国際養子縁組を禁止する国が増加 その理由は?
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スイスは国外から養子を迎える国際養子縁組を将来的に禁止する。同様に禁止する国々の多くは子どもの福祉を守ることが目的だが、権力や打算で禁止する国もある。
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スイス連邦政府は先月、将来的に国際養子縁組を禁止する意向を表明した。
政府は2023年、1970~99年の国際養子縁組に重大な不正があったことが、政府委託の報告書で明らかになったと公表外部リンクした。これはチューリヒ応用科学大学(ZHAW)が行った調査外部リンクで、政府は、不正の兆候があったにもかかわらず、当局が適切な措置を講じなかったことを認めた。
バングラデシュ、ブラジル、チリ、グアテマラ、インド、コロンビア、韓国、レバノン、ルーマニア出身の数千人の子どもたちが、人身売買、書類偽造、出自情報の欠落などの違法行為によってスイスに連れてこられた。こういったケースでは、生理学上の親の同意書が欠けていることが珍しくなかった。チリやブラジルでは、子どもの出生証明書が偽造された事例が複数報告されている。
「抜け道は常にある」
「養子縁組が禁止されたからといって、養子縁組が行われなくなるわけではない」。国連子どもの権利委員会のフィリップ・ジャフェ氏はswissinfo.chにそう語る。「子どもをそんなふうに簡単にスイスに連れてくることはできなくなるとしても、こうした養子縁組は続くだろう。卵子提供の権利と同様、スイスの法律はすべての国で起こることに法の網を張り巡らせているわけではない。ある程度はスイスで規制できるだろう。しかし、女性がスペインに行き、少し違った方法で妊娠することを阻止することはできない」
ジャフェ氏は、スイスの国際養子縁組禁止には 「偽善的 」なものがあると感じている。「1980年代は1000件もあったのに、現在の国際養子縁組は年間30件程度だ。スイスは今になってそれを禁止しようとしている」
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「抜け道は常にある」とジャフェ氏は言う。「カリフォルニアで代理母から生まれた子どもたちがいる。カリフォルニアでは代理母の法制度が整っている。そして、70代の夫婦が合法的に養子縁組した赤ん坊を連れてスイスにやってくる。国境でできることはあまりない。子どもを取り上げることもなければ、夫婦の入国を拒否することもない」
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スイス連邦司法省私法課のジョエル・シッケル・キュン副課長は、禁止の対象は「養親になる予定のスイス在住者で、現在外国に住んでいる子どもの養子縁組を申請する場合」だと説明する。
「海外に住んでいる人が居住国で養子縁組をし、その後家族としてスイスに移住するケースは対象外だ。海外での代理出産は通常、国際養子縁組とは見なされない」とswissinfo.chに語った。
国際養子縁組の暗部
欧州のいくつかの国は、深刻な違反行為が認められたとして、国際養子縁組を禁止した。多くの場合、実の親をだまして子どもを引き取り、仲介者や当局関係者は違法な報酬を受け取っていた。
「多額の金銭が絡むため、純粋な善意で養子縁組を行う人はまれだ。お金の存在は多くの悪徳業者を引きつけ、倫理ある縁組はほぼ実践不可能になる」とジャフェ氏は言う。 すべては汚職、またそのリスクに帰結し、国際養子縁組のプロセスが本当に清廉なものになるかどうかは極めて不明だという。「ハーグ条約が目指したのはまさにこの問題に対処するためだった。ハーグ条約は一部の国では効果を上げている。例えばブラジルはベラルーシやペルーよりもはるかに効果が出ている。だが問題は依然残る」
「国際養子縁組に関する子の保護及び国際協力に関する条約」(1993年ハーグ条約)は、国際養子縁組における子どもの保護を目的として1995年に締結された。しかし多くの国が未批准で、監督体制の不備が指摘されている。スイスは2005年に加盟した。
日本は批准しておらず、政府は国際養子縁組の数外部リンクも把握していない。日本が批准しない理由について、政府(安倍晋三政権)は2015年の浜田和幸参院議員の質問主意書への答弁外部リンクで「関係省庁間の協力体制を整備するなどの必要があり、締結の実現可能性について更に検討を続けていく必要がある」との認識を示している。
これとは別に、国際結婚における「子の連れ去り」を規制する「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)が1980年に採択されている。これには日本も2013年に締結外部リンクしている。
子どもの権利委員会は1月、ペルーの子どもの権利について検討したところ、12〜17歳の子どもが毎月700〜800人が行方不明になっていた。ジャフェ氏は「末路は想像にかたくない」と言う。「ある者は遺体で発見され、ある者は人身売買され、ある者は性的虐待を受け、ある者は疑わしい状況で養子に出される。子どもの保護を優先せず、このような問題を見て見ぬふりをする国では、養子縁組が倫理的に行われているという保証は決してない」
組織的な違法行為
オランダ政府は2024年、自国民が外国から養子を迎えることを禁止した。きっかけは、2021年に公表された報告書で、数々の違法行為が明るみに出たことだ。すでに手続きの始まった養子縁組は対象外で、新規の縁組は認められない。2030年までに国際養子縁組を段階的に廃止する。
デンマークは2024年、国内で国際養子縁組を支援する唯一の認定機関が不法行為の報告を受けて事業を停止し、それによって国際養子縁組が行われなくなった。ある報告書は、1970〜80年代にかけての韓国からの養子縁組が組織的な違法行為によって行われていたとしている。
ノルウェーでは大規模な養子縁組スキャンダルが起き、韓国とエクアドルの子どもたちが親元を騙して引き取られ、偽造書類を与えられて西欧の家庭に売られていたことが明らかになった。国内の政策機関から養子縁組制度の一時停止を勧告されたが、政府は問題の調査が終了するまで制度を継続することを決定した。
ベルギーのフランダース地方は2023年、エチオピア、ガンビア、ハイチ、モロッコで報告された不正行為により、新規の国際養子縁組をすべて停止した。そのなかには、子どもが両親の意図に反して引き離されたケースもあった。
英国当局は2023年、カンボジア、エチオピア、ナイジェリアからの養子縁組において、子どもの人身売買の証拠と金銭的不正行為を突き止めた。縁組に際しては母親に強要したり、孤児院が報酬を受け取ったりしていた。エチオピアはすでに2018年に国際養子縁組を禁止している。
政治利用も
各国は養子縁組のプロセスにおける人身売買や虐待、倫理的違反に対する懸念を払拭するため、より厳しい規制措置を講じている。
その一方で、政治的な理由から国際養子縁組を禁止する国もある。外交交渉の手段として、あるいは欧米諸国への報復として国際養子縁組を利用する国もある。
すべての始まりは、ルーマニアの独裁者ニコラエ・チャウシェスクだ。出生率を上げることに執念を燃やし、中絶を禁止し、胚を「国家の財産」とまで言った。その結果、約10万人の孤児が非人道的な環境で暮らすことになった。1989年にチャウシェスクが死去した後、ドイツの雑誌「シュピーゲル」が、捨てられたり、病気になったり、栄養失調になったりした子どもたちの悲惨な暮らしを報じた。
1990年、ルーマニアは中絶を解禁し、国際養子縁組を許可した。最初の3カ月で、1500人近くの子どもたちが適切な手続きなしに、国外の新しい家族のもとへ送られた。
2004年、ルーマニアは欧州連合(EU)加盟の条件として、国際養子縁組を禁止した。
制裁への対抗措置
ロシアでは米国人によるロシア人孤児の養子縁組を禁止する通称「ディマ・ヤコブレフ法」が2013年1月1日に施行された。この法律は養子として米国に渡り、炎天下の車内に放置されて死亡したロシア人の子どもの名前をとってそう呼ばれる。米国は2012年、ロシアでの人権侵害に責任があると見なした個人に制裁を科す「マグニツキー法」を制定しており、ディマ・ヤコブレフ法はそれに対するロシアの対抗措置と言われる。
ロシア下院のヴャチェスラフ・ヴォロディン議長によると、1993年以来、10万人以上のロシアの子どもたちが外国人の養子になっている。
ウラジーミル・プーチン大統領もまた、養子縁組を政治利用した。2022年、外国人がロシアで代理出産サービスを利用することを禁止する法律に署名した。
2023年には性別変更を禁止する法律が施行され、性別を変更した外国人がロシアの子どもを養子にすることもできなくなった。
2024年、ロシアは外国人に対する養子縁組の規則を強化した。性転換が法的に認められている国(スイスも含む)の市民は、医療処置であれ、公的身分証明書の修正であれ、ロシアの孤児を養子に迎えることができなくなった。
ロシアの議員たちは、この新しい規制によって、養子となったロシアの子どもたちが海外で性別移行を受けるのを防げると主張する。世界のLGBTQの権利に関する最新の統計外部リンクによると、性別移行はイラク、サウジアラビア、アフガニスタンなど約90カ国で禁止されている。
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元政治犯で、ロシアの養子縁組禁止に反対する活動家でもあるウラジーミル・カラ・ムルザ氏は、swissinfo.chに「子どもを人間の盾にするのは、テロリストとウラジーミル・プーチン政権の戦術だ」と語る。「2012年以来、ロシア当局の公式な国策となっている」
カラ・ムルザ氏はプーチン氏の「遺業」について「将来の歴史教科書のプーチン時代の章は、腐敗した政府高官に対する西側の制裁に対抗し、クレムリンは自国の孤児たちを盾にして西側に復讐したと記述されるだろう。この政権に対する道徳的な非難として、これ以上のものはない」と言う。
ただ米国の調査によれば、国際養子縁組を禁止しているにもかかわらず、ロシア当局はウクライナ戦争で、ウクライナの子どもたちを誘拐、不法に国外追放し、養子縁組を斡旋してきた。

映画監督のサラ・マッカーシー氏は、プーチン政権下のロシアにおける子どもたちの運命を追ったドキュメンタリー映画「The Dark Matter of Love」(仮訳・愛のダークマター)を制作した。ロシアが養子縁組を禁止する前、米国に養子に出された最後のロシア人の子どもたちの物語だ。
「私たちが住むこの世界では、2万人のウクライナ人の母親が息子や娘と引き離されている。子どもたちは、領土と引き換えにするための交渉材料ではない」
1979年から2015年までの一人っ子政策の間、中国では人口増加を抑制し貧困を減らす措置の一環として、16万人超の子どもたちが国際養子縁組された。
2016年、政府は一人っ子政策を廃止した。
2024年9月、中国当局はごく例外を除き、国際養子縁組プログラムの終了を発表した。
中国の最近の国際養子縁組政策の転換は、いくつかの要因が考えられる。政府は、国際養子縁組を認める前に国内養子縁組を優先するハーグ条約の精神に沿ったものだとしている。中国は2005年に同条約に加盟した。
中国は人口危機にも直面している。国内の出生数は2016年の1883万人から2023年には902万人に激減しており、中国が国際養子縁組をためらう理由にもなっている。
英紙ガーディアンによると、米国では8万2674人の子どもが中国から養子として渡っており、この数はどの国よりも多い。ある米国紙は「中国共産党は、より広範な地政学的ゲームの駒として子どもたちを利用することを望んでいる。もしそうだとすれば、養子縁組はロシアと同様、国家間の関係における『外交交渉の切り札』と化している」と論じている。
Edited by Balz Rigendinger/ts、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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