途上国援助、ドナー国はなぜ目標達成できないか
スイスは2016~20年期における途上国援助の目標額は達成できない見込みだ。大半のドナー国も同様の状況にある。途上国を置き去りにしないためには、連帯感を広げることが重要だと専門家は指摘する。
スイスは国際協力戦略を定期的に定めている。現在の目標期間(16~20年)は年末に終了する。今期は途上国援助の実績が目標額を下回ることは確実だ。コロナ禍での厳しい財政状況に鑑み、連邦政府は来期21年~24年の援助目標をすでに控えめに設定している。
スイスの状況は各国と比べてどうだろうか?
各国の援助実績を比較する上で最も重要な指標は、経済協力開発機構(OECD)が明確に定義づけた「政府開発援助(ODA)」だ。この指標を基に「拠出額が特に多い、または少ない国」「スイスの世界順位」「スイスのODA実績の傾向」について調べてみると、目標額の達成に苦労している国はスイスに限らないことが分かる。
ODAとは、援助を受ける国の社会的・経済的発展を支援するための経済協力を指す。ODA実績は、OECDの開発援助委員会(DAC)が定義・管理する国際基準に基づいて算出される。資金協力には、無償資金協力(贈与)と有償資金協力があり、前者は支出額を計算する際に後者よりも比重が置かれる。
援助実績のデータ比較に関してチューリヒ大学のカタリーナ・ミカエロワ教授(開発政策学)は「(ODA実績は)拠出国の比較に実に適している。当然ながらDACメンバーではない国の比較は難しい」と語る。
国が大きければ、拠出額も多い
ODA実績は経済大国が上位を占める。拠出額が圧倒的に多いのが米国だ。ドイツ、英国、日本、フランスも下位の国を大きく引き離している。
対GNI比では裕福な小国がトップ
経済大国がより多くの援助金を支出していることに、あまり驚きはないだろう。OECDは各国の経済規模に応じた拠出額を比較するため、ODAの対国民総所得(GNI)比を算出している。
この計算方法では順位が全く異なる。
対GNI比でみると、米国の順位は著しく下がり、日本の順位も何位か後退している。ここで上位を占めるのは英国や裕福な小国が中心だ。スイスも裕福な小国として上位3分の1に食い込んでいるが、上位国との差は大きい。
多い意思表明、少ない行動
ここで顕著なのは、国連目標である対GNI比0.7%を達成している国が5カ国しかないことだ。この目標値が1970年代から存在し、参加国が定期的に合意しているにもかかわらずだ。
これには専門家のミカエロワ氏も首を横に振る。「本当に妙なことだ。各国はこの目標値を達成する意志を国際レベルで繰り返し確認しているが、実際は何の変化もない」。では、なぜ各国は達成できないと分かっている目標値に合意するのだろうか?ミカエロワ氏はこの状況を嘆く一方、理解も寄せる。「目標値の合意を取りやめ、『我が国は達成できない』とOECDメンバーの途上国に面と向かっては言えないのだろう」
連邦外務省は0.7%の目標値を下回っていることを認めたが、同時にこう弁解した。「目標値を支持したからといって法的義務が生じるわけではない。目標値は長期的目標という意味合いが強い」。長期とはどの程度の期間を指すかについて、同省は「連邦の現在の財政状況では、0.7%の目標値を今後数年で達成することは非現実的だろう」と言明を避けた。
中間目標値の達成も厳しい状況
各国は国連目標に加え、指針となる独自の目標値を定めている。例えばスウェーデンやノルウェーは国連目標を大幅に上回る1%に設定。英国は0.7%を維持するが、今後数年は引き上げない予定だ。
スイスでは連邦議会がODA予算を定期的に決める。2016~20年期の対GNI比の目標値は、国連目標を大幅に下回る0.5%。だがミカエロワ氏によれば、0.7%を達成するための中間目標として国連に通知すれば、0.5%を目標値に設定することに問題はない。他国も同様の対応を取っているという。
スイスはこの0.5%目標でさえ達成できるとは限らない。ただ、スイスだけがこうした状況にいるわけではない。「これは中間目標ではあるが、この目標値を中期的に超えることが難しい国もあるだろう」(ミカエロワ氏)。スイスの場合、達成できるかどうかは政府がこの目標をどう解釈するかにもよるという。連邦外務省はこう説明する。「ODAの対GNI比は国際的な指標だが、あくまで実績を過去にさかのぼって計算するものだ。財政分野における政策誘導の手段ではない」
ODAに算入できる難民受け入れ費用
スイスが16~20年期の目標値を達成できなかった主な理由は、難民受け入れ費用の減少だ。難民受け入れ費用は少なくとも一部をODAに算入できる。ただ、この計算方式を巡っては意見が割れている。「一般人にこれは受け入れられないのではないか。難民受け入れ費用がODA実績に含まれているなど誰も想定していない」(ミカエロワ氏)
難民受け入れ費用が減少しているのはスイスだけではなく、大半の拠出国で全般的に減っている。しかしミカエロワ氏によれば、財政規模の小さい国では難民受け入れ費用を算入するかしないかでODA実績が大きく変わる。
難民受け入れ費用が急減したからといってODA拠出額が必ずしも減るわけではないことは、ノルウェーが証明している。北欧の小国であるノルウェーは、難民数がここ数年間は減少しているにもかかわらず、アフリカでの2国間プログラムに焦点を当てることで、ODA予算を増やすことができた。
連帯感をどこまで広げられるか
コロナ危機による経済的ダメージは、ODAにも影響を与える見通しだ。連邦外務省は、現在は途上国援助よりも国内の財政問題に重点が置かれていることに疑問を挟まない。連邦政府は「経済状況が許す限り」目標値の0.5%を目指すとしている。だが来期21~24年については目標達成は経済的に厳しいとみられ、連邦外務省は0.45%と予想する。
途上国支援団体はこうした展開を懸念する。開発政策に関する実行支援型のシンクタンク「南同盟」は、「たとえ目標値が維持された場合でも、GNIが落ち込めばその分ODA総額も減少する」と指摘。カトリック系の人道援助団体スイス・カリタスは、コロナ危機の影響を鑑み、目標値を1%に引き上げるよう要求している。
ミカエロワ氏は、コロナ危機で貧困国はすでに相当な打撃を受けていると指摘する。「自国の補助金に必要だからと、スイスを含むすべての関係国が援助資金をカットすれば、これらの国は見殺しにされてしまうだろう」。たしかに国内企業の一部が切実に支援を必要としていることは分かると同氏は言う。「問題は、どこまでを視野に入れるかだ。世界の別の地域も視野に入れれば、必要な支援は極端に大きくなる。結局、問題は『私たちは連帯感をどこまで広げられるか』ということに尽きる」
(ドイツ語からの翻訳・鹿島田芙美)
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