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タイで悠々自適?子どもを持つスイスの退職者

タイに住む私たちは、家計に気をつけなければいけない」というスイス人年金生活者のトーマス・モンシュさん(右)
「タイに住む私たちは、家計に気をつけなければいけない」というスイス人年金生活者のトーマス・モンシュさん(右) SRF

スイス人年金受給者は「子ども年金」を受給できる。それは国外に住む場合でも同じだ。だが議会ではこれを廃止する動きが出ている。

タイに住むスイス人年金受給者のハンス・シュタインマンさんは、「ホウシ」と呼ばれる2歳の息子ハンスちゃんと多くの時間を過ごしている。定年退職後、再び父親になるつもりはなかった。しかし今、彼は若さを保ってくれる息子と共に生きることに幸せを感じている。

シュタインマンさんとラオス人の妻オーさん、ホウシちゃん、そして義理の姉妹ジェニーさんは、タイ北東部の地方都市ウドーンターニー郊外にある一軒家で共に暮らす。

家計の帳簿をチェックするハンス・シュタインマンさん
家計の帳簿をチェックするハンス・シュタインマンさん SRF

子ども一人につき月10万円

シュタインマンさんは、約2000フラン(約35万円)の老齢・遺族年金(AHV/AVS、日本の国民年金に相当)に加え、2人の子どもがいるため1人あたり811フランの子ども年金を毎月受け取る。これは、タイ国内の経済的に弱い地域の平均賃金の約3倍にあたる。

スイスの年金受給者は実子、連れ子、里子にかかわらず、未成年(18歳未満)や教育過程にある子ども(25歳未満)を持つ場合、老齢・遺族年金から追加で毎月最高980フランが支給される。

現在、2万5000人の年金受給者がこの恩恵に預かる。しかしスイス国民議会(下院)は今年3月、子ども年金を廃止する動議を可決した。

子ども年金廃止をめぐる下院の議論はこちら

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スイス下院は春期議会で、子ども年金を廃止し、同時に救済措置も設ける動議を可決した

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スイス下院 子ども年金廃止を可決

このコンテンツが公開されたのは、 スイス国民議会(下院)は、未成年の子どもを持つ退職者に支給される「子ども年金」の廃止案を可決した。年間2億3千万フラン(約380億円)に上る支出カットが狙いだ。

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子ども年金の3分の1は国外に流出している。タイの様な物価の安い国に住む人も少なくない。

私立学校に通わせられない

シュタインマンさんは、下院の決断が理解できないという。「そうなれば、子供たちを私立学校に通わせることもできない。私立学校でないと、子どもたちは将来のために十分な教育を受けられない」と言う。

ウドーンターニー郊外のホテルでは、在外スイス人たちがソーセージとチーズのサラダを食べ、テレビでスイス相撲シュヴィンゲンを観戦し、故郷のカードゲームのエンタメ番組「ドンシュティッヒ・ヤス」を楽しんでいる。

スイス人のヤン・シェファーさんは、妹とこのホテルを経営している。1年半後には定年を迎え、息子のための子ども年金を申請できるようになる。子ども年金が廃止されなければの話だが。

「タイに住むかスイスに住むかを選ぶチャンスがあった。私の息子にも将来同じ選択肢がある。この国には良い学校があるから」とシェファーさんは言う。

「里子への支給はおかしい」

しかし、老齢・遺族年金からの子ども年金受給は身内からの批判もあがる。マンフレード・シュピルマンさんはウドンターニー中心部にあるピザ屋を経営する。

ティチーノ出身のシュピルマンさんは、子ども年金が里子にも支給されていることに首をかしげる。「スイス国民が納めた金なのだから、スイス国民のために使われるべきだ。娘の娘の娘のためにではなく」

乱用の事例、記録なし

こうした子ども年金は乱用を生まないのだろうか。タイには大規模な社会保障制度はない。

連邦社会保険事務所は、タイで乱用の可能性が高いと考える理由は見当たらないと回答した。

しかし、いわゆる乱用といわれるケースについては、「どのような場合に乱用とみなされるのかを明確に定義することができないこともあり」、具体的に記録されていない。

ユルグ・ライザーさんも2人の実子がおり、子ども年金を受給する。娘の1人はダウン症候群(21トリソミー)による重度の身体的・精神的障がいがあり、家族で介護をしている。「もし子ども年金が取り消されたら、私はスイスに帰らなければならない。そして、その費用は納税者が負担することになる」

下院で可決された子ども年金の廃止案は今年中にスイス全州議会(上院)で審議・投票が行われる。

独語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子

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