EUへのロビイング 陰の舞台はダボス会議
![ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/643475375_highres.jpg?ver=1da64617)
欧州連合(EU)ではルール作りを担う欧州委員会を相手に、域内外の企業や業界団体が日夜ロビー活動を行っている。その主体や活動を記録する「透明性登録簿」を分析すると、スイスも少なからずロビイングの舞台になっている実態が浮かび上がった。その主役は世界経済フォーラム(WEF)とその年次総会「ダボス会議」だ。
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EUの内閣にあたる欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長が先月21日行った演説は、ドナルド・トランプ米大統領の就任式演説に対する応答が示されるものとして注目を集めた。フォン・デア・ライエン氏が選んだ舞台は、ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の総会だ。毎年開かれるこの会議に、同氏は必ず出席することにしている。
委員長だけではない。ダボスには毎年多くの欧州委員がやってくる。その大半は重要なスピーチをするわけでもなく、ロビイストとの会合に勤しむ。
欧州委員会へのロビー活動をする団体に登録が義務付けられている「透明性登録簿外部リンク」を分析したところ、EUの最高幹部が企業や業界団体など利益代表者との個別会合を開く回数が多い場所として、EU本部のあるブリュッセルの次に多いのがダボスだった。
フォン・デア・ライエン委員長の1期目(2020~2024年)に委員や本部職員がダボスでロビイストと会った回数は、パリとベルリンの合計を上回る。
こうした分析が可能になったのは、2014年以降、欧州委員会がロビー団体との会合をすべてウェブサイト上で公開登録するよう義務付けたためだ。企業、経済団体、非政府組織(NGO)、シンクタンク、その他の民間組織との意見交換が対象となり、外交官、政府関係者、議員との会議は含まれない。
欧州委員と会えるのは、EU透明性登録簿に登録した利益代表者に限られる。
EUへのロビー活動は、欧州委員やその関係者と会うだけではない。多くの企業は、自国の政府に働きかけたり、業界団体に加入したりしている。
さらに企業は、欧州委員会の専門家グループに参加したり、欧州委員会の公開協議に出席したりすることもできる。
ロビー活動の中心はブリュッセル
風光明媚な山岳リゾート、ダボスがいかに重要なロビー活動の舞台だとしても、EUのお膝元ブリュッセルには敵わない。ブリュッセルでは至る所でロビー活動が展開しており、把握するのが難しいほどだ。
それでも透明性登録簿からは、ブリュッセルで最も影響力が大きいのが誰かわかって興味深い。
フォン・デア・ライエン氏第1期中に欧州委員が出席したすべての会合のうち、ブリュッセルでの対面会議が46%、バーチャル会議が48%、ダボスや世界のその他の地域での会合は残りのわずか6%だ。
スイスに拠点を置く企業・団体もブリュッセルで盛んにロビー活動を行っている。透明性登録簿から欧州委員への接触回数をロビイストの本拠地別にみると、スイスは8番目に多かった。
(欧州のほとんどの団体が本部を置くベルギーは、個別会合4375回と首位を占めたが、以下の表では見やすさを考慮して省略してある。)
この順位だけ見れば、スイスは非常にうまくやっているようだ。スイスの利益代表者は、オーストリアの同業者の2倍も多く、欧州委員会幹部と個別に会談しているのだ。
しかし、これは必ずしもスイス企業のロビー活動が成功しているという意味ではない。欧州委員と多く接触しているのは企業ではなく、ダボス会議を主催するWEFだからだ。
欧州委員またはEU本部職員との会合数のロビイスト別ランキングでは、WEFは70回と全体の8位に入っている。スイスの組織として最も多い。
透明性登録簿外部リンクからは、これらの会合の主な議題もわかる。パンデミックへの対応、気候政策、欧州スキルアジェンダ外部リンク(EU市民が気候中立化やデジタル化に適応できるようにするための教育政策)などだ。
WEF以外でEUへのロビー活動が多いのは、主にジュネーブ地方に拠点を置く国際機関だ。このためスイス拠点のロビイストと言ってもスイスの利益とは直接関係がなく、一企業の利益のためのロビイングとは限らない。
スイス拠点の企業として盛んにロビー活動を行っているのは、米国の化学製品グループ、ダウ・ケミカルの欧州子会社であるダウ・ヨーロッパである。
米国の電子商取引(EC)イーベイや種子・肥料を手がけるコルテバ、農業向け技術のインディゴ、化学ケマーズといった米国企業も、スイスに置く欧州法人がEUへのロビイングを担う。一方、スイス人従業員が多いなどスイスブランドとしての認知度が高い企業は、EUへのロビー活動にさほど熱心ではない。
例外はネスレとUBSだ、2社のEU幹部との実際の接触回数は、透明性登録簿が示すよりもやや多い。ネスレの代表者は、10回の個別会合に加え、EU委員会との会議にも15回出席している。
UBSも、業界団体のスイス・ファイナンス・カウンシルを介したロビー活動も行っており、第1次フォン・デア・ライエン委員会とは6回会談している。
二国間協定で重要度増す可能性
こうしたロビー活動の実態は、今後変化していく可能性もある。筆者が所属する独調査報道機関Table.Briefingsによる分析外部リンクでは、ジャン・クロード・ユンカー前委員長時代に比べるとフォン・デア・ライエン委員会と利益団体・企業との会合数は19%減少した。また企業代表者に比べ、NGOの重要性もわずかながら高まってきている。
しかし2024年12月に2期目が始まったフォン・デア・ライエン氏は「競争力」という面に全精力を傾けている。同氏はEUを再び企業にとって魅力的な場所とし、障害となる規制を軽減し、単一市場をより密に統合したいと考えている。企業代表者からのロビー活動が活発化する可能性は十分にある。
スイス企業がブリュッセルでのロビー活動を増やそうと考えるかどうかは、昨年末にスイスとEU間で交渉が妥結した二国間協定の行方にもかかっているだろう。EU市場への参入条件としてダイナミックな法採用(EUで法令改正があった場合、スイス国内にも適用される)が導入される見込みとなり、スイス企業にとってもブリュッセルへの働きかけがより重要になってくるかもしれない。
唯一確かなのは、ダボスは欧州委員会にとって今後も重要な場所であり続けるということだ。今年は27人の欧州委員のうち、10人がダボス会議に出席した。
編集:Benjamin von Wyl、独語からの翻訳:阿部寿美代、校正:ムートゥ朋子
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