くじに当たれば幸せか?
6つの数字を当てる「ロト」で繰越し金額が高くなればなるほど、誰もがそれを当てて、お金持ちになりたいという夢を抱くものだ。ギャンブルで金持ちになることが人間に幸せをもたらすのか?カジノやギャンブルを厳しく批判する精神分析者のマリオ・クミュール氏に聞いた。
スイスのロトは繰越金がたまり続け6月13日、ついに今年最高賞金額のおよそ1500万フラン ( 約13億円 ) が支払われ、支払い金額で過去2番目を記録した。ロト40年間の歴史上、最高は1990年に支払われた1820万フラン ( 約16億円 ) だった。
swissinfo.ch : 6月13日、「スイスロト ( Schweizer Zahlenlotto ) 」史上第2番目に高い賞金を当てた人がいます。ロトに勝つことは幸せにつながりますか。
クミュール : 偶然が決める勝負で全ての数字を当てた人は、偶然の法則に従ったという意味で幸運と言えます。賞金を勝ち取った人は、何も努力しないで幸福を得たという印象を与えます。まるで、神様にその王冠を与えられたかのようです。
swissinfo.ch : しかし、ロトで金持ちになった人が金銭的や精神的に不幸になるということはよくあります。ロトを当てることが幸運を意味するとは思えません。
クミュール : 高額の賞金をもらうと、多くの人はそれに圧倒されてしまいます。人間とお金との関係、特に急にお金を得ることが、現代社会では魔力のようなものになっています。お金の扱い方や投資の知識が不十分な上、お金が入った後も今までどおりに生活すれば幸福でいられると思い込んでいます。しかし幸福になることはまれで、多くの場合、間違った道を歩み、すべてを失うことになるのです。
カジノがよい例です。1回は勝つかもしれません。しかし、次の勝負では負けた人を相手にするわけですから、自分が勝つ可能性はほぼゼロです。そして、勝ったお金を失うことになるのです。
swissinfo.ch : ロトを毎週する人は、中毒でしょうか。
クミュール : カジノでの「ノンストップギャンブル」は人を破産に追いやりますが、ロトはそういった点でも中毒になりにくいですね。ロトは周期的なギャンブルです。秒刻み、分刻みに次々と賭けていくのとは違い、あまり危険なギャンブルではありません。
さらにカジノのギャンブルとは違い、ロトは社会的ゲームでもあります。多くの人が少額を賭け、1人が高額の賞金をもらいます。カジノのスロットマシーンやルーレットなどは、個人がノンストップで何度も何度も金を賭け続け、苦い敗北に至るのです。
swissinfo.ch : ロトの最終日に何枚ものロト用紙を抱え、ロトを受け付けるキオスクからキオスクを渡り歩き、大きな賭けをする人もいます。
クミュール : 逸脱した金額を賭けるような人は、例外です。カジノで個人的に賭ける人と、みんなが一緒になって賭けるロトに参加する一般人の違いは歴然としています。
swissinfo.ch : 賭けをすると別世界に入っていくような気持になります。別世界の魅力とは、賭けに勝つことだけでしょうか。
クミュール : 基本的には当然、賭けに勝つことが魅力です。また、自分の運だめしでもあります。人間は不思議な思考に抗しがたい力で引き寄せられる生き物なのです。次々と賭けていくギャンブルでは、損をした分を取り戻そうとする心理が働きます。また、特に自分は実生活で成功を収めることができないと分かっている人は、こうしたギャンブルに希望を託したりします。
基本的には株投資も同じメカニズムで動いています。ある株に投資し努力や苦労することでは得られない富を得ることができるのではないかと期待できるのですから。
swissinfo.ch : カジノのギャンブル中毒者に対しては、カジノ委員会、アドバイザー、心理カウンセラーなどが更生のための手助けをしています。
クミュール : それは偽善、アリバイ作り、恥部を隠すイチジクの葉のようなものです。カジノ委員会はカジノがギャンブル中毒者のおかげで成り立っていることをよく知っています。社会福祉的にアドバイザーを置いているのは、儀式にすぎません。本来なら、カジノ客の大半はカジノに入場させるべきではないのです。彼らが人生を台無しにしてしまうことは分り切っています。
また、ギャンブル中毒を効果的に治すことはできません。ギャンブル中毒はヘロイン中毒と同じように重症です。非常に治りにくい病気です。治療を受けている人の多くはすでに廃人です。薬もなければ、ヘロイン患者に代薬として与えられる「メタドン」のようなものもありません。カウンセリングで状況を少しは改善することはできます。しかし心理カウンセリングは、外科や内科のように治る保証はまったくないのです。
swissinfo.ch : 中毒になりやすい人というのはあるのでしょうか。
クミュール : 表面的な人や興奮しやすい人はどちらかというとなりやすいです。また、頭脳生体が壊れている人は、ギャンブル中毒の魅力から逃れられません。人生の危機にあり、現状からギャンブルに逃れようとする人もいます。初めてのギャンブルで大きく勝ち、それが基準となってしまう人は特に危険です。
swissinfo.ch : 国の役割をどう思いますか。カジノからの税収を得る一方で、ギャンブル中毒の治療に税金を使う。
クミュール : 国家がやっていることは、社会的にも道徳的にもスキャンダルです。人間の弱さや未熟さを利用した搾取です。搾取した金を老齢年金の資金にするのですよ。
swissinfo.ch : スイスではポーカーが大流行です。これについてはどうですか。
クミュール : ギャンブル文化が開花するのではないでしょうか。ポーカー、カジノもあり、オンラインギャンブルはスイス政府が認可する方向にあるようですが、
大きな問題であり、政府は不誠実です。
金融危機の「カジノ資本主義」が問題となりました。本家本元のカジノが成功するはずはありません。
エティエン・シュトレーベル swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )
勝ち負けが、ほとんど運に任され、参加する人の才能には左右されないゲームのこと。ギャンブルの代表であるルーレットはまったくの偶然の結果による。ブラック・ジャックなど参加者の判断によって進められるゲームは、その人の能力が勝負を多少は左右する。ルーレット、ブラック・ジャック、バカラなど「親」がいる場合は、親は有利な立場にあり、長期戦になると子が負ける。
古代ローマ時代はサイコロを使ったゲームが政府の禁止令にも関わらず広まった。ローマ法ではギャンブルで負け負債を負っても法的には追及されなかった。
中世ドイツの法律では、ギャンブルは禁止されていた。負けて失ったお金は戻ってくることはなく、負債を支払わなければ訴えられることもあった。
イギリスのリチャード獅子心王は12世紀、騎士のみにサイコロの賭けを許した。
16世紀から17世紀には、ギャンブルは禁止され、反則者には罰則があった。
17世紀にはギャンブルが科学的に研究されるようになった。
1654年、確立数学が生まれる。
19世紀、カジノが始まる。ロシアの文豪ドストエフスキーはルーレットにおぼれ、後に『賭博者』を著わした。
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