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ロカルノ国際映画祭、富田監督作「サウダーヂ」はラップのリズムで甲府市を描く

ラッパーの猛は、ブラジル人のラッパーたちに対抗してコンサートで歌う pardo.ch

1990年代初頭、日本は多くの日系ブルジル人を労働力として受け入れた。その一つに山梨県甲府市がある。富田克也監督の「サウダーヂ(ポルトガル語で郷愁の意味)」は、この街の移民と日本人社会の接触を迫力あるラップのリズムと共に展開する作品だ。


第64回ロカルノ国際祭「国際コンペティション部門」にノミネートされ「日本の新しい世代の映画」と評価される同作品は、8月10日まず記者団に公開された。

 商店街がシャッター通りと化した甲府市。日本の多くの地方都市の姿だ。しかしここが少しほかと異なるのは、一歩違う地区に足を踏み入れれば日系ブラジル人やペルー人の社会があることだ。

 土方として働く精司(鷹野毅)はセレブを指向する妻(工藤千恵)に違和感があり、タイ人のホステスミャオ(ディーチャイ・バウイーナ)と仲良くなる。そして不況で仕事を失ったとき真剣にミャオとタイ行きを考える。一方、ラッパーの猛(田我流)は徐々に日系ブラジル人たちに対する反感を募らせていく。こうした流れに失業しブラジルに戻っていく人々の話なども絡む。

 

 さらに、ラップ、タイの音楽、演歌など世代や文化を代表するさまざまなジャンルの音楽が挿入され、それが大きな役割を担ってもいる。

ドキュメンタリー映画とフィクション

 「サウダーヂ」はドキュメンタリー映画とフィクションの間を行くような作風がひどく新鮮だ。例えば、母親がフィリピン人、父親が日系ブルジル人の家庭の食事風景は、「今後フラジルに行くか、日本に残るか」といった会話が自然な上、彼らがプロの役者でないことは明らだ。ラップのグループや建設業の人々も日常の延長で自然に動いている感じだ。しかし一方でこの作品はやはりフィクションなのだ。

 そのあたりを富田監督は「甲府のブラジル人の社会に入り1年かけて調査し、それをまずドキュメンタリー映画『FURUSATO 2009』にまとめた。その後、そのままに終わらせずフィクションにしたのがこの『サウダーヂ』だ」と話す。

 土方役の精司は、職業が本当に土方の富田監督の幼友達だ。彼から「建設業界は、昔は良かったが入札制度導入で振るわなくなり、現場の重機さえ買い変えられない」という話を聞き「それをストーリーとして使いたい」ということになった。もちろんラッパー役の猛も、現実でもプロのラッパーだ。映画では思いつく歌詞をラップのリズムに合わせながらノートに書き取っていくシーンがあるが、それはそのまま彼の本当の日常の姿だ。

 では、どの部分がフィクションなのか?「猛がブラジル人を刺すが、これは完全にフィクションだ」。甲府での移民問題は、実はまだ(ヨーロッパのように)深刻ではない。それは日本人とブラジル人の社会が切り離されているからでもある。

 しかし、ブラジル人には駐車場を貸したくないといった話など、外国人に対する違和感は確実に存在し、これが今後もっと深刻さを増すのではないかと感じた富田監督は、フィクションの形で将来起こる問題を提起した。「ドキュメンタリーには、それなりのきちんとした役割があるが限界もあり、それをフィクションで表現した」。また、「自分たちの映画作りおいて、ドキュメンタリーとフィクションの堺目は存在しない」とも言い切る。

「役者」の撮影への参加

 「サウダーヂ」はラーメン屋で精司と同僚が昼食を取るシーンからスタートする。その逆光の中に黒く浮かぶような2人の姿がすっきりと映像化されている。全体的にも場面場面の構図がピタリと決まり、迫力ある画像が連続する。カメラマンの高野貴子氏は「実はこうした構図でやると初めから決めているわけではない。撮影現場では、その都度変わっていき、その都度それをどうやってカメラに収めていくかということだ」と話す。

 「役者も参加しているので、脚本を理解したら、ではそれはこうしたらどうだろうと彼らが提案してくる。それを最終的には監督がオーケーを出し、私がカメラに収めていくという撮影の仕方だ」

 現実の世界での本業を役としてこなす「役者」の撮影への参加も特別だが、「サウダーヂ」の制作メンバーたちの在り方も特別で、これはロカルノのアーティスティック・ディレクターの言葉を借りれば「日本の新しい世代の新しい映画作り」ということになる。

 「もともと僕は自分をいわゆる監督だとは考えていないし、映画監督になりたいとも思っていない。僕たちは『空族(くぞく)』という5人の仲間で一緒に映画作りをやっている」と富田監督。また、全員がほかにアルバイトの形で職を持ち、役者も働いているので週末やお盆休みを使っての撮影になる。従って時間がかかり、「サウダーヂ」には撮影だけで1年かかった。

 「結局、資本がきちんとありプロの役者さんたちを使って、一定期間で撮り終える、いわゆる普通の映画作りとは全く異なる。僕らは、いくら時間がかかっても自分たちが撮りたい対象に僕らから近づいて行って、それを映画の中に取り入れていく。映画に登場人物を従わせるのではなく、生活者に僕らが合わせていく」

社会が持っている膿(うみ)のようなもの

 では、ドキュメンタリー的映画が目指すものは結局何なのか?「人に対する興味だ。ただ毎回テーマはあり、『サウダーヂ』では甲府という街だった。しかし街を勝手に作ったらうそになるので、現実の話をきちんと取り入れて行った」という。

 ところで、福島原発事故が今後の作品に及ぼす影響に関し、「今までの作品でもそうだが、普段気づかずに生活しているが社会が持っている膿のようなもの(原発もそうだが)、または社会の裂け目みたいなものを暴露し表現してきたつもりだ。だから原発事故が起こったからといって、僕らの姿勢はあまり変わらない。ただ直接このテーマで映画を作るつもりはない」と話す。

  富田監督と共同で脚本を担当した相澤虎之助氏は「今回も今後も社会の裂け目を暴露はしていくが、それは告発するというのではなく、そうした厳しい現実の中でも人々はたくましく生きていくのだというポジティブな面を、生活者の姿を、伝えていきたい」と付け加える。

 

 実は次作として、今はタイにいる「サウダーチ」のホステス役のミャオを主人公にした映画を模索している。日本人ビジネスマンが売春旅行でよく行くバンコクの街をテーマにしたものだ。作り方は今回と同じ。5人の「空族」の仲間とまずリサーチから始め、じっくりと仕上げていくつもりだ。

1972年甲府市に生まれる。

高校卒業後、音楽を志し上京。しかし映画を多数鑑賞するうちに自分で製作を始める。

2003年、5年間かけた8ミリの処女作「雲の上」を発表。

同作品は「映画美学校 映画2004」の最優秀スカラシップを受賞。

2007年、16ミリの「国道20号線」を発表。

「サウダーヂ」は「空族(くぞく)」という仲間5人で一緒に作っていると監督自身が語る。撮影・編集は高野貴子氏と富田監督。富田監督との脚本共同執筆は相澤虎之助氏。助監督に河上健太郎氏。ウエッブデザイナーに石原貴郎(ひろお)氏がいる

スイス、ティチーノ州ロカルノ (Locarno)市で8月3日から13日まで開催。ヨーロッパで最も古い国際映画祭として、また新人監督やまだ知られていない優れた作品を上映することでも有名。

カンヌ映画祭などが関係者だけの限られた上映であるのに対し、ロカルノは一般の観客が映画を楽しみ、監督もその反応を肌で感じられるという点でも特色を成す。

世界最大級の26mx14mのビッグスクリーンがある広場ピアッツァ・グランデ(Piazza Grande)は、8000人近い観客を収容でき、人気のある作品が上映される。これを「ピアッツァ・グランデ部門」と呼ぶ。今年は20本上映され、そのうち14本がワールド・プレミア。松本人志監督の「さや侍」もここで上映される。

 コンペ部門として、メインの「国際コンペティション(International Competition)」、新鋭監督作品のコンペ「新鋭監督コンペティション(Film-makers of the Present Competition )」などがある。

今回、「国際コンペティション部門」には20本、そのうち14本がワールド・プレミア。「新鋭監督コンペティション部門」には14本、そのうち9本がワールド・プレミアとしてノミネートされた。「国際コンペティション部門」に今年、青山真治監督と富田克也監督の作品が出品される快挙となった。

「国際コンペティション部門」の最優秀作品には「金豹賞」が授与される。2007年に小林政広監督の「愛の予感」が同賞を勝ち取っている。

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