中東で平和維持活動を続けるUNIFILとスイスの貢献
イスラエルとレバノンの間で60日間の停戦合意が結ばれた。違反の有無を監視するのは、半世紀前から同地域の平和維持活動を担う国連レバノン暫定軍(UNIFIL)だ。スイスはUNIFILには参加していないが、これまで他の国連休戦監視機構(UNTSO)に参加している。
国連の「レバノン暫定軍」(UNIFIL)とは
国連レバノン暫定軍(UNIFIL)は、現時点で1万人強をレバノン南部に展開する平和維持部隊だ。1978年3月、イスラエルによる最初のレバノン侵攻を受けて国連安全保障理事会が設立した。このレバノン侵攻は、パレスチナ・ゲリラが同国からイスラエルを襲撃したことに対抗するものだった。UNIFILの当初の任務は、レバノンからのイスラエル軍の撤退を確認し、国際平和と安全を回復し、かつレバノン政府がこの地で権威を回復できるように支援することとされた。
UNIFILの主な構成員は、各国から出向して国連と共同で活動する軍事・警察要員だが、一部に民間人もいる。ヨーロッパからはイタリア、フランス、スペイン、アイルランドなどがUNIFILに参加している。西洋諸国で派遣者数が最多なのはイタリアで、900人近い兵員を投じている。全体で最大の要員派遣国は、1231人を送り込んでいるインドネシアだ。
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時代とともに大きくなるUNIFILの役割
UNIFILはこの数十年間、さまざまな難題に直面してきた。イスラエルとレバノンの戦況に応じて任務も移り変わった。
1982年6月、イスラエルは2度目のレバノン侵攻を開始した。イスラエルは、主にキリスト教徒からなる民兵組織、南レバノン軍の支援を得てレバノン南部に独自の「セキュリティゾーン」を設定し、2000年までこれを維持した。イスラエルに抵抗するため、イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラが創設され、レバノンの政治・軍事に強い存在感を示すこととなった。
イスラエルは2000年4月、レバノンからの完全撤退を発表。5月までにイスラエル国防軍と南レバノン軍の両者が撤退した。国連は「ブルーライン」を画定して撤退を確認し、占領はいったん終わりを迎えた。同年10月、国連安全保障理事会は決議1310号を採択し、レバノンに対して、ヒズボラが本拠とした南部での支配力を強化するよう促した。
しかし2006年、イスラエルとヒズボラの間で戦闘が起きると、安全保障理事会は決議1701号を採択し、UNIFILの任務を大幅に拡大した。UNIFILの兵力をレバノン軍の兵員数に相当する1万5000人に増員するとともに、海上部隊を編成し、レバノン海軍を支援して沿岸海域の監視と無許可の武器移転の防止に当たった。
国連初の平和維持活動UNTSO
UNIFILの活動は、国連休戦監視機構(UNTSO)の枠組みの中で行われている。UNTSOは、軍事監視員を派遣し、PKOを支援。これにスイスも積極的に関わっている。
1948年設立のUNTSOは、国連初のPKOだ。非武装の軍事監視要員約150人と文民要員200人以上からなる。
UNTSOの監視員は、レバノン南部のUNIFILとゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍の支援に当たっている。シリア領のゴラン高原は、1967年の第3次中東戦争(6日間戦争)でイスラエルが侵攻し、今も軍事占領下にある。UNTSOはまた、エジプト、イスラエル、ヨルダン、レバノン、シリアに連絡事務所を置き、対話と地域協力を推し進めている。
ガザ危機後UNIFILが直面する試練
UNIFILは、2024年10月1日にイスラエルがヒズボラに対する地上作戦を開始して以来、レバノン南部の拠点で20回を超す攻撃を受けてきた。2023年10月のガザ紛争勃発以来、武装組織とイスラエルは国境を越えて戦火を交えている。
2024年10月29日には、ヒズボラまたはその関連組織が発射したとみられるロケット弾がレバノン南部ナクーラのUNIFIL本部を直撃。砲弾は車両整備場に落下して火災が発生し、平和維持要員のオーストリア兵士8人が軽傷を負った。
イスラエルによるレバノンへの地上侵攻で、国連平和維持部隊は幾度となく危険にさらされている。11月7日、マレーシアの平和維持要員6人が、国連のバスで検問所を通過中に、イスラエルの激しいドローン攻撃を受けて負傷。付近の車内にいた3人が死亡した。その翌日、UNIFILは、イスラエル軍兵士が掘削機とブルドーザーで平和維持拠点のフェンスとコンクリート建造物を破壊したと発表した。
UNIFILはこれらの行動を意図的な攻撃とみなしている。UNIFILは10月、イスラエル軍に対し、イスラエルとヒズボラに敵対行動の即時停止を求める国連安全保障理事会決議1701号違反であると非難した。また、イスラエル軍の攻撃がUNIFILの要員を標的にして負傷や活動妨害や設備破壊をもたらした複数の事例を指摘した。
イスラエルは、国連平和維持部隊を故意に標的にしているとの非難に反論する。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は10月14日のビデオ声明で、UNIFILを「一時的に危険から遠ざけるべきだ」と主張した。UNIFILは、イスラエル軍がUNIFILに対して「ブルーライン付近の陣地を明け渡すよう執拗に求め、国連の拠点を故意に破壊している」とする。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は同月、UNFILへの攻撃は「戦争犯罪に当たる可能性がある」と警告した。UNIFILは、同機構や要員派遣国に対する圧力に屈することなく活動を遂行すると表明している。
スイスが関与する国連PKO
スイスはレバノンのUNIFILやゴラン高原のUNDOFに直接参加してはいない。SWISSINT(スイス軍国際司令部)の広報責任者ダニエル・セクレール氏は、swissinfo.chのメール取材に対し、「中東にスイス軍兵士を派遣している唯一の活動が、国連休戦監視機構(UNTSO)」だと明言した。
SWISSINTは、連邦憲法と軍事法の定めにより、スイスの平和維持活動を担っている。この活動はスイス軍の3つの主要任務のひとつとされる。
スイスは、1990年以来、世界各地の国連平和維持活動に非武装の軍事監視員とリエゾン・オフィサー(連絡将校)を派遣。現在、18カ国で二等兵から少将まで幅広い階位の300人近くが活動に貢献している。
スイスは、UNTSOの一員として、イスラエル(司令官を含め3人)、シリア(6人)、レバノン(3人)、エジプト(1人)に軍事要員を駐留させている。ヨルダンはUNTSOの活動地域だが、スイスからは派遣されていない。
スイスのUNTSO への貢献は、2021年10月に転機を迎えた。グテーレス国連事務総長がスイス軍のパトリック・ゴーシャ少将をUNTSO司令官に任命したのだ。スイス人が国連PKOを指揮する初めての例となった。
11月26日、イスラエルとヒズボラの間で60日間の停戦合意が交わされ、翌日発行した。UNIFILは合意が守られているかを監視する。スイス連邦安全保障政策事務局(SEPOS)外部リンクはswissinfo.chの取材に、現時点では国連からの要請がないため「スイスがUNIFILに参加する予定はない」と回答した。「しかし、スイスは地域の動向と軍事的平和促進の可能性を注視している」とも付言した。
SEPOSによると、PKOの派遣は連邦内閣(政府)による閣議決定があれば足りる。武装部隊の派遣には連邦議会の承認を得る必要がある。
編集:Lindsey Johnstone/ds/livm、英語からの翻訳:宮岡晃洋、校正・加筆:ムートゥ朋子
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