スイスの視点を10言語で

スイスの会社が職場に「笑い測定機」を試験導入

カメラ目線で爆笑するスーツ姿の男性
2010年、議場で思わず笑い出したハンス・ルドルフ・メルツ元スイス財務相 Keystone / Peter Klaunzer

スイスの大手保険会社バロワーズは昨年、従業員のメンタルヘルスの向上を目指し、職場で笑いが起きる頻度の試験測定を行った。あまり笑わない従業員には、メールで面白い動画が送られた。スイスの職場で、一体何が起きているのか。

「大人が笑うのは1日平均15回です。つまり2時間で4回笑うことはできるはず。だからそれより少ないのは不十分としました」。プロジェクトを率いるアレクサンドラ・トスカネリ氏は南ドイツ新聞にこう語った。

おすすめの記事
ニュースレター登録

おすすめの記事

ニュースレター登録

ニュースレターにご登録いただいた方に、スイスのメディアが報じた日本のニュースを毎週月曜日に無料でEメールでお届けします。スイスの視点でニュースを読んでみませんか?ぜひこちらからご登録ください。

もっと読む ニュースレター登録

バロワーズは、従業員10人を抱える法人顧客のオフィスに、いわゆる「最高LOL責任者」を配置(LOLは「大笑いする(laugh out loud)」の頭文字)。音声マイクとAI(人工知能)で室内音を測定し、従業員が、例えばストレスや仕事に集中して笑いのノルマを達成できないとLOL責任者に知らせがいくようにした。

笑いが足りない従業員には、メールが送られる。トスカネリ氏によれば、メールには、ネットミームや、猫がテーブルから転げ落ちたり、スクーターに乗った人にハプニングが起きたりする動画が添付される。誰もが猫の動画を好きというわけではないが、SNSの専門業者がまとめた「インターネットのベスト版」から選んだ。

このプロジェクトは決して冗談などではない、とトスカネリ氏は言う。「でもこれで笑顔になってもらえたらうれしい。この測定機には笑いを促す作用もあるはずですが、何より私たちが注目するのは、どれだけ笑いが起きているかということ。もし足りなければ、もう少し笑ってほしいと従業員に働きかけます」

だが、作り笑いをしてLOL責任者の目をそらすこともできるのではないか。「AIの訓練には、実際の笑い声を使いました。昨日、会社に測定機を設置して、わざと咳をしたり笑い声を上げたりしてAIを欺こうとしましたが、うまくいきませんでした。とはいえ、作り笑いでもメンタルヘルスには効果があるとされています。表情筋を動かすだけで、セロトニン(幸福感を高めるホルモン)が分泌されます」

メンタルヘルス

このプロジェクトの目的はメンタルヘルスの向上で、対象グループには中小企業も含まれる。従業員が欠勤したり心の病気になったりすると、企業にとって金銭的な損失も大きく、深刻な問題だ。バロワーズの調べでは、スイス企業が従業員のメンタルヘルス悪化で被った損失は年間65億フラン(約1.1兆円)に及ぶ。

「心の問題について話すことは、足の骨折などと比べるとまだまだ少ない」とトスカネリ氏は話す。一方で、「笑いがすべてを解決するわけではない」とも認める。「相談窓口やホットライン、ヘルプセンターも必要な存在です」

スイスの政治家も

笑いの医学的効用なら、スイスのヨハン・シュナイダー・アマン元経済相もよくご存じだ。シュナイダー・アマン氏は2016年にスイス連邦大統領を務め、同年の「スイス病者の日」に行った演説で国外でも注目を集めた。テーマは「笑い」だった。

「笑うことは健康によい、とよく言われます。私と同じように、皆様もきっと経験がおありでしょう」とシュナイダー・アマン氏は語った。演説の内容はごく普通だった。だがこの動画はSNSで話題になった。原因はその話し方だった。

話し方が話題となったシュナイダー・アマン氏の演説(フランス語)

外部リンクへ移動

もちろん、政治家がスタンダップコメディアンのように絶妙な間で笑いを取るとは期待されていない。それでも、フランス語が分からない人はシュナイダー・アマン氏の演説を見て、彼が末期の病気の診断を受けたと告白しているのかと思ったかもしれない。ともあれ、この演説は人々の笑いの種になったのだから、任務完了といえよう。

公平を期して言えば、シュナイダー・アマン氏は穏やかな人柄でありながら、実はユーモアのセンスを持ちあわせている。2016年、ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領に選出された数週間後、トランプ氏と話をしたかと聞かれたときのことだ。まだ話はしていないが、手紙を出して祝意を伝えた、と答えた。そして、経緯をこう説明した。「大統領選の前夜、机の上に手紙が2通置いてあり、2通とも署名するように言われましてね。1通は署名しました。ただ翌朝になって、もう1通も署名することになりました…」

▼ビジネストーク番組「Bilanz」に出演したシュナイダー・アマン氏:経緯の説明は0.30~(ドイツ語)

外部リンクへ移動

笑いに関して話題になったスイスの政治家はもう1人いる。ハンス・ルドルフ・メルツ元財務相だ。2010年の国民議会で、食肉の輸入・販売について税関官僚の書き上げた答弁書を読みながら、「ビュ、ビュ、ビュンドナーフライシュ!」と思わず噴き出した。ビュンドナーフライシュとはスイス南東部グラウビュンデン州特産のドライビーフのことだが、この説明があまりに官僚的だったため笑いがこらえられなかったと、メルツ氏は後に語っている。

ドイツ語が一言もわからなくても、この短い動画を見れば、笑えるか、少なくとも頬が緩むのではないだろうか。

▼答弁書を読み上げながら笑いをこらいきれなくなったメルツ氏

外部リンクへ移動

編集:Samuel Jaberg/gw、英語からの翻訳:宮岡晃洋、校正:大野瑠衣子

最も読まれた記事
在外スイス人

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部