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スイスで広がるネット投票 本格導入には採算性が課題に

投票冊子
スイスでは国民投票のたびに議案の内容や論点をまとめた小冊子が各有権者に郵送される KEYSTONE/© KEYSTONE / GIAN EHRENZELLER

スイス南東部グラウビュンデン州はこの3月、スイスで4番目の州としてオンライン投票の試験事業に参加した。投票システムの帳尻を合わせるには、さらに多くの州の参加が必要だ。

3月3日の国民投票で、グラウビュンデン州内にある5つの基礎自治体がオンライン投票の実証事業に初めて参加した。

ドマート/エムス、ルムネツィア、ポントレジーナ、ポスキアーヴォ、サーフィエンタールの自治体出身の国外在住有権者は、国内に住む有権者と同じようにオンラインで投票可能になった。グラウビュンデン州全体では約1万2000人の有権者が登録されている。

地元メディアによると、3月の投票では5自治体の有権者1万1865人のうち投票したのは6233人で、オンラインで投票したのは748人だった。投票方法に対する問い合わせもごく少数で、選挙管理事務所のダニエル・シュパーディン所長は「理解が深まっている」と胸を張った。

連邦内閣事務局によると、同じ日の国民投票ではバーゼル・シュタット準州、ザンクト・ガレン州、トゥールガウ州と合わせて7万7000人、スイス全有権者の約1.4%相当がネット投票の資格を得た。

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グラウビュンデン州広報によると、6月9日の国民投票ではランドクアルトも加わる予定だ。来年はさらに拡充するという。

システムの採算が合うのは?

いずれは他の州も追随すると見込まれる。在外スイス人協会(ASO/OSE)のアリアン・ルスティケリ事務局長はswissinfo.chの討論番組で、ジュネーブ州が参加を望んでおり、ベルン州など他のドイツ語圏の州も検討していると明かした。

ただ業界紙インサイドIT外部リンクによると、ベルン州はオンライン投票参加に向け190万フラン(約3億2000万円)を予算計上しているものの、連邦内閣事務局はそれ以外に参加申請はないとしている。

ネット投票の試験事業に参加する州の数は、資金調達の面で事業の成否を左右する。

インサイドITのレト・フォークト編集長は、swissinfo.chの番組で「(投票システムを運営する)スイス郵便にとって、事業価値が生まれるのは10州以上だ」と話した。また人口規模の大きい州が複数参加することも必要だという。

スイス郵便は、参加州の数に束縛されたくはないようだ。「もちろんスイス郵便がオンライン投票事業で得る収益は、システムを利用する州の数によって決まる」(同社広報)

有権者数や、ネット投票の年間利用者も採算に影響する。ただスイス郵便は具体的な数字を公開していない。

連邦内閣(政府)は社会民主党(SP/PS)のカルロ・ソマルーガ下院議員の質問に対する回答で、試験運用の再開に成功したことにより本格運用への基盤が築かれたと位置づけた。

「このプロジェクトに参加する州と連邦政府に前向きな力関係が生まれ、他の州も試験に加わり経験の蓄積に貢献することを期待している」

様子見のチューリヒ州

関係者は、チューリヒ州の参加が決定打になるとみる。だがそうなるかどうかは全く見通しが立たない。

チューリヒ州政府は2022年、同州がオンライン投票に全面的に参加する場合は、連邦と州の関係法令を改正する必要があるとの見解を表明した。だが三つの実証段階を経て、追加の試験事業は必要ないとみている。

チューリヒ州統計局選挙・投票課のシュテファン・ジーグラー課長は「今のところ、チューリヒ州ではネット投票の再導入への政治的要請はない」と話す。

もう一つ不透明なのは、連邦政府とスイス郵便がいつまでに何をもって試験事業の成否を判断するのかだ。それはスイスでネット投票を本格運用するための前提条件となるはずだが、連邦政府はただ「経験を積む」という測定困難な目標を掲げているだけだ。

内閣事務局の報道官は、「長期的な試行が必要だ」と述べた。その後、実証事業が投票率や有権者の信頼、受容度にどのような影響を与えたかを科学的に評価していく。

またネット投票を全国的に本格導入するには、通常の立法手続きを経ることになると語った。連邦議会での承認に加え、場合によってはそれ自体が国民投票の対象となる。それがいつ頃になるかは現時点では見通せないという。

ネット投票の操作画面
ネット投票が可能なのは、州レベルでは有権者の3割、全国レベルでは1割という上限がある Keystone

オンライン投票制度は個人情報保護やデータ安全保障、さらには資金繰りが最大の難関となる。各州はシステムの使用・運用にかかる基本料金を支払うことになる。

スイス郵便によると、さらに変動費もかかるという。州内の全有権者に占めるネット投票利用者数の比率に基づいて算出されるが、正確な計算式は明かしていない。

ただフォークト氏は、在外スイス人が飛行機でスイスに帰国して投票所で直接投票する方が、現在試行されているネット投票よりも安上がりになるのではないかとにらんでいる。

参加権者は州が決定

州は連邦政府からネット投票参加の承認を得た後、ネットでの投票を許可する有権者の範囲を独自に決めることができる。選挙法は連邦政府ではなく州の管轄だからだ。

トゥールガウ州では在外スイス人だけがネットで投票でき、バーゼル・シュタット準州ではさらに障害者も対象となる。ザンクト・ガレン州とグラウビュンデン州では、承認された自治体の全有権者が対象だ。

グラウビュンデン州広報は「州内のすべての言語地域が参加することが大切だった」と話す。そのため敢えて構造や規模が異なる自治体を抽出した。

一般的に州政府には多くの裁量が与えられているが、連邦政府が主導するネット投票の試験事業に関しては範囲が限られる。ネット投票を利用できる有権者の割合は州内で3割、全国レベルでは1割という上限がある。

ただし、在外スイス人と障害者は特別扱いで、この制限ではカウントされない。

法律上は、在外スイス人のみを対象としたネット投票システムの構築も可能だ。リスクが軽減され、政治的には(国民投票にかけられることになっても)実現可能性が高まるだろう。一方で運用コストがかさみ、実際には挫折する公算が大きい。

編集:Balz Rigendinger、独語からの翻訳・加筆:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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