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不人気だから増産?スイスの5ラッペン硬貨

5ラッペン硬貨。5ラッペン硬貨は1981年、1/2フラン硬貨と区別しやすくするため白色のキュプロニッケルから黄色のアルミニウム青銅に変更された
5ラッペン硬貨。5ラッペン硬貨は1981年、1/2フラン硬貨と区別しやすくするため白色のキュプロニッケルから黄色のアルミニウム青銅に変更された KEYSTONE

スイスの財布の中身で最も不人気な硬貨が5ラッペン硬貨だ。実際に使える場面が少なく、引き出しに放り込まれたまま眠っていることも多い。過去10年、スイス硬貨のなかで5ラッペン硬貨の枚数が最も増えたが、その理由も「使われないから」だ。

1フラン=100ラッペン(サンチーム)。5ラッペンは日本円で約8.8円に相当。独語圏ではラッペン、仏語圏ではサンチームと呼ばれる。スイスの硬貨はほかに5フラン、2フラン、1フラン、1/2フラン、20ラッペン、10ラッペンがある

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スイス人はお金が大好き、スイスに住む人はお金をたくさん持っているーー。スイスに行くと必ず聞くフレーズだが、スイス人全員がうなるほどお金を持っているというのは、当然ながら正しくない。

ただし前者は一理ある。スイス人はお金、とりわけスイスフランが大好きだ。

それは新札発行のたびに国民の間に起こるカルト的な熱狂を見ても分かる。スイス連邦造幣局のウェブサイトにも、紙幣製造にまつわる逸話や興味深い情報外部リンクが満載だ。

スイスの貨幣で一二の人気を争うのは5フラン硬貨だ。そこに描かれた羊飼い(ウィリアム・テルではない)は、己の価値を知っていると言わんばかりの誇らしげな表情を浮かべている。

5フラン硬貨は直径31.45ミリメートル、厚さ2.35ミリメートル。重さは13.2グラム
5フラン硬貨は直径31.45ミリメートル、厚さ2.35ミリメートル。重さは13.2グラム KEYSTONE

しかし、この硬貨はやたらと大きい。海賊の宝箱の中で金貨に混じっていてもおかしくない。たくさんあれば、いかに大きな財布でも場所を取る。

そして千フラン札(約16万8000円)。世界で最も高額な紙幣であり、神秘のオーラを漂わせる。数こそ少ないが、額面で言えば現在流通するスイス紙幣の総額の57%を占める。

しかし、その存在がマネーロンダリング(資金洗浄)を助長しているとの主張もある。例えば200ユーロ札(ユーロ紙幣では最高額)を詰め込んだブリーフケース5個があるとしよう。同じ額が、千フラン札ならブリーフケース1個で済む。だが、千フラン札を廃止しようという試みは、これまでことごとく不発に終わった。

過去のスイス紙幣は著名人の顔が描かれていたが、現行の紙幣は手が描かれている
過去のスイス紙幣は著名人の顔が描かれていたが、現行の紙幣は手が描かれている Keystone / Gaetan Bally

1/2フラン硬貨も変わり者だ。0.5フラン、つまり50ラッペンのことだが、この小さな硬貨には、あくまでも「1/2 Fr.(フラン)」と刻まれている。

1/2フラン硬貨
1/2フラン硬貨 KEYSTONE

それに比べれば取り立てて特筆するところのない10ラッペン硬貨も話題を集めたことがある。2021年、流通する最古のオリジナルデザインの硬貨としてギネスブックに登録されたときだ。10ラッペン硬貨は1879年に鋳造が開始され、最古のものが今も出回っている。

10ラッペン硬貨
10ラッペン硬貨 KEYSTONE

自動販売機もそっぽ

そして5ラッペン硬貨だ。スイスで最も価値の低いこの硬貨は、目を引く金色のデザインにもかかわらず最も人気が無い。なぜか?ほとんど使えないからだ。

自動販売機には使用できず、スーパーのレジでは数えるのに手間取り嫌がられる。子どもたちには人気だが、それは単に色が目を引くからだ。

とはいえ現在流通している5ラッペン硬貨は13億4千万枚と、10年前と比べ25%も増加した。スイスの硬貨ではダントツの伸びだ。

キャッシュレス決済の時代にこれは驚きの数字だが、独語圏スイス公共放送(SRF)が最近の記事外部リンクで取り上げたように、そこには論理的な理由がある。

「使えない」から作られる

他の硬貨が取引を経てスムーズに流通に戻るのとは対照的に、5ラッペン硬貨は、引き出しに入れっぱなしだったり子どもたちの貯金箱に入れられたり、ささやかな土産の品として観光客のポケットに消えていったりというパターンが多い。要するにどこかで惰眠を貪っているのだ。

だから常に補充する必要がある。連邦造幣局の計画によると、5ラッペン硬貨の2024年の製造枚数は2600万枚だ。なお製造コストは現在は4.8ラッペン、2023年は額面を上回る6.9ラッペンだった。

さらば5ラッペン?

こうした理由から5ラッペン硬貨の廃止を求める声もある。

廃止案が最後に国政で取り上げられたのは10年前にさかのぼる。国民議会(下院)に動議が提出され、経済団体エコノミースイスとスイス連邦鉄道(SBB)が支持したが、端数切り上げによる物価上昇を懸念する消費者保護団体が反対し、結局否決された。

だが、スイスの1日の取引のうち現金で行われる率は、2017年の70%に対し現在はわずか36%だ。そう考えると別れは近いのかもしれない。

しかし、政界は他の優先すべき政治課題があるのか腰は重く、また一部の経済界が抵抗しているとあっては、スイス人家庭の引き出しから5ラッペン硬貨の山が消えることは、ここ当分は無さそうだ。

伊語からの翻訳: Christian Raaflaub、独語からの翻訳:フュレマン直美、校正:宇田薫

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