、協定のゼロ次草案外部リンクではかっこ書きされていた安保理改革について、採択文書は拒否権の「範囲と行使」をめぐり進行中の交渉と、安保理の定数拡大の必要性に言及する。特筆すべきは、全加盟国が「優先事項として、アフリカに対する歴史的な不正義を是正」し、アジア太平洋地域やラテンアメリカ、カリブ地域の代表権を改善すると合意したことだ。

また、協定は世界銀行や国際通貨基金(IMF)を改革するものでもない。だが、協定は「世界経済の意思決定、規範形成、グローバル・ガバナンスにおいて、途上国の代表権と発言権を強化する必要性」を強調した各国に積極的な取り組みを求める。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が代替となる金融機関を検討するなど、世銀やIMFの改革圧力は高まっている。2025年にスペインで開催される第4回開発資金国際会議と同年カタールで開催される第2回世界社会開発サミットに向けて、改革への努力は続けられるだろう。

これらの改革は、今では193の加盟国から成る国連がわずか51カ国によって創設された当初から長年の懸案だ。当時、他の国々は植民地支配下にあった。協定はまた、「これまで女性の事務総長が1人もいないという遺憾な事実」を指摘し、もう1つの長年の懸案にも変化の道筋を示す。グテーレス事務総長も各国に対し、「ジェンダーの不平等はこの会場にもはっきりと表れている。今週の一般討論演説に登壇した人のうち、女性は10%にも満たない」と述べた。

テクノロジー分野では、各国は特に「人類の利益になる人工知能(AI)の国際ガバナンスを強化する」と約束し、民間部門に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」外部リンクの適用を呼びかけた。具体的な措置はグローバル・デジタル・コンパクトに概説されている。グテーレス事務総長と技術担当のアマンディープ・シン・ギル事務総長特使はすでにいくつかのイニシアティブを開始した。未来サミットの直前には、事務総長のAIに関するハイレベル諮問委員会外部リンクが最終報告書を公表した。

若者と将来世代についてはどうか?

サミットに先駆けて開催されたアクション・デー外部リンクで、国連のアミーナ・J・モハメッド副事務総長は、若者の参加にフォーカスしたプログラムの確保に尽力したサミットの立役者、ガイ・ライダー事務次長を称えた。アクション・デーにはおそらく、「将来世代に関する宣言」の漠然とした表現よりも強いメッセージ性があった。宣言で、各国は「将来世代担当の特使を任命するという事務総長の提案に留意する」としている。「#YouthLeadTheFuture(若者が未来をリードする)」セッションでは、ナイジェリアのDJコピー外部リンク氏が満員の国連総会議場で「若者たちは?」と呼びかけると、通常は外交官が座る席から「行動を!」と応える声が一斉に上がった。

国連本部はこれまで国家主導のプロセスに用いられてきた。アクション・デーは、「われら連合国の人民は」で始まる国連憲章前文にある誓いへの同意だったのだろうか。私たちは、スピーカーの中でも、アフガニスタン女子サッカー代表チームの元主将カリダ・ポパル氏や米マイクロソフトのブラッド・スミス社長など、多彩な顔ぶれに会うことができた。さらに、現実を確かめようと、警護で混雑する国連とマンハッタンを抜け、ハーレム地区に向かった。街頭で話しかけたアフリカ系アメリカ人はサミットや協定について聞いたことがないようだった。その1人、リンデルさんは「それは国家元首のための協定か、それとも市民のためのか?」と尋ねてきた。

今、協定を「軌道に戻るための厳しい決断」につなげられるかは、市民社会「私たちが求める国連」連合外部リンクや「女性の国連事務総長外部リンク」キャンペーン、ビジネス団体、企業をはじめ、私たち1人1人に懸かっている。人類と将来世代が存続に関わる脅威に直面する中、億万長者だけではなく、数十億の人々に役立つ行動を起こすことが必要だ。

そんなことは不可能だろうか――。バルバドスのミア・モトリー首相外部リンクは、奴隷制度の廃止も、アパルトヘイト(人種隔離)政策から人々を解放することも可能だったことを私たちに思い出させ、スタンディングオベーションを浴びた。それは、「成し遂げるまでは、不可能に思えるものだ」という南アフリカの故ネルソン・マンデラ元大統領の姿勢を思い起こさせた。

※この記事で表明されているのは著者の見解であり、必ずしもswissinfo.chの見解を反映しているわけではありません。

英語からの翻訳:江藤真理、校正:ムートゥ朋子

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