スイス・ビジネスマンのニッポン
愛知万博を機会に、ビジネスを展開しようと日本を訪れるスイス人が多くいる。スイス人は仕事でもプライベートでも外国人と付き合う機会が多く、外国人や外国の文化には慣れているはずなのだが、日本との関係作りでは戸惑うこともあり、その経験は少しばかり「格別」らしい。
愛知万博のスイス館にあるレストランの責任者である、マルクス・ブーリさんとマルクス・ギルゲンさんの日本での体験は笑いを誘う、ほのぼのとしたものだ。二人の体験を通し、スイスと日本の違いを改めて見てみたい。
道路や通信設備など、公共のインフラがきちんと整備されている。すべてにおいて決まりどおり動いているといった共通点のほか、視野がやや狭くなりがちな「島国的発想」をすることなど、日本とスイスは似ている。ギルゲンさんは、日本ではビジネスでの融通が利かないと言うが、実はスイスにいる日本人ビジネスマンもスイスに対して、同じように感じていることを耳にする。いずれにせよ、似ているからといって安心していると、意外な落とし穴があるというのがブーリさんとギルゲンさんの感想だ。落とし穴といってもこの二人が日本で、嫌な思いをしたわけではない。一貫して、日本人には親切にされたという思い出が多い。
絵が「読めない!」?
ブーリさんは銀座の某レストランのトイレで困った。2つあるドアには日本語でしか性別が表示されていない。仕方がないので誰かが入ってくるまで待ったという。しかし、一緒にいた同僚で日本語ができるスイス人のフライさんによると、ドアには日本語のほかに、男女別が分かるシンボルがあったというのだ。ブーリさんは緊張のあまり、それが目に入らなかったらしい。今でもブーリさんは、ドアには漢字しか書いてなかったと信じている。
スイス館のレストランの名前を募ったときのこと。「エーデルワイス」、「山」、今回採用された「アルペンローズ」など、スイスや山にちなんだ名前のリストを日本人のアドバイザーに見せて相談した。突然、アドバイザーが爆笑し、涙を流さんばかりに笑う。ブーリさんは何がおかしいのかわからない。候補に上がっていた名前の一つをブーリさんに見せながら、笑い続けるアドバイザー。そこには「スイスおなら」とあった。発案者はスイス人が良く知っている日本語「さようなら」と「スイス」のふたつの単語から新しい単語を作ったつもり。しかし、このコンビネーションが何かを意味するとは露知らずだったという。このエピソードを語りながらブーリさんは「日本の方には、失礼にあたるような名前までリストにあって申し訳なかった」と気遣う。
下を向く先生
ある田舎の寺院を観光していたギルゲンさん。およそ20人の学生服のグループに出会った。「外人だ、外人だ」と、こそこそ言うのが聞こえてきたが、ギルゲンさんは平気で、にっこりと笑い返した。
ところが、引率の先生にとっては、生徒たちの態度が恥ずかしく、「外人」に対して失礼にあたるとでも思ったのだろうか。顔を真っ赤にして、下を向きながら「早く行きましょう」と、生徒たちをせかし、走ってその場を立ち去った。金髪を触らせてと言われたことさえあるギルゲンさん。「珍しい外人」と思われるのには慣れていた。それより、せっかく日本人とコンタクトが取れる良い機会と思ったのに、ギルゲンさんは一人ぼっちになってしまった。
ギルゲンさんが仕事で京都に長期滞在していた時は、下宿に風呂がなかったため、銭湯に行った。始めはじろじろ見られたが、毎晩通うと親しくしてくれた。刺青を全身にしているヤクザらしき人もその銭湯にきていた。彼の背中を洗っているのは、どうも子分らしい。そんな人たちとも親しくなり、明け方4時までビールを飲みながら楽しく過ごしたのが思い出だ。今でも銭湯の主人とは、ギルゲンさんが旅先で買った絵葉書などを送り交流が続いている。
日本人の親切さに感謝
ギルゲンさんは日本でよく「アメリカ人ですか」と声をかけられたので、「あなたは韓国人ですか」と返すことにした。金髪でもアメリカ人とは限らないと分かった日本人は、すぐ謝ったという。「わたしはスイス人です」と続けると驚くが、一層親しみを込めて話をしてくれたという。
ブーリさんもギルゲンさんも、日本の街中で地図を広げていると、英語でどこへ行きたいのか聞いて来る日本人が多く、助かったという。日本人の優しさはそればかりではなく、新幹線に乗っていて同僚が気分が悪くなったが、乗り合わせた日本人が、何度も様子を見にきてくれた。スイスではあまり考えられないことだという。
ただ、英語を話すとき日本人は、完璧を目指しているように思うという。ブーリさんもギルゲンさんも日本語をチューリヒで習っているが、まだまだ完璧ではない。しかし、日本では、単語を並べるだけだが、日本語を話すよう心がけるという。「だれも完璧じゃないんですから。わたしたちの英語だって不完全。コミュニケーションを取ろうとすることが、ものごとの始まりだと思います」とブーリ氏は、日本人にはもっと話しかけて欲しいと思っている。
愛知万博のレストランでは、スイス人と日本人の従業員が丁度同じ人数だけいる。職場を通して、スイス人と日本人とのより深い交流が6ヶ月に渡ってなされることであろう。
swissinfo 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
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