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スイス館のセンターステージで彫刻を堪能

Valentin Carron/Pro Litteris/Galerie Eva Presenhuber

第55回ベネチア・ビエンナーレのテーマは、世界中の知識を集めた仮想博物館「百科事典パレス」。スイス館では、その将来を有望視されているヴァリス/ヴァレー州の芸術家ヴァランタン・カロンさんの作品が紹介されている。

 36歳のカロンさんは、ザンク・トガレン美術館クンストハレ(Kunst Halle)の館長で、スイス館のキュレーターでもあるジョヴァンニ・カルミネさんと協同で作業に当たった。作品が展示されているスイス館は、1952年にブルーノ・ジャコメッティが設計したモダニズム建築だ。

 その中庭で来館者を出迎えるのは、鍛錬された鉄製の2頭の蛇。長さは80メートルに及ぶ。片方の頭は外壁越しに外を眺めており、もう片方は中央のドアを見張っている。両方の頭を結ぶ細長い体はくねくねと、建物の中にあるカロンさんの絵画や彫刻へと来館者を導く。

 この鉄製の蛇は、カロンさんの芸術的なアプローチの総括ともいえるものだ。つまり最終目的地よりも、そこへ向かう道のり自体が重要なのだ。

 「蛇は建物の中の空間を際立たせるために使ったに過ぎない。大まかな空間のラインを創り出すための口実というわけだ。蛇にはいろいろと象徴するものがあるが、それを狙ったわけではない」とカロンさん。

蛇はイタリア製の布が貼られた壁を這ったり1本のか細い線に姿を変えたりして、身をうねらせ大きさを変えながら、来館者を17の展示作品へと案内する。そして蛇は18番目の作品というわけだ。

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巨大な蛇と偽トランペット

このコンテンツが公開されたのは、 カロンさんは故郷のマルティニー(Martigny)に住み、ここで創作活動を続けている。ビエンナーレのスイス館には、鍛錬された鉄製の長さ80mの蛇を連れてきた。両端に頭があるこの怪物は、展示場のあちこちまでしなやかに体を伸…

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詩的な厳格さ

 スイス館で展示する作品が完成するまでのプロセスは単純ではなかった。作品の絶えざる変貌。好奇心と不安。こうしたプロセスが作品に反映されている。

 「スイス館の計画がスタートしたのは9カ月前。毎週毎週新しいアイデア、新しいコンセプト、問題の新しい解決策が頭に浮かんだ。最後の決定はキュレターと一緒にしたが、直前までどれだけ多くのことを変えたことか。個々の作品を創り出したのは去年の末だった」

 キュレーターのカルミネさんは、カロンさんの作品を次のように分析する。「芸術の持つ真の意味に深く浸りきったものだ。出身地のヴァレー/ヴァリス州というユニークなフィルターも被せられている」

 カルミネさんはまた、展示作業は非常に創造的で集中的に進んだと言う。「正確かつ効率的に協力して仕事を進められた。カロンさんの作品の形態は厳格だが独自の詩的な面を持ち、彼はそれをうまく表現している」

 蛇を使うというアイデアは、チューリヒ消防署の建物の窓にある装飾から得た。スイス館がユーゲントシュティール様式であることを考慮して形状は優雅に、かつ装飾を最低限に抑えた。だがそれと同時に、蛇には新しい解釈も加えられている。

 「私にとって、20世紀の芸術運動はどれもすべて重要だ」とカロンさんは言う。「さまざまな時代に焦点を当て、関心もどんどん変わっていく。パチパチとチャンネルを変えながらテレビを見ているようなものだ。ここにあるこの二つの楽器の彫刻(平らにつぶれたブロンズ鋳造物)を作ったときは、1960年代のネオレアリズムの番組を見ていたようなものだ」

 それは、中庭の真ん中に置かれているピアジオ(Piaggio)の1967年製モペットからもうかがえる。カロンさんはこの2輪車を丁寧に修復した。しかし、元の形に復元することが目的ではない。その出来上がりからは、青年期の欲望、スピード制限、さらには適した色合いといったテーマまでもが浮かび上がってくる。

第55回ベネチア・ビエンナーレは6月1日から11月24日まで開催。主催者側は50万人の来場を見込んでいる。

展示されるのは37カ国158人の作品4500点。

88カ国がパビリオンを建設。バチカン王国も初参加。

ベネチア・ビエンナーレは1895年以降、2年ごとに開催されている。

新しい解釈

 カロンさんの革新力は原作を飛び越え、原作に新しい意味を与えている。新たな内容を与え、絵画や彫刻の中で伝統的な原型を再生しているのだ。

 「彼は原作のアイデンティティーとそれを取り込む行為を結びつける。しかし道徳的意味は付け加えない」とカルミネさん。「技術的、美的なアイデアでも時間とともに忘れられたり、多義の解釈がされたりする。カロンさんはそれを再現しているのだ」

その例が平らにつぶれた楽器シリーズだ。銅と亜鉛の合金で作った楽器を踏み潰し、ぺしゃんこにして、最終的にブロンズで鋳造する。フランスのネオレアリズム運動で生まれた技術だが、その破壊的な表現はまさに「パンク調」だ。この楽器は建物の内外に展示されている。壁の一部のようにカモフラージュされているが、よく見ると壁ではないことが分かる。

 グラスファイバーと樹脂を使った6枚の絵でも同じような「錯覚」が創り出されている。表面はセメント風で、スイス館の建築に使われている原材料と完全に一体化している。そこに描かれた色つきの「窓」は、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーの正面にある窓を真似たものだ。どれも異なった絵で、モダニズム的な抽象画といった仕上がりだ。

 「作品に特に好んで使う材料はない」とカロンさんは言う。「どの材料も、新しい人々に出会い、新しい結果につながる新しい技法を使う可能性を与えてくれる」

 目標は、特定のメッセージを伝達しようという気負いを持たず、建築様式を顧慮し大切にする作品を作ること。「もっともこれは政治家や哲学者の仕事だが」と、カロンさんは皮肉ものぞかせた。

1977年、ヴァリス/ヴァレー州マルティニー(Martigny)生まれ。

シオンとローザンヌの工芸高校で学んだ後、2000年に芸術活動を開始。

2010年、パリの美術館パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)で展覧会を開催。

プロ・ヘルヴェティア文化財団の審査団が、ベネチア・ビエンナーレのスイス代表として選出。

(英語からの翻訳 小山千早)

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