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ダダイズム 発祥の地に蘇る

新たなダダのインスタレーション。 Cabaret Voltaire

ダダイズム。通称ダダとも呼ばれる20世紀初頭の反権威主義芸術運動は、後のシュルレアリズムに吸収されてしまったためフランスで始まったというイメージがあるが、ダダイズムの発祥地はチューリヒだ。

この度、ダダイズムの活動基点となった文芸酒場キャバレー・ヴォルテールが新しい芸術の発信地となるように、アートセンターとして生まれ変わって開館した。

ダダイズムとは?

 「Dada」とは幼児語で「お馬さん」と言う意。ダダイズム発起人でルーマニアの詩人トリスタン・ツァラが仏語辞典で偶然に選んだ言葉だ。このダダがツァラ曰く「何も意味しない」のは既成の権威や道徳、芸術形式を一切否定し、芸術の偶発性を尊重するダダイズムの思想を象徴する。第一次世界大戦中の1916年、中立国スイスに多くの芸術家達が亡命し、新しい芸術のあり方を模索した。ダダイズム運動を支えた 「ダダイスト」にはドイツ人の画家、ハンス・リヒターやフランス人画家、彫刻家、詩人のジャン・アルプなど様々な国や分野からの芸術家達だ。運動は後にニューヨーク、べルリン、パリなどに飛び火し、現代美術に深く影響を与えることになる。

キャバレー・ヴォルテール復活の経過

 ダダイズムの生まれたキャバレー・ヴォルテールはチューリヒ旧市街にある中世のお屋敷の一角にあった。数年前、所有主の保険会社が店舗とアパートに改装しようとしたところアーチストや知識人が猛反対。長い交渉と闘争の末、チューリヒ市と時計会社スウォッチが出資することで建物を修復し、ダダイズムに相応しいアートセンターとして開館することができた。1916年にダダイズムがこの場所で起こってから88年ぶりの再生である。

ダダの精神を

 キャバレー・ヴォルテールの職員二コール・シュイッツァール氏は「ダダイズムの遺品を美術館のように見せるのが目的ではなく、その現在性を生かしたい」と語る。勿論、ダダがテーマの中心であるが、ビデオなど当時の資料が見られる他、現代芸家達も参加してパフォーマンスやインスタレーション(空間芸術)などといった様々な形態でダダイズムについて考えさせる様式だ。例えば、現在は精神病患者の書いた詩とダダ運動を比較するスイス人監督クルト・スルの映画が上映されている。展示は3ヶ月ごとに替わる予定だ。キャバレー・ヴォルテール内のカフェバールでは討論会など夜の催し物が予定されている。前出の二コール氏は「当時のように人々の触れ合う場所が提供できれば」と抱負を語る。

日本人アーチストも参加

 日本からは写真家の荒木経惟(あらきのぶよし=通称アラーキー)もオープニングの展示に参加している。『だだっこ』と題するビデオで自らをダダイストとしての自覚する瞬間を表現するユーモアに富む作品だ。

ダダスウォッチで資金集め

 キャバレー・ヴォルテールの活動を支えるスウォッチ社の御曹司ニック・ハヤック氏は「ダダにはいつも魅了されていた。規定や常識から外れて物を考えさせてくれるから」と語っている。スウォッチは5年間に150万フラン(約1億3,000万円)を出資する予定。キャバレー・ヴォルテール開館を記念してダダアートスペシャルと題した二つのダダ風の時計を限定販売し、売り上げの一部をダダ基金に寄付する予定だ。当時、奇抜で斬新だったキャバレー・ヴォルテールでの活動は深夜騒音罪、道徳違反として6ヶ月で閉められたというから、こちらの新しいキャバレー・ヴォルテールはもう少し長く続いて欲しいものだ。


スイス国際放送  屋山明乃(ややまあけの)

現在は日本の写真家アラーキーのビデオが鑑賞できる。

美術館ではなく、ダダの精神を受け継ぐ現代芸術の活動や討論会などが行われるアートセンター。ダダイズムに関するインスタレーションやビデオなども上映される。

<開催案内>

- キャバレー・ヴォルテールへはチューリヒ駅から徒歩5分。トラムでは4番線に乗り、ラートハウス(Rathaus)で下車。シュピーゲル通り(Spiegelgasse)1番地。

- 展示開館時間:火〜土まで13時〜19時。日は13時〜18時。カフェバール開館時間:火曜〜日曜は10時〜19時。催しがあるときは24時まで。

<ダダイズムとは>

- 第一次世界大戦中の不安と厭世的な時代を背景に1916年にチューリヒで起こった既成の芸術形式に反発する反権威主義芸術運動。

- 詩人トリスタン・ツァラが1918年に出した「ダダ宣言」で国際的に広まる。

- 「ダダ」とは仏幼児語で「お馬さん」の意。辞書から偶然、無作為に拾った言葉で「ダダは何も意味をしない」(詩人トリスタン・ツァラ)。

- 過去の芸術を否定して新しい価値の創出を試みる。つまり、決まりごとを定めずに芸術についての考え方を白紙にした状態で偶然や瞬間的なひらめきに芸術の可能性を探る。

- 中立国スイスに亡命していた芸術家達、ルーマニアの詩人トリスタン・ツァラやその友人マルセル・ヤンコ、ドイツのフーゴ・パルやハンス・リヒター、フランスのジャン・アルプなどを中心にチューリヒの文芸酒場キャバレー・ヴォルテールを基盤に起こる。

- ダダイズムは音声詩、コラージュ、オブジェ、フォトモンタージュ、パフォーマンスなどを生み、その後シュルレアリスムや抽象表現主義などの理念に深く影響を与えた。

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