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留学生がスイスの大学で学ぶのは難しい?

国際競争に負けない、スイスの大学教育

週50~60時間も勉強するというスイスの学生。ベルン大学講堂にて Universität Bern

人口比でノーベル賞受賞者数は世界最多、国民一人当たりの特許申請率も世界トップレベルのスイス。大学生の学力低下が叫ばれて久しい日本とは対照的に、スイスの大学は教育レベルの高さで国際的高水準を保っている。

その背景には、厳選された学生数、留学生や外国人講師の受け入れ、そして何よりも「大学で学生を鍛えること」が挙げられる。

  少ない大学進学者数と厳しい入学資格

 同一年齢層で大学に進学する若者は約20%のスイス。日本が50%を超えたことに比べると、スイスの大学進学率はかなり低い。その理由は、9年間の義務教育終了後、大学進学に向けた普通高校と、学校と実務を兼ね備えた職業訓練とに教育の道が分かれるからだ。

 二元制システム ( デュアルシステム ) と呼ばれるこの教育制度の最大の特徴は、高等教育と職業訓練が社会的に同等の価値を持つことだ。職業訓練は左官業やパン屋といった伝統的なものから銀行職やIT分野など多岐に渡っており、職業の種類や経験年数によっては給料も大卒者に負けて劣らない。実際、職業訓練に進む人の割合は同一年齢層の3分の2に上る。

 こうしたシステムで大学進学を選択した高校生たちには「マトゥラ/マチュリテ ( Matura/Maturité ) 」と呼ばれる大学入学資格が必要だ。そのためには口頭試験もある高校卒業試験に合格し、論文も執筆しなければならない。つまり、学生はすでに大学入学前から、大学での授業についていける高い知識を持ち、リポート執筆に必要な論理的思考が身についていることを証明しなくてはならない。

外国人に開かれた高等教育

 近年スイスの学生数は増加傾向にあるが、留学生の数もまた増えている。大学教育の大部分は税金によって支えられているので、外国人学生をスイス人学生と同じように財政的に支援するのは問題にならないのだろうか。チューリヒ大学人文社会科学副学長オトフリード・ヤレン氏は次のように言う。

 「修士課程や博士課程で外国人が増えることは喜ばしいことだ。特に能力の高い外国人は、スイスの大事な人的資本なので、授業料は外国人学生にもスイス人学生にもあまり差があってはならない。外国人留学生のおかげでスイスの大学は国際色豊かであるし、優秀な人材が国内外から集まることでスイスは国際競争に生き残ることができる」

 

 スイスは外国人講師も積極的に受け入れており、スイスの大学教育は外国人に支えられているといっても過言ではない。事実、大学で教鞭を取る教授の約5割が外国人だ。

勉強は週50~60時間

 ところで、大学の授業はどうなのだろうか。2年前にチューリヒ大学の日本語学科学士課程を卒業したある卒業生は、学生時代、授業時間も含めて週に約50時間を勉強に費やしたと話す。

 「大学ではセミナーが一番大変だった。テーマに必要な文献を集めるのに苦労したし、パワーポイントを使った20分程度の発表もしなくてはならなかった。毎回ディスカッションがあり、どのセミナーでも最低20ページの論文提出が求められた。論文提出の期限が学期終了後2、3週間後だったので、時間的にも大変だった」

 実際、スイスが参加しているボローニャ・プロセスという大学改革制度にはECTSと呼ばれる卒業に必要な単位があり、通常1学期(約15週間)には30ECTSの取得が目安とされている。そのため、この30ECTS取得には1週間に60時間を大学の勉強に費やすことが求められている。その時間の中には授業時間はもちろん、授業の予習復習、発表準備やレポート作成に費やす時間が含まれる。

 また、スイスの大学を卒業するには数々の試験を通らなければならない。10年以内に大学を卒業する学生の割合は全体で7割程度だが、大学や学科によって落第率に差がある。

 2年前にチューリヒ大学法学部を卒業し、学生時代に1年間ジュネーブ大学で学んだ経験を持つヤニック・ショッホさんは、試験の厳しさを次のように語る。

 「中間試験では4割の学生が試験に落ち、さらに卒業試験では2割の学生が落ちた。卒業試験には六つの口答試験と三つの筆記試験があり、そのうちどれか一つでも合格しないと、半年後にまた全試験をやり直すことになる。再試験にも失敗すると、もうその学科にはいられない。それまでの5、6年間が無駄になってしまう」

 

 こうした厳しいシステムを通過しながら、スイスの学生は全般に多くの情報を収集し、テーマを学術的に分析し、論理的に批判する能力を習得する。そのような高い情報収集能力と分析力は経済界でも需要が高い。学術分野に限らず労働市場においても国際競争が激しくなる昨今、競争に負けない優秀な人材を育てるという国や州の根本姿勢や教育システムが、未来のスイスを支えている。

授業料は各大学によって多少の差はあるものの、入学金はなく、平均して年間約1500フラン ( 約14万円 ) 。留学生には200フラン ( 約1万9000円 ) ほどの追加授業料があるところもある。

スイスを含めヨーロッパでは現在、ボローニャ・プロセスと呼ばれるヨーロッパ高等教育改革が進行中だ。ボローニャ・プロセスの目的は、大学教育を学士と修士の2課程に分け、ヨーロッパの単位交換制度を導入して授業の質を各大学間で均一にし、大学生がヨーロッパ内の他大学に留学しやすくすることにある。

スイスではボローニャ・プロセス導入前は、大学生が大学で初めて得られる学位は修士号にあたる「リツェンティアト/リサンス学位 ( Lizentiat/Licence ) 」だけだった。そのため、現在でも修士号を求人応募条件にしている企業が多数派だ。連邦統計局 ( BFS/OFS ) の2010年度の発表によれば、88%のスイスの学生が、学士号取得後2年以内に修士課程に進学する。

教育の質をチェックし、また向上させるために、講師および授業内容を学生に評価させている大学が多い。

チューリヒ大学の場合、大学側が授業に参加した学生全員に学期末、Eメールで授業内容を評価させ、その結果を各講師に送る。こうすることで大学側も学生も授業の質を監視でき、講師はいい加減な授業ができない。

また、連邦統計局 ( BFS/OFS ) は2年ごとに卒業生に対してアンケートを取っており、大学での勉強が現在の仕事に実際役立っているか等の質問が出される。結果はすべて公表されるので、一般の人も大学教育の監視の一端を担う。

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