布袋寅泰、モントルーの観客を熱狂の渦に
現在開催中のモントルー・ジャズ・フェスティバルで11日、日本人アーティストが多数出演する「Japan Day」が開催され、ギタリストの布袋寅泰が約1時間半に及ぶ演奏を披露した。その圧倒的なギターさばきと、体を揺らすロックのリズムにスイスの観客は歓喜の声を上げ、肌寒い夜のモントルーが熱気に包まれた。
風光明媚なレマン湖畔にあり、高級ホテルがいくつも立ち並ぶモントルー。モントルー・ジャズ・フェスティバル開催期間中は湖畔沿いに様々な国の料理の屋台が軒を連ね、いたるところでジャズやロック、ポップなどの音楽が流れる。
本来なら夏真っ盛りの7月だが、その日の最高気温は15度前後。雨が降ったりやんだりする不安定な空模様の中、日が暮れるにつれて、音楽を求めて若者が町に押し寄せてきた。片手にタバコやビールを持つ彼らが仲間と聴きたい音楽は、もちろんノリのいい音楽だ。
モントルーではこの日、日本とスイスが国交樹立150周年を迎えたことを記念した「Japan Day外部リンク」が行われており、日本人アーティストが多数出演することになっていた。そのうちの何人かはたくさんある会場の中の、入場無料の屋外コンサート会場で演奏。サッカー場の半分ぐらいの比較的小さなこの会場には、ビアガーデンもあり、子どもの遊具が隅に置かれている。
そこに、日本を代表するギタリストの布袋寅泰が出演することになった。夜11時半の開演間際になると、舞台前方では数十人の日本人ファンが待機し、スイス人や旅行中の米国人などもタバコを吸ったりビールを飲んだりしながら、この会場に集まってきた。
謙虚なHotei
「ねぇ、ここでロックやるの?」と、ほろ酔い加減のスイスの若者たちも、少しずつ集まってくる。日本では知る人ぞ知る布袋寅泰だが、Hoteiの知名度はここスイスではあまり高くないようだ。
そして開演。フランス語をしゃべる司会の男性が布袋の登場を告げる。ワーっと歓声を上げるのは主に日本人だ。
ワクワクドキドキするようなテンポのよいロックなリズムが流れ、あの布袋がいよいよ登場。ドラムとベースに合わせ、かっこよくギターをかき鳴らす。1曲目が終わると、布袋は観客に向かって「Bon jour! Bon soir!(こんにちは!こんばんは!)」とフランス語であいさつ。そして英語でこう続けた。「今日はみんなと楽しみたい!」。ほろ酔い加減の若者たちから「イエー!」と歓声が飛び交う。
しびれるようなロックギターに、ハスキーな歌声。幅の広いパンツに身を包む52歳の布袋は、リズムに乗って足を蹴り上げ、腰を振り、時にはボクサーが軽やかなステップを踏むようにギターを演奏する。そんな彼のパフォーマンスに若者たちは「ヒュー」と口笛を吹き、一緒にリズムに乗る。
布袋は、モントルーの観客の前では謙虚に英語でこう言った。「僕の名前を知らない人が多いと思う」。「私は知ってるー!」と前列の若い白人女性3人は答えるが、ほかの人はシーンとしている。「しかし、次の曲は聞いたことがある人も多いはず。映画『キルビル』に使われた、『Battle Without Honor or Humanity』です」
ジャン、ジャン、ジャーンと、あの一度聞けば忘れられないメロディーが大音量のスピーカーから流れる。するとどうだろう。沿道の方から会場へと人がぞくぞくとやってきて、あっという間に舞台前は身動きが取れないほどになった。
国を超えて観客を魅了
仲間に肩車されこぶしを振り上げロックする若い男性、重低音のリズムに合わせて大きく肩を揺らす若い女性など、観客は皆それぞれ、布袋のエネルギッシュな演奏に酔いしれた。演奏すればするほど、会場に人が集まってくる布袋のパフォーマンス。彼のカリスマ性は国境を越えても存在した。
最後に演奏したバラードでも、布袋は観客を踊らせた。白髪の初老のカップル2組は、彼の情熱的なギターをBGMに抱き合って踊っていた。
布袋は、モントルー・ジャズ・フェスティバルの出演が決定した当時、自身のブログにこう書いている。「このフェスに参加できることはミュージシャンとして大いなる名誉であると共に、プレッシャーでもある」
しかし、彼はそんなプレッシャーはみじんも感じさせない最高のパフォーマンスをモントルーでみせた。コンサートの終わりに、観客に向かってこう語った。「みなさんの雰囲気がとても良かったです。ありがとう!」。赤髪オールバックの布袋が笑みをこぼす。会場では拍手喝采が巻き起こり、口笛がピューピュー鳴る。ほろ酔いを通り越して泥酔している若者たちも「ヒュー!」と大絶賛。布袋寅泰はその日、スイスの観客と共に新たな伝説を作り上げた。
モントルー・ジャズ・フェスティバル
今年で第48回を迎えたこのフェスティバルは、スイス西部の町モントルーで毎年夏に開催される。期間は7月4日から19日まで。
スイス国内外から一流アーティストを招待しており、今回はR&Bで人気を博す米国人歌手ファレル・ウィリアムスさんや、大御所のスティービー・ワンダーさんなどが参加。
このフェスティバルの創設者で、昨年に不慮の事故で亡くなったクロード・ノブス氏はジャズを「カラフルな花束」と形容していた。そのため、ポップ音楽などを含む幅広いジャンルの音楽がこのフェスティバルで演奏されている。
日本・スイス国交樹立150周年記念にあたる今年は、11日を「Japan Day」と題し、さまざまな日本人アーティストのコンサートが行われた。ギタリストの布袋寅泰さんのほか、ジャズピアニストの上原ひろみさんや、ジャズバンド「ブルーノート東京」、尺八奏者の中村明一さんやギタリストのMiyaviさんなどが演奏を披露した。
日本では、2011年に川崎市にモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン・イン・かわさき外部リンクが創設された。第4回を迎える今年は11月に開かれる予定。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。