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日本の捕鯨は国際法違反なのか? 欧州専門家の見方

捕獲されたミンククジラ
捕獲されたミンククジラ。北海道釧路港にて撮影 KEYSTONE

国際社会が日本の捕鯨に対し再び厳しい目線を向けている。日本政府が国際手配していた反捕鯨活動家ポール・ワトソン氏がデンマーク領グリーンランドで逮捕され、日本が身柄の引き渡しを要請したためだ。国際法に照らして日本の捕鯨は合法なのか?

1931年、国際連盟の主導で初の捕鯨取締条約がジュネーブで締結された。それから約1世紀が経った今月6日、同じジュネーブの国連欧州本部前広場で、40人ほどがプラカードを手に「ポール・ワトソンを釈放せよ」とシュプレヒコールを上げた。同15日、デンマークの裁判所は環境活動家のワトソン氏の勾留を9月5日まで延長すると決定。裁判所が日本への引き渡しを判断するための審理に「(ワトソン氏が)出席することを確実にする」ためだという。

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環境NGO「シー・シェパード」創設者のワトソン氏は、7月21日にグリーンランドでデンマーク当局に逮捕された。日本の捕鯨船を追跡しようと北太平洋へ向かう途中、給油のためグリーンランドに立ち寄ったところだった。米国・カナダ両国籍を持ち、環境NGO「グリーンピース」の共同創設者でもある。

2012年に日本の要請を受けて発行された国際手配書によると、ワトソン氏は日本の捕鯨船に悪臭弾を投げて損傷させ、乗組員を負傷させたとして告発されている。現在73歳のワトソン氏は、日本で最長15年の懲役刑を受ける可能性がある。

ワトソン氏の逮捕以来、世界中で解放を求める声が上がっている。請願運動が起こり、エマニュエル・マクロン仏大統領がデンマーク当局に介入したことでさらに話題を呼んだ。

だが、国際法ではどうか?商業捕鯨の復活は合法なのか?

商業捕鯨の禁止

国際捕鯨委員会(IWC)の商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が発効した1986年以来、商業捕鯨は禁止されている。ノルウェーとアイスランドが異議や留保をして商業捕鯨を続ける一方、日本は長い間「科学的研究」目的であると主張し、モラトリアムを回避してきた。

だが国際司法裁判所(ICJ)は2014年、日本の南極での捕鯨活動に有罪判決を下した。この訴訟で法律顧問・弁護人を務めたジュネーブ大学のロランス・ボワソン・ド・シャズールヌ教授(国際法)は「ICJは、日本の捕鯨は科学的研究の基準を満たしておらず、商業捕鯨を科学的研究と偽装しているとの判決を下した」と説明する。同氏は国際海洋法裁判所でも法律顧問と弁護人を務めている。

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判決を受け、日本は南極海での調査捕鯨を中止したが、2019年にIWCから脱退し、領海と排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨を正式に再開した。ボワソン・ド・シャズールヌ氏は 「これは思い切った驚くべき決定だったが、不思議なことに国際社会ではほとんど騒がれなかった」と振り返る。

以来、日本政府は鯨肉消費という「伝統」の再興を推進外部リンクしてきた。だが需要は大きく減少した。ピークだった1960年代初頭の年間23万3000トンから、2021年にはわずか1000トンに落ち込んだ。それでも今年5月、新しい捕鯨船「関鯨丸(かんげいまる)」が進水外部リンク。年内に200頭の捕獲を目指す。

水産庁は今年6月、地球最大の哺乳類であるシロナガスクジラに次ぐ大きさのナガスクジラを捕獲対象に加えることを決めた。水産庁は十分な資源量があるとしているが、ナガスクジラは絶滅危惧種に指定されている。オーストラリア政府やシー・シェパードは、日本が「2025年までに公海である南極海と北太平洋で」捕鯨を再開することを懸念し、水産庁の決定を批判している。

国際法の隙間

ただ捕鯨を阻止する法的手段は限られている。日本は2015年、海洋資源の開発活動に対するICJの管轄権を除外した。それは、日本の領海での商業捕鯨が合法になったことを意味するのだろうか?

ボワソン・ド・シャズールヌ氏はそう簡単な話ではないとみる。「IWCを脱退したからといって、日本が環境や海洋生物を保護する義務を負わないわけではない」。海洋法や生物多様性、野生生物の取引に関する条約をはじめとする法的枠組みは有効だからだ。

海洋環境問題を専門とする国際弁護士、マルゴシア・フィッツモーリス氏も同様の見解だ。「日本は国連海洋法条約(UNCLOS)の加盟国であり、海洋哺乳類の保護に協力しなければならない」ため、データの共有や環境影響評価の実施などが義務付けられるという。

ロンドンのクイーン・メアリー大学で国際法を教えるフィッツモーリス氏は、「この意味で、国境を越えた影響評価を実施せず、ナガスクジラ捕獲プロジェクトに関して他の北太平洋諸国や委員会に相談しなかった日本は義務に違反した」と話す。「このため条約加盟国は、国連海洋法条約の拘束力のあるメカニズムに訴えて、日本に義務を遵守させることができる」ものの、経済制裁などはできず、執行には限界があるとみる。

日本の在ジュネーブ国連代表部はswissinfo.chの取材に対し、持続可能な捕鯨外部リンクは国際法違反ではないとの見解を示した。

2025年発効予定の拘束力のある条約

公海をめぐる条約が間もなく発効し、転機となる可能性がある。2023年に採択された国連公海条約外部リンクは、国の管轄権外にある海洋の保護を目的としている。公海上の保護区の設定を規定し、公海上での活動計画に対し事前の環境影響調査を義務付ける。

フィッツモーリス氏によると、2025年に発効予定の同条約は「強力な」拘束力を持つ。「もし日本が(シー・シェパードが疑うように)領海を越えて鯨を捕獲すると決めた場合、国際的な反発を招くだろう。鯨保護区に指定されている海域での捕鯨はなおさらだ」

ただ日本が捕鯨の範囲を公海にまで拡大する可能性は低いとみる。そうなると、法的措置は想定しにくいという。今のところ、年間500頭を捕獲するノルウェーが世界最大の捕鯨国であり、日本の300頭が続く。アイスランドは2022年にナガスクジラを148頭捕獲した、日本の今年のナガスクジラ捕獲予定数は59頭だ。

政治的圧力

鯨の保護は瀬戸際にある。ボワソン・ド・シャズールヌ氏は、国際法が遵守されるかどうかのカギを握るのは政治的意志だとみる。「法的枠組みは存在する。それを思い出させるのは国家であり、国際社会の他の代表者の役割だ」。

フィッツモーリス氏も政治的圧力により、日本はワトソン氏の引き渡し要請を断念せざるを得なくなる可能性があるとみる。

デンマーク司法省は今後、ワトソン氏の命運を決めなければならない。デンマークの自治領フェロー諸島でのイルカ漁を激しく批判するシー・シェパードにとって、安泰な状況ではない。シー・シェパードは、反捕鯨派を黙らせるために(ワトソン氏を)「待ち伏せ」していたとして捕鯨諸国を批判する。「決着をつけるのは刑法だ。ポール・ワトソン氏が告発されている罪に照らして懲役刑がふさわしいかが問題になるだろう」(ボワソン・ド・シャズールヌ氏)。ワトソン氏が日本に引き渡されれば、刑務所で人生の最期を迎えることになる可能性がある。

編集:Virginie Mangin/sj、ドイツ語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:江藤真理

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