スイスの風景 日本の写真家の視点で切り取る
日本の写真家3人とビデオ・アーティスト2人がヴァレー州のクラン・モンタナに滞在。この町とその周辺の風景を日本人の感性で切り取ったユニークな展覧会が、ベルンの日本大使館の広報文化センターで開催されている。これは日本・スイス国交樹立150年の記念行事の一つとして行われた(9月20日~10月4日)
これは、パリで育ったのち日本へ留学したラオス人のピツァモン・スヴァナヴォンさんの企画だ。日本への留学後ストックホルムで10年間銀行に勤め、ある日、「アートプロデューサーになる」と決めた。そこで、クラン・モンタナに大きな別荘を購入。ここを「アート・レジダンス」として、アーティストを(しばしば自費で)招待し約1カ月滞在してもらい、プロジェクトを一緒に話し合いながら決めていく。また創作過程でもいろいろな提案をする。「このプロセスがなんとも楽しい」とスヴァナヴォンさんは言う。
今回は3回目の企画だ。有名な写真家、津田直や今井智己(ともき)、垣本泰美(かきもとひろみ)、それにビデオ・アーティストのカップル、小瀬村真美&土屋隆哉を招待し、テーマを「クラン・モンタナとその周辺の風景」と決めた。
なぜ風景なのか?「クラン・モンタナは観光地として有名。ところがこのところ行き詰まっている。建物もスイスらしいものしかない。外国人の目を通して、違うクラン・モンタナがあるということを発見して欲しいからだ」
また、この企画は日本人のアーティストにとっても利点があり、外国に長期に滞在することで新しい創造性を自分の中に見いだすことができると言う。「結局、こうした企画は地域の住人にとってもアーティストにとってもウインウインになる」
ただし、当然ながらテーマに対する各アーティストのアプローチはそれぞれ違い、彼らの感性やバックグランドでスイスの風景を切り取る。津田直は、ヴァレー州の住民が高い山から引いた水路(ビス)に興味を持つ。崖にへばりついたような木造のビスの修理に多くの若者が犠牲になったというものだ。
今井智己はクラン・モンタナの歴史から、垣本泰美は地域に残る民話からインスピレーションを得ている。小瀬村真美&土屋隆哉は、ヴァレー州の風景の細部、岩、花、鳥、池などを写真で撮影した後、それらを一つの風景の中に再構成する。その場合、意図的に日本のびょうぶ絵風に加工する。つまり「人は結局びょうぶ絵などで培った日本人的感性で、外国の風景を美しいと見るのだ」と言わんばかりだ。
しかし、逆にこうした日本的な見方こそが、ヴァレー州の人々に強い刺激を与えてくれるのだろう。
(写真・© CMARTS 文・里信邦子 制作・スイスインフォ)
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