スイスはパレスチナを国家承認するか?
アイルランド、スペイン、ノルウェーは22日、パレスチナを国家として承認すると発表した。スイスがこれに追随する可能性はあるのか。
イスラエルとイスラム組織ハマスの武力衝突から7カ月以上が経過した。米政府は、イスラエルの安全を保証する形でのパレスチナ国家樹立の道を模索している。アイルランド、スペイン、ノルウェーはパレスチナを28日付で正式に国家として承認すると表明。戦争を終結させ、人質を解放し、和平交渉を復活させることが目的だとした。
ハマス率いる武装集団が昨年10月7日、イスラエルを攻撃し、イスラエル側によると1200人が死亡、253人が人質としてパレスチナ自治区ガザに連れ去られた。パレスチナ暫定自治政府によると、ガザ地区では3万5000人以上のパレスチナ人が死亡した。
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パレスチナ自治政府は欧州3カ国の決定を歓迎したが、イスラエル側は「テロリズムを利する行為」であり、イスラエルの主権と安全を危険にさらしかねないとして、抗議のため大使を呼び戻した。イスラエルはパレスチナの存在を国際的に正当化するいかなる行為も否定している。極右政党「宗教シオニズム」を率いるベザレル・スモトリッチ財務相は昨年、パレスチナ人というものなどは存在しないと述べた。
アイルランド、スペイン、ノルウェーの発表をスイスはどう受け止めたか?
スイス連邦外務省は22日、政府はこの決定を「留意した」と述べた。イスラエル・パレスチナ間の領土紛争を巡っては「1967年境界線により、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する」ことを目指す「2国家解決案」があるが、スイスは長年、この2国家解決案に基づくパレスチナの主権国家の樹立を支持してきた。
しかしスイス政府は、パレスチナ国家を承認するための条件が「現在のところ存在しない」という立場だ。政府は「中東和平プロセスに具体的な貢献ができるようになった段階で」国家承認を検討するとしている。
国連の安全保障理事会は4月、パレスチナの国連加盟の勧告を求める決議案の採決を行ったが、スイスはパレスチナの国連加盟が「現時点では適切ではない」「中東情勢の沈静化と和平努力につながらない」として投票を棄権した。
パレスチナを国家承認しているのは?
アイルランド、スペイン、ノルウェーの今回の決定により、国連加盟193カ国のうち146カ国がパレスチナを主権国家として承認したことになる。中東、アフリカ、アジアの大半の国が国家承認しているが、米国、カナダ、オーストラリア、日本、韓国、そして多くの西欧諸国は不支持だ。
欧州連合(EU)では9カ国がパレスチナを承認している。ただ大半はポーランド、ハンガリー、ルーマニアなど東欧ブロックに属していた国々であり、1988年にソ連からの圧力を受けて決断を余儀なくされた。
2014年、西欧諸国で初めてスウェーデンがパレスチナを承認し、奇妙な外交論争を引き起こした。イスラエルのアヴィグドール・リーベルマン外相(当時)は「スウェーデン政府は、中東関係は自分で組み立てるイケアの家具よりも複雑であることを理解すべきだ。またこの問題は責任と繊細さをもって処理されるべきだ」と述べた。これに対しスウェーデンのマルゴット・ヴァルストローム外相は「私は喜んで(リーベルマン外相に)組み立て式のイケアのフラットパック(家具などを部品に分けて隙間なく梱包したもの)を送る」と返した。「組み立てにはパートナー、協力、そして優れたマニュアルが必要であることを理解してもらえるだろう」
スイスメディアの反応は?
国内紙の意見は分かれた。独語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガーは23日付の社説外部リンクで「パレスチナの国家を承認することは正しいことだ」と断言した。「それはイスラエルに対する攻撃ではない。解決への一歩だ」
「ノルウェー、スペイン、アイルランドが発表したパレスチナ国家の承認は、よく準備された動きであり、大きな波紋を呼んでいる。しかし、現在パレスチナ側が主張しているような歴史的なものでもなければ、イスラエル政府が大使の召還やさまざまな脅しのジェスチャーで見せているようなヒステリーの原因でもない。パレスチナ国家は存在しないのだから、この措置が現実的な結果をもたらすことはない。だがそれは重要で正しいことだ」
ターゲス・アンツァイガーは数字に注目した。地中海とヨルダン川の間に1500万人が住み、約半分がユダヤ人、もう半分がパレスチナ人だ。「どちらも相手を強制的に退去させたり、国外追放したりすることはできない。しかし、今のところ、ユダヤ人だけが自分たちの国家を持ち、大多数のパレスチナ人は占領下で暮らしている。このことが、新たな紛争を引き起こしている」
「あらゆる現実的な問題はあるにせよ、2国家解決案は公正な土地分割のための最良のコンセプトだ。ノルウェー、アイルランド、スペインは、パレスチナを承認することでこれを推進する意向を表明している。これは現実政治としては甘く見えるかもしれないが、意図としては崇高で理解しやすい」
独語圏の日刊紙NZZは「欧州の希望的観測は役に立たない」と冷ややかだ。
「パレスチナ国家の創設と承認は、イスラエルとの改革と和平プロセスを成功させるためのゴールであり、インセンティブでなければならない。しかし、ノルウェー、アイルランド、スペインは現在、パレスチナ人にアメを与え、同時に、(ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる政府が)2国家解決策に激しく反対しているイスラエルに一方的に圧力をかけている。それにより和平は1センチも前進していない」
NZZは、一方的な圧力は、国内的にはネタニヤフ首相の抵抗を正当化するだけであり、「いまだにイスラエルの終焉を夢見る」パレスチナ人には、もう十分やったという誤ったシグナルを与えるだけだと述べた。「2国家により安全かつ平和的に共存するための条件を整えるには、双方が巨大でほぼ不可能なステップを踏む必要がある」と結論づけた。
パレスチナ国家とはどのようなものになるのか?
2国間解決案の提唱者たちは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区をイスラエルを貫く回廊で結んだパレスチナ国家を構想してきた。
20年前、スイスの学者の主導のもと、イスラエルとパレスチナの元交渉者たちによって、この構想の詳細が示された。ジュネーブ・イニシアチブ(またはジュネーブ合意)として知られるその原則には、エルサレムのユダヤ人居住区をイスラエルの首都、アラブ人居住区をパレスチナの首都として承認し、非武装パレスチナ国家を建設することが含まれている。
イスラエルは大規模な入植地を併合し、他の土地を交換で割譲し、ユダヤ人入植者をその外のパレスチナ主権地域に再定住させる。
しかし、2020年にスイスが行ったイニシアチブの評価では、イスラエル側とパレスチナ側の双方で政治的な支持が得られず、イニシアチブの効果が薄れていると結論づけた。2022年、スイス外務省は2023年末までにこのイニシアチブへの財政援助を打ち切ることを決定した。
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解決への道筋は?
ガザの運命が当面の問題だ。イスラエルはハマスの消滅を目指しており、ハマスの権力を残すような取引には応じないとしている。イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザは非武装化され、イスラエルの完全な安全管理下に置かれなければならないと述べている。さらにイスラエルがガザを統治したり、そこに入植地を再確立したりすることは望んでいないと述べている。
ハマス側は組織の存続を望み、ガザを除外するような取り決めは幻想だと述べている。
ターゲスアンツァイガーは「長期的に見れば、ユダヤ国家が平和で安全に暮らせるのは、隣国との和解があってこそだ。ノルウェー、スペイン、アイルランドのイニシアチブは、そのための新たな推進力となる」と報じている。
英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子
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