アンカー展、ハイジの世界を描写
イチゴを摘んで野に立つ少女など、スイス人なら知らない人はいないほど人気がある、スイスの自然主義画家アルベール・アンカーの回顧展が12月1日から、東京の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で開催される。
「故郷スイスの村のぬくもり、アンカー展」と題された展覧会は、ベルン美術館が協力し、堂々102点もの作品から構成され、アンカーの外国での初めての大回顧展になる。
フランス印象派のルノワールと同時代を生きた画家アンカーは、1831年ベルン州のアネット( Anet )に生まれた。画家になる決心をする前は、神学を勉強したインテリだった。23歳からパリで絵の修行を始め、33歳で結婚。その後は家族で冬はパリ、夏はアネット村で生活するようになる。そしてこのアネット村の人々の普通の生活こそが、アンカーの創作のテーマであった。
子供たち、自分以外には何も存在しないかのように
アンカーは村の人々の日常生活に暖かいまなざしを注いだ。その中でも特にアンカーが好んで描いたのが、家族に囲まれた子供たちの日常。刺繍や編み物に熱中する女の子、猫を抱く女の子、髪を結う女の子、など。
アンカーが描く子供たちはみんな、その行っている行為に没頭している。
「自分以外には何も存在しないかのように、今やっている日常の何でもない行為に集中する子供たちの表情。それは失われた楽園のような瞬間」
と『スイスの絵画』の著者エリカ・ビルタール氏が書くように、没頭した子供たちの表情は純粋な感情を完璧に表現している。
実は、女の子のモデルはアンカーの娘たちであることが多い。アンカーには、ルイーズ、マリ、セシルという3人の女の子がいた。
ハイジに通じる19世紀の生活描写
ルノワール、モネと一緒にパリのグレールのアトリエに通っていたアンカーは、印象派のフランスの画家たちとは違うリアリズムの道を選んだ。
「しかし、ルノワールと描いた主題は似ているのです。子供たちや日々の行為そしてハーモニーです」
と同展の基本的な企画を担当した、ベルン美術館の館長マティアス・フレーナー氏。
「日本の皆さんはアンカーを発見し、とても好きになってくれると思います。アンカーはリアリズムですが、19世紀の時代の良い面を写し取ってくれました。それはノスタルジーでもなく19世紀のスイスの本当の姿なのです」
またアンカーの描く世界は、同時代の小説『アルプスの少女ハイジ』にも通じるものだという。老人と純粋な子供との間の交流。それはそのまま、老人の横で読書する子供などを描いたアンカーの作品のテーマであった。
ところでアンカーは、生前すでにパリ万国博覧会に出品するような、著名な画家であった。ただスイス人に愛され、そのコレクッションが美術館にしろ、個人コレクターにしろすべてスイス国内であったため、今まで国外で知られる機会がほとんどなかった。
「日本での展覧会は、国外では初めての大回顧展。これを契機に、アンカーが国際的に知られることを望んでいます」
とフレーナー氏は結んだ。
swissinfo、 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
東京の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で、12月1日から1月20日まで開催されるアンカー展には、油絵64点、水彩36点、陶器2点が展示される。
同展はその後、郡山市立美術館、松本市立美術館、美術館「えき」KYOTOを巡回する。
スイス側からは、ベルン美術館が基本的な企画を行い、スイス・プロ・ヘルヴェティア( Pro Helvetia )が輸送費や保険費用を負担した。展覧会総予算は130万フラン( 約1億2700万円 ) だという。
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