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国際アニメ祭に寄せて-作家はバイタリティーの塊

今年も短編アニメのフェスティバルが開催 Fantoche

9月7日から6日間にわたり、スイス、アールガウ州バーデン(Baden)で国際アニメーション祭「ファントシュ」が開催中だ。一昨年前まで隔年の開催だったが、昨年から「応募作品が増えたため」毎年開催になり、スイス最大のアニメ祭として注目されている。


今年は、連句アニメ「冬の日」など多くの作品を制作するアニメ作家の野村辰寿 ( たつとし ) 氏が国際部門の審査員として加わった。日本のアニメの現状やファントシュに寄せる期待などを聞いた。

swissinfo.ch : 日本のアニメ作家を育てる教育環境ですが、現在は理想的と言えるのでしょうか。

野村 : 大きな美術大学にはアニメーション学科が設立され、昔より教育環境は整っています。東京藝術大学、多摩美術大学など教育陣は非常に充実し、アニメ教育が推進されています。

こうした体制はおよそ10年前ごろから出来上がってきたのですが、アニメーション学科を卒業しても、作家として生計を立てていくのは、非常に難しいですね。

創作そのものが ( 直接収入につながらない ) 商業的活動ではない部分が大きいことから、アニメ製作だけで生きていくのは厳しいのです。

「つみきのいえ」がアカデミー賞で邦画初の「短編アニメ映画賞」を受賞したお陰で、日本でも短編アニメの知名度が上がり、多少制作環境も活性化しました。また、同時にアニメ作家を目指す人も増えています。

swissinfo.ch : アニメ作家としての仕事や生活は非常に厳しいということですね。

野村 : 若い作家は、自分のオリジナリティーや創作性、個性を生かせるような仕事、非常に少ないチャンスですが、例えば教育番組のプログラム、ミュージックビデオ、番組のオープニングの製作などで生計を立てながら、これと平行して自分が望む本当の創作を行うという形が多いですね。
 
しかし、そのためには、人脈もチャンスも必要ですし、何よりも自分のバイタリティー、つまり、どんなことでもこなしていく精力が必要だと思います。

swissinfo.ch : バイタリティーというお言葉を頂きましたが、その他に、プロのアニメ作家となるのに欠かせない要素とは何でしょうか。

野村 : オリジナリティーが大切だと思います。その人しか作れないものが作れるかどうかということです。またもう一つは、創作したものが、観客にきちんとと伝わるような高い質を生み出せるかどうか。この2点だと思います。

swissinfo.ch : 中田秀人監督の「電信柱エレミの恋」がファントシュで上映され、監督から制作の裏話などを伺う機会がありました。人形を使い、一コマ一コマ撮るストップモーションという方法で、8年の歳月を費やしたと聞きました。

野村  : そうです。中田さんは大変な仕事をなさった。しかし逆に自主制作だから8年間かけられたという面もあります。商業ベースであれば、締め切りがあり、思う存分できなかったのではないでしょうか。

しかし、最低限の生活を維持しながらの8年間の仕事は、相当な精神力、モチベーションを保ちながら、信念を貫いたものです。なおかつ、作品の完成度も大変高いので、観客の心が動かされるのだと思います。

swissinfo.ch : 現在は、コンピューターゲームなど、アニメ作家の活動の場は増えているのではないでしょうか。

野村  : コンピューターゲームにしても、テレビのアニメシリーズや映画にしても、これはディレクターや美術監督といったチームワークで制作するものです。いわば一つのシステムの中で作られるものです。こうしたアニメは、日本はアニメ大国と言われるように、それはそれで素晴らしいのです。

しかし、短編アニメは、個人の個性を表現する ( まったく違う ) 世界です。1人のアニメ作家の描く世界が動くのが短編アニメと言ってよいと思いますが、これが受け入れられる土壌は、まだ限りなく狭いのが現実です。しかも、チームワークで行う商業ベースのアニメとは対照的に、少人数で作るので、生産性も決して高くありません。

コンピューターゲームで個人の絵のタッチを生かした仕事をする人がたまにはいても、それはあくまでも、生計を立てるためのものです。個人の個性的な表現を目指す短編アニメ制作とコンピューターゲーム制作は、あくまでも別物なのです。

swissinfo.ch : ファントシュでは、毎年日本の作品が上映され、国際コンペティションに選出される作品も少なくありません。今年は特に、国際コンペティション部門で日本人の作品が4本上映されることになりました。日本の短編アニメのレベルは高いのですね。

野村 : 短編アニメは世界各国でそれぞれの歴史があります。日本だけがとび抜けて優れているわけではありません。ただ、今回上映される4本の作品は東京藝術大学の山村浩二教授の指導を受けた人たちの作品で、質は高いですね。

生徒は絵が上手く、人形を作る才能もあったりしますが、それだけでアニメが作れるわけではないのです。アニメは、音響、ストーリー性、美術性といった要素が集まった総合芸術です。例えば音響の質を高めるノウハウなども知る必要があります。山村教授はこうした部分を強化する指導をなさったと伺っています。それが効果を発揮したのではないでしょうか。

swissinfo.ch : 今後アニメはますます、コンピューターを駆使した作品が多くなりますか。

野村  : 3D映画などが、日本はもちろん欧米でも出てきていますが、わたしは逆にアナログ的なものへ好みが戻っていくように思います。

デジタル的な技術は、質において、すでに到達点に達しているのです。観客が観たいのはオリジナリティーのあるものです。オリジナリティーがありながら、ストーリー性もきちんとある、バランスの取れた作品が世界に広がっていくではないかと思います。時間をかけた、密度の濃い作品こそ、人の心を打つのです。

swissinfo.ch : 最後に、審査員としてファントシュに期待されることは?

野村  : アニメ作家はこうした映画祭での入賞を通して、知名度が上がり有名になっていきます。毎年、アニメ作家に門戸を開いてくれることはありがたいことだと思います。ファントシュが末長く続いてほしいと思います。

アールガウ州バーデン ( Baden ) で2010年9月7~12日に開催。
映画館入場料 大人17フラン ( 約1400円 ) 、14歳以下10フラン ( 約830円) 。
マルチパス ( 4枚チケット ) は55フラン ( 約 4600円 ) 、フリーパスは110フラン ( 約9100円 ) から。
国際コンペティション部門は36本。そのうち、日本人の作家4人の作品が上映される。
奥田昌輝作「くちゃお」、和田淳作「わからないブタ」、三角芳子作「Googuri Googuri」、銀木沙織作「指を盗んだ女」( 4本とも東京芸術大学大学院映像研究課出身生が監督となっている )

スイス・コンペティション部門22本のほか、長・短編合計312本がバーデン市内の三つの映画館、五つのスクリーンで上映される。国際部門、スイス部門とも最優秀賞の賞金は7000フラン ( 約58万円) 。賞金総額は3万900フラン ( 約320万円) 。結果は9月12日に発表となる。

今年のテーマはメルヒェンで、テーマ映画としてスタジオジブリの長編「となりのトトロ」も上映される。また「電信柱エレミの恋」の監督、中田秀人氏が制作の舞台裏を語る。
アニメ映画のほか、コンピューターゲームのアニメに焦点を当てた展覧会も開催。

予算は150万フラン ( 約1億2450万円 ) 。
10%がチケットや自営のレストラン収入、38%が連邦、州政府などの公共支援金、7%が基金からの資金となっている。その他はスポンサーによる。

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