スイスの視点を10言語で

スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏

スーツを着た男性の顔写真
ガブリエル・リュヒンガー氏は、ウクライナ平和サミットの仕切り役を務めた連邦外務省(EDA/DFAE)の実行委員会を率いた Keystone / Peter Schneider

世界中から100の代表団がスイス・ビュルゲンシュトックに集結した「ウクライナ平和サミット」。実行委員会トップとして参加国の招待や共同声明の草案作りを担ったスイス外務省のガブリエル・リュヒンガー氏が、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)とのインタビューで舞台裏を振り返った。

SRF:サミットの期間中臨機応変な対応が求められた場面はどのくらいあったか? 

ガブリエル・リュヒンガー:準備は万全だった。しかし、100を超える国・国際機関が招待されている以上、予測できないことが起こるのは当然だ。 

例えば、代表団の到着時間が変更されることは度々あった。参加登録していない代表団が現れたこともあった。突然、会場入口に現れたのだ! 

おすすめの記事

それは、どの国だったのか 

アフリカの、あまり事前連絡をしないカルチャーを持つ国々だ。私たちは急遽対応を迫られ、なんとか全員の滞在ホテルを見つけることができた。 

ウクライナのゼレンスキー大統領は、このサミットで歴史がつくられるだろうと語った。その一方で、平和に一歩も近づくことはできなかったという批判の声もある。あなたの意見は? 

ポジティブに捉えている。首脳や閣僚らを交えた最高レベルで、早い段階から和平案を策定するのは定石通りでないことは承知している。しかし、私たちは効果的に出発点を作ることができたと思う。和平案を練るプラットフォームの提供は、多くの国とウクライナがスイスに期待していたことでもある。サミットは成功したと、私は思う。 

おすすめの記事
スーツ姿の男性と女性が1列に並ぶ

おすすめの記事

スイスの平和サミット閉幕 総意得られずも「ウクライナに真の平和は近づく」

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで開催されたウクライナ平和サミットでは、参加した約100カ国・国際機関のうち、84カ国が共同声明に署名した。しかし、スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は、ロシアがいつ、どのように関与すべきかについての合意を得ることはできなかったと認めた。

もっと読む スイスの平和サミット閉幕 総意得られずも「ウクライナに真の平和は近づく」

しかし、すべての参加国が共同声明に署名をするには至らなかった。落胆したか 

まったくしていない。共同声明が出せないことさえ覚悟していたくらいだ。もしそうだった場合、スイスは代替プランとして、議事要旨を発表して終わりにするつもりだった。 

私たちは直前までさまざまな国と交渉し、コンセンサスが得られるように(共同声明の)文章を調整した。そして、84の代表団が署名した共同声明を発表することができた。これは大きな成功であり、今後のプロセスにとっても非常に重要なことだと確信している。 

つまりサミット開幕時スイスはこの大規模なイベントが共同声明の署名にすら至らないようなものになる可能性も頭に入れておく必要があった、と? 

まったくその通りだ。スイスがこんなにもリスクを冒すのは稀だ。個人的には、スタート地点の不確実性にもかかわらず、勇気を持ってサミットを開催したことを誇りに思っている。 

今後はどうなるのか?すでに中国やロシアから反応はあったか? 

私はすでに中国と連絡を取り、会議の内容を伝え、対話を続けている。中国抜きの解決策はない。個人的には、彼らをビュルゲンシュトックに連れてくることができなかったことを非常に残念に思っている。この点は失敗だ。 

もちろんロシアとも、スイスはつながっている。私たちは今、プロセスを開始するための土台を提供した。ロシアを何らかの形で組み込まなければならないのは明らかだ。 

しかし、次のサミットがいつ、どこで行われるのかさえ明らかではない。 

欧州や西側諸国で開催されることはないだろう。我々はビュルゲンシュトックの場で、関心を持つ国々と話し合いを行った。あとは彼らが決めることだ。今後数週間のうちに何かが起こると私は思う。どのような展開になるかは、そのうちわかる。 

おすすめの記事
国旗を背に立つスーツ姿の男性と女性

おすすめの記事

ウクライナ平和サミットの功績 和平は見えずともスイスは望みを達成

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ビュルゲンシュトックで開かれた平和サミットをどう評価するか。和平に関して言えば、その功績は非常に乏しい。それでもスイスとウクライナが勝利を収めた理由とは?

もっと読む ウクライナ平和サミットの功績 和平は見えずともスイスは望みを達成

ガブリエル・リュヒンガー氏は、ウクライナ平和サミットの仕切り役を務めた連邦外務省(EDA/DFAE)の実行委員会を率いた。 

独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子 

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

ツークの街並み

おすすめの記事

スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ

このコンテンツが公開されたのは、 世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。

もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
鏡を見るバレエダンサー

おすすめの記事

ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場

このコンテンツが公開されたのは、 スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。

もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
自転車で遊ぶ子ども

おすすめの記事

スイス政府、国際養子縁組を禁止へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。

もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
生殖治療の画像

おすすめの記事

スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針

このコンテンツが公開されたのは、 スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。

もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
研究施設で働くマスク姿の人

おすすめの記事

スイスに感染症情報解析センター発足

このコンテンツが公開されたのは、 感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。

もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
茶色い除湿器

おすすめの記事

ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。

もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
Xマークの画面

おすすめの記事

スイスでX離れ進む

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。

もっと読む スイスでX離れ進む
ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部