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ベルン美術館最大の中国現代アートコレクションが開かれる

コレクションの1つ、「タクシーを止める毛沢東」 swissinfo.ch

ある時は中国駐在スイス大使、またある時はスイスの大手メディアグループの副会長、しかしその実体は中国現代アートの世界的コレクター。ウーリ・シック博士は実に様々な顔を持つ。趣味が高じた中国現代アートのコレクションは、世界でも他の追随を許さない。

この貴重なコレクションが、スイスの首都、ベルン美術館で6月13日から一般公開されている。ベルン美術館の開館以来、最大規模のもので、4ヵ月に渡る開催中は従来の展示品の多くは倉庫に片付けられてしまう。

 ベルン美術館で開催されるこの展示会のテーマは「麻将(マージョン)〜シック・コレクションによる中国現代アート〜」。現代中国の芸術的・文化的変化を伝えるこのコレクションは、シック博士によって、25年もかけて収集されたもので、質・量ともに圧巻である。膨大なシック・コレクションのうち一般公開されるのは350点。1979年から2004年までの中国アバンギャルドを、時代を追って見ることができる。ベルン以外にも、巨大なセメントで作られた中国現代アート25体が、アールガウ州で展示される(6月21日から8月28日まで)。

 現在、スイスの代表的なメディアグループの副会長を務めるシック博士が最初に中国大陸に降り立ったのは1979年だった。その後、1995年から1998年までスイス大使として中国に駐在する。今でも年に数回は中国に「里帰り」するほど、中国への熱は冷めない。

 シック博士とリタ夫人は世界でも最初に、体系的に中国現代アートを集め始めた。「私が始めて中国に旅行したのは1979年でしたが、当時中国の現代アートにあまり興味はありませんでした」とシック博士は語る。

 「西洋人の目を通して見たからか、それとも、1980年代に入ってから中国の現代アートが俄然西洋人の目に面白く映り始めたのか、わかりませんが」

気味の悪いスイス人

 シック博士は180人のアーチストによる1200の作品を集めたが、これは並大抵のことではなかった。博士の熱意は、中国人の間でも「気味が悪い」と評判が立つほどだった。中国の有名な現代アーチストであり、今回の展示会のキュレーター(学芸員)も兼ねているアイ・ウェイウェイさんは語る。

 「何しろ広い中国で、面白いアートがあると聞けば、シック博士は至る所に出没しました。私が行ったことのない場所にも、博士はコレクションを完璧にするために、どんどんでかけていきました。こうしてこのコレクションは世界でも類を見ないものとなったのです」

 アイ・ウェイウェイさんは次回の北京オリンピックに関連して数々の国際的な建築家と一緒に仕事をしているが、シック博士の印象をこう語る。「博士の仕事の進め方は、印象的なものでした。細やかな心遣いと精密さが非常にスイス的だと思いました」

自由化がもたらした芸術的爆発

 アイ・ウェイウェイさんによると、この展示会は、決して中国現代アート愛好家のためだけではなく、中国の社会や経済開発の変化に興味がある人全てのためにある。

 ベルン美術館のディレクター、マティアス・フレーナーさんも同意見だ。「工業や経済と同じく、芸術も過去15年から20年にわたって大きな変化を見せています」

 毛沢東が健在だった頃は、芸術は共産党のプロパガンダや教育的目的のために広く使われていた。毛沢東が亡くなると、党の指示がだいぶ弱まり、芸術家は自分のやりたいことを実験し始めた。そして中国の芸術には、より多様性とダイナミズムが見られるようになったのだ。

 「自由に表現できなかった時間が長かった分、中国の現代アートは西側諸国のものと比べると、信じられないほどのパワーを持っています」とフレーナーさんは言う。「西側の現代アートは、人生に対する疲れや悲しみを表現するものが多いのですが、中国のものは、存在自体に対する疑問を前面に押し出したり、新しい政治意識を表現したり、または社会の現実をまざまざと見せたりするなど、誠に革新性に満ちています」

共産党イデオロギーと商業的風潮の狭間で

 根強く残っている社会主義的イデオロギーと、最近の市場開放で台頭してきた商業主義的風潮の間にある緊張感は、当然、中国現代アートの大きなテーマになっている。

 例えば、毛沢東が手を挙げてタクシーを止めているアート。本来なら、軍事パレードや民衆に手を挙げて応えるしぐさだ。また別のものでは、伝統的な中国の絵に、米国ドルと、シャネルと、コカコーラのロゴが取り入れられている。

 このように、中国現代アートはタブーを破るものが多く、国際的には受け入れられるものであっても、祖国中国で公開されるのはまだ難しいようだ。

 「私のコレクションの4分の1は、中国で展示することはできないでしょう。中国政府は、このコレクションが持っている政治的、社会的、芸術的重要性を理解できないのではないかと思います」

swissinfo 外電 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

「麻将(マージョン)〜シック・コレクションによる中国現代アート〜」はベルン美術館で、6月13日から10月16日まで開催中。

‐ウーリ・シック博士が最初に中国に降り立ったのは1979年。シンドラー商会を立ち上げるためだった。

‐1995年から1998年まではスイス大使として中国に赴任した。

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