スイス言語の悩み
スイス連邦統計局が発表した2000年調査によるとスイス在住人口のうち、英語を母語とする人が1%を占め、国語の一つであるロマンシュ語人口をはるかに超える。
英語使用の伸びに応じて、ドイツ語圏ではスイスの他の公用語より英語教育を優先したいという傾向が強まり政治的には難しい状況に迫られている。
スイスの言語状況
スイスは4つの公用語が共存しているのが特徴であるが、その公用語のうちイタリア語とロマンシュ語は減少傾向でいずれも人口の6,5%と0,64%に減少した。それぞれ10年前に比べると3,5%と10%も減ったことになる。これに反して、フランス語を話す人口は10年前と比較すると12,4%増え149万人になり、スイス人口の20,4%を占めるようになった。ドイツ語は依然として64%ほどが主要言語としている。
ロマンシュ語の後退
スイス国語のうち、最も少数派であるロマンシュ語は現在3万5千人が母語としている。ロマンシュ語はラテン系とケルト系要素の混じった言語で、1938年から国語の一つになり、1998年には政府公用語となった。20年前には5つの方言を統括した書き言葉(rumantsch grischun)が造られたにもかわらず、東端の山岳地帯を主とするロマンシュ語人口は後退し続けている。独語、伊語、ロマンシュ語を併用するグラゥビュンデン州ではこのほど、五つのコミューン(地区)の言語多数派がロマンシュ語から独語に移った。これを危惧してロマンシュ地区代表がグラウビュンデン州に「役所や教育現場でのロマンシュ語強制使用」を要請している。
英語の伸びと第二外国語選択問題
今回の調査でスイス在住人口の1%が英語を母語としていると分かった。これは、ビジネスで国際化するチューリッヒ、バーゼル、ジュネーブなどのスイス都市の状況を反映している。このようなスイス国内での英語の伸びに、独語圏東部州では学校で英語を優先的に教えたいという要望が高まってきている。まずは、チューリッヒ州が2000年に、そして2002年11月にはスイス東部独語圏の8つの州が英語教育を仏語より2年先に小学校に導入することを決定した。この方針を受け、仏語州で大きな反発が上がった。仏語圏新聞“ルタン”は英語の見出しで「スイスの終わり(The end of Switzerland)」と取り上げ、政治的統一が危惧されると非難した。この反感の背後には、少数派言語出身のスイス人は就職にドイツ語が不可欠なのに対し、独語圏出身者が英語の習得を優先するのは不公平だと考えるからだ。
言語と政治
ベルンのスイス連邦政府教育担当者、フラマー氏はこの問題に対して「二つの言語が義務教育の最後に同じレベルに達していればどちらが先でも構わない」と弁明する。しかし、仏語州政治家は「小学校で2ヶ国語をきちんと習得するのは無理」と反論する。困ったスイス政府は各州の言語教育にせめて地方的まとまりを作ろうと言語調整委員会を設置した。また、数年前から4カ国の公用語(国語)を奨励促進する法律も立案中という。今後、独立した自治州が政策決定を行う連邦制のスイスで、どのように少数派の国語を守り政治的統一を図るかは困難な問題だ。
スイスの4つの公用語を話す人口比はドイツ語(63,7%)、フランス語(20,4%)、イタリア語(6,5%)とロマンシュ語(0,5%)である。(数字は在住外国人の母国も含めた調査)
州別にみると全23州のうち、独語が15州、仏語が4州、伊語が1州に独語と仏語が共存するバイリンガル州が3州(内1州はロマンシュ語も入り三ヶ国語を話す)。
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