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森の幼児教室 広大な森で子どもの可能性も広がる

屋根も机もおもちゃもない森の幼児教室。季節を体で感じ、自然の変化を発見する喜びにあふれている swissinfo.ch

午前8時半過ぎ、気温0.5度。子どもたちは落ち葉を踏み分けて元気に歩く。小さな背中にはリュックサック、森の小道に楽しそうな歌声が響く。森の幼児教室が今日も始まる。

スイスドイツ語圏では幼稚園は5歳からと遅く、入園前の幼児の多くが幼児教室に通う。特に「森の幼児教室(Waldspielgruppe)」は子どもの自立と社会性を求める親に人気が高い。

 ベルン市内のブレムガーテン森(Bremgartenwald)の入り口。森の幼児教室の先生ダニエラ・グロックさんが子どもたち一人ひとりを笑顔で迎える。11人の子どもたちは道端に野ネズミの巣穴を数え、キノコの大きさに驚きながら森の奥へと歩く。

 ドアもなければ屋根も机もないが、「森のソファ(Waldsofa)」のある場所がいつもの「教室」だ。これはたくさんの太い枝を円陣に積んで座れるようにしたもの。20人くらいは座れる。しかしまずはみんなでたき火をしておやつを食べるのが楽しみだ。リュックサックを下ろして始まりの歌を歌い、手袋を脱いだら枝を集めてマッチで上手に火をつける。たき火を囲んで、おやつの時間も賑やかに過ぎていく。

 その後子どもたちは自由に活動する。この「森のソファ」のそばでは、3歳の男の子と4歳の女の子が大きな薪にまたがり、糸のこぎりで枝を切り「コルクを生産中」。その向こうでは4歳の男の子が隣の子に、木の葉やキノコをつなげた自分の「作品」をそおっと触らせて得意げに解説している。

森の教室の良さ

 森の幼児教室は1950年代にデンマークで個人レベルの集まりとして始まったと言われている。スイスには室内の幼児教室はあったが、北欧における森での活動の様子が伝わり、1980年代にはブームと称されるほど数多くの教室が各地に誕生した。森の幼児教室が100以上ある州も稀ではなかったという。

 森の幼児教室は、3~4歳の子どもが週1、2回、2~3時間ほど親と離れて少人数で森の中で過ごす。森の入り口から決まった道を通り、「森のソファ」の周辺で時間を過ごす。開始時と終了時の歌や挨拶、季節に応じた行事などは行うものの、それ以外の時間は自由時間だ。

 室内の幼児教室とは違い、いつもの絵本やおもちゃ、文房具などは一切ない。子どもたちは森の中で自発的に遊びを見つけてくる。先生は子どもの意欲を尊重する。グロックさんは、「何かを促すよりは、子どもが始めた遊びに協力することが多い。森では自分で考えて遊ぶようになり、自然と想像力も養われる」と言う。

 幼児教室教員連盟(SSLV)の会長マーリス・フォルガー氏は、森での活動は室内よりも子どもの心身の発達に役立つと強調する。「広く大きい森という環境では、子どもの可能性も大きく広がる。これは長年の経験からの確信だ」

 「例えば、森で迷子になると危険だという先生の話を真剣に聞き、ほかの子どもの心配もするようになったり、木の根につまづいた経験を通してしっかりと歩き、お互いに助け合うようになる」とフォルガー氏はいう。

雨にも負けず

 ベルン在住のフォン・グンテン・朋子さんも、森の良さを実感している。「太陽があり、緑があり、風も吹く。そうした自然の中で子どもは安心し、情緒も安定してくる」と語り、そうした自由な空間が大事だと説明する。

 

 フォン・グンテンさんの長男レオン(7)君も、3歳から森の教室にも通った。レオン君は森の教室でのこぎりを使い始め、今もナイフや工具を上手に使う。

 「先生は危ないからと手を出したりせず、自由にやらせてくれる。それが楽しく、自信にもなったようだ」と語り、「刃のある工具などは家庭では使わせなかっただろう」と、フォン・グンテンさんは振り返る。次男ルカ(0)君も森の幼児教室に通わせるつもりだという。

 毎週通うという持続性も重要だ。「いつもの道を歩いて季節の移り変わりを体で感じ、先週まではなかったキノコの群れを見つけたり、天気や自然の変化を発見する喜びがある」からだ。

 また、森の幼児教室に天候は関係ない。雨が降れば土砂降りでもない限り、雨合羽に長靴という姿で、泥だらけになって森で過ごす。雪が積もれば動物の足跡を観察し、寒い日には走り回る遊びを考えだし、「雨が降れば雨水の流れを追いかけるのだ」。

 こうしたことは、天気の良い週末にときどき家族で森へでかけるだけでは経験できない。

言語習得にも効果

 昨年から森の教室に通っている、ハンガリー出身のマルトン(4)君は口数の少ない男の子だ。ハンガリー語を不自由なく話すが、スイスドイツ語はまだ思うように話せない。姉のボロッカ(6)ちゃんも以前はそうだった。

 母親のクリスティーナ・ニェステさんは3年前、ボロッカちゃんが言葉も分からず大人数の幼稚園で孤立するのではと心配し、室内の幼児教室だけでなく森の教室にも通わせ、「せめて言葉が理解できるようになってほしい」と願った。

 「ボロッカは、森の教室に通い始めてからすぐにスイスドイツ語を覚えた。さらに社会性も身につき、心配していた幼稚園にも問題なく通えた」と言う。マルトンも同じようにスイスドイツ語を覚えつつあり、森での活動で活発さも見え始めているという。

 フォルガー氏は、こうした例は多く耳にするという。森の幼児教室に通うことによって身体機能だけでなく、言語能力の発達や言語習得にも良い効果があることは一般的に認められているからだ。

 さて、森の教室が終わり、子どもたちは再びリュックサックを背負って、先生と一緒に森の入り口へ戻って行く。迎えに来た母親を見つけて大声ではしゃぎながら駆け寄り、それぞれに今日の報告をしている。「寒かった」などという不満は一言も聞かれない。3時間子どもから解放されることは親にとっても貴重な時間に違いない。

幼児教室は室内外を問わず主にドイツ語圏で行われている。フランス語圏やイタリア語圏の州では3歳から幼稚園が始まるが、ドイツ語圏の州では幼稚園は5歳からという事情が背景にある。

地方自治体などが管轄する幼稚園とは違い、幼児教室教員の資格などを持つ個人が運営する場合が多く、登録制度や全国的な統括組織もない。また、運営や指導に関する法的な規制もまだない。

しかし多くは、幼児教室の先生の組織である幼児教室教員連盟(SSLV)や下部組織である幼児教室相談所(FKS)に所属し、その指導ガイドラインの基準などに従っている。

そのため、幼児教室の数や通う子どもの人数などの統計はないが、例えばベルン州には400以上の幼児教室があり、森の幼児教室は80とも100以上ともいわれる。

幼児教室教員連盟では11月30日に、政府や州に対し、幼児教室の向上を図るための総合的支援を求める請願書を提出する。

遊びの場としてのみならず、社会性や自立心を養う機会として、また言語能力の発達が期待される場として年々人気高まっている。

なかでも森の幼児教室は人気が高く、ほとんどの教室は順番待ちだ。

森の幼児教室では、幼児教室教員連盟のガイドラインにより、子どもの人数は最大12人までとし、人数に応じて、2年以上の経験を持つ森の幼児教室教員1人、幼児教室教員1人、必要に応じて訓練生を含む3人が引率することが推奨されている。

1時間あたりの料金の目安は、普通の室内の幼児教室は5~15フラン(約410~1250円)、森の教室は1時間8~20フラン(約670~1670円)とされる。

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