地元が盛り上げる日本文化月間
さまざまな日本文化を紹介するジュネーブの「日本文化月間」が今年12年目を迎える。地元ではすっかりおなじみになり、日本ファンはその開催を毎年楽しみに待っている。
「文化紹介を通して日本を愛する人が増えれば、それが真の外交につながる」と、在ジュネーブ総領事館が中心となって始まった。ボランティアに支えられ、しかも、毎年開催される1カ月の日本文化月間は世界でも数少ない。今年は、食文化紹介の一環として日本酒の試飲会が開催され人気を呼んだ。
「サケ」を新たに発見
「妻が日本人。日本で義理の兄に注いでもらうお酒はとてもおいしい。そこでもっと日本酒の種類を知りたかった」とロラン・ブールさん。「草月流の生け花を20年間やっている。主人の仕事で日本に住み、帰国後も日本料理を作るが、どのお酒を選んでいいのか迷うので参加した」とブリジット・フラスさん。中には、金融関係の仕事や趣味の柔道などで日本に行き、そこで味わった酒の味を懐かしく思い出し参加した人もいる。
日本酒の講演会を企画した片桐啓副領事は
「酒の試飲会という、日本文化に一歩踏み込んだこうした会に申し込みが殺到。結局80人もの人が参加し大盛況だったのは、フランス語圏スイス人の日本文化への理解度がここまで達しているという証だ」
と言う。
講演に続く試飲会では、一人一人の前にプラスチック製コップに入った7種類の酒が運ばれてくる。全員神妙な顔をして飲み、気に入った酒の名前に二重丸をつけたり、コメントを書き込んだり、参加者はまるで化学実験のように真剣だ。
「ちょっとシリアスにし過ぎたかと思うが、スイス人は研究熱心でワインでもシャスラ種がいい、いやシャルドネ種がいいなどと、知ることに喜びを感じる気質の国民。もし20点満点で点数をつけてくれというと、その通りにしてくれるに違いない」
と片桐氏。講師の相原由美子氏も「スイス人はきちんと受け取り、返してくれる。知的好奇心が強い人々」と評価する。
この会は、外務省が農林水産省と組み、外国にもっと日本の食文化を紹介したいというキュンペーンを2、3年前から始めたことも背景にある。また、スイスが日本と締結し9月に発効した「スイス・日本経済連携協定 ( FTEPA ) 」で、酒は関税ゼロ商品に入っていることも関係していると片桐氏は説明する。
会がお開きになる頃、ほろ酔い加減の参加者たちが、口当たりのいい濁り酒、シャンペンのようなスパークル酒、スイスワインに似た高級な大吟醸酒などに、「新しい発見だった」と感動し、次回もぜひ参加したいと話した。
日本文化への熱意
日本文化月間の21のプログラム中、開幕行事や酒の講演会などは領事館主催だが、残りのほとんどがジュネーブにあるクラブ、学校、個人の芸術家などが自分で企画し会場も確保して、領事館が作るプログラムに載せてもらっている。「うちはいわば傘を提供し、この傘に参加グループが入ってもらう形式」と片桐氏話す。
その一つが、草月流、池坊、小原流など全ての流派が会員の「生け花インターナショナルジュネーブ支部」の展示会だ。今年40周年を記念し、東洋の陶器を収集する「ボー美術館」で開催された同展には、講師や経験を積んだ生徒のみが展示し、質の高い造形力を披露した。
52点の作品中日本人の作品はわずか4、5点。「生け花インターナショナルジュネーブ支部」の会員も草月流だけで160人と数多く、生け花はしっかりとジュネーブに根を下ろしている。それは、お茶や日本舞踊、囲碁なども同じだ。
「ジュネーブの文化月間がうまくいっているのは、こうした、多くの人を抱えるしっかりとしたクラブが存在すること。都市の規模が小さいため、各クラブの人たちが知り合いで、協力し合うこと。また、何といってもこうした日本文化を愛する人たちが、その趣味に一生懸命に打ち込み、この素晴らしい活動をさらに多くの人に知ってもらいたいという熱意があるからだ」
と片桐氏は分析する。
今後の課題
12年も続いている文化月間には色々な逸話が残る。その1つを長年イベントにかかわる領事館の伊野武正氏は
「能の一行が空港に着いたが、能装束をつめたトランクが行方不明になって出てこなくなった。明日は講演。そこで着物の仕立て方を知っている日本舞踊の菅原先生が知り合いを集め、急遽買い求めた布地を一晩で能装束仕上げた。素人の目には本物との見分けがつかなかった」
と話す。
ところで、文化月間には今後二つの課題がある。従来海外の日本文化月間は、日本の伝統である能、お茶、お花などを「見せる」ことで満足していたが、それを大切にしながらも若い世代にむけて漫画やアニメ、コスプレなどのイベントを付け加えていくこと。これは食文化の紹介と共に外務省が2、3年前から考えている方向性だ。
また、もう一つは、現在の在ジュネーブ領事館が在ジュネーブ出張駐在官事務所へと変更されるため、来年の文化月間開催を危惧する声も聞こえる。
池坊の島田由美子氏や裏千家の山田博美氏は
「文化月間は多くの人に知ってもらう契機になる。また同じ会場で、お花、お茶などをやると、お茶に参加した人が、お花も見て行ってくれる。もし文化月間がなくなれば、プログラムをまとめたり、宣伝したりといった仕事は個人ではできない」
と心配する。しかし片桐氏は「菅沼健一総領事はぜひ来年も今年と同じようにやりたいとの意向を持っている」と話す。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch
10月27日から11月30日まで開催。
日本文化月間開幕行事として、沖縄伝統芸能エイサーチーム「琉神」の公演が行われた。
そのほか、日本古典舞踊の夕べ、裏千家・池坊合同デモンストレーション及び展示会、アニメ上映会、いけばな・インターナショナルの生け花展示会、日本酒に関する講演会、ジュネーブ日本クラブ10周年記念「日本のメロディー」などが行われた。
日本のメロディー公演では、ローザンヌ国立高等音楽院で教授を務めるソプラノのオペラ歌手、川道博子氏と甲田さくや氏が日本の童謡などを披露。また日本のメロディー独特の音階などについても解説した。
今後、ワークショップ「按摩の手引き」11月24日、講演会「日本の食材と品質へのこだわり」11月25日、「香道のデモンストレーション」11月26日、映画上映会「ついのすみか」11月27日、28日、講演会「空間の日本文化」11月30日などが予定されている ( 詳細は在ジュネーブ日本国総領事館のサイトに掲載 ) 。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。