建築界のスター、リベスキンドのショッピングセンター
「ユダヤ博物館」に見られるジグザグの線構造や、「帝国戦争博物館」の斜めに傾く建物構造などで、「感情」を表現する、自由な造形建築家として一躍世界のスターとなったダニエル・リベスキンドが、ベルン郊外に総合ショッピングセンターを設計。10月8日にオープンする。
ホロコーストの生存者を両親に持つリベスキンドは、歴史の重みを建築構造によって喚起するような形で、博物館、美術館などを主にに手がけてきた。しかし、今回はいわば歴史性から解き放たれた、純粋にレジャー中心のセンターを設計し、新しいチャレンジを行った。
経験したことのないような快適な時間
「21世紀の生きた空間。一つの街。ここでは、ショッピングやレジャーを楽しみ、今まで経験したことのないような形で、快適な時間を過ごせる」
と、リベスキンドはこの総合ショッピングセンター「ウエストサイド・ベルン ( Westside Bern ) 」を定義した。
ウエストサイド・ベルンには、映画館、巨大なプール、医療施設完備の95戸の老人用アパート、60軒のブティックなどが14万1500平方メートルの敷地の上に並ぶ。商店街、レストラン、プールなどはエスカレーターで繋がり、買い物客は、専用の冷蔵庫に買い物を入れ、泳いだり、食事したりできる。
建物は、ジグザグ線、斜めに設置された仕切りの壁などが支配し、全体は水晶を思わせる形をしている。
「巨大なクリスタルガラスを通過する光は、地下2階まで深く差し込み、毎日その光と影が織り成す戯れを楽しんでいる」
と専門のガイド、ルドルフ・カウフマン氏は表現する。
東にレンゾ・ピアノ、西にダニエル・リベスキンド
リベスキンドの造形的に自由な構造の設計を実現するには、多くの技術者のアイデアが重要な役割を果たしたとカウフマン氏は指摘する。
例えば、ジグザグに走る、壁状の仕切りに乗せるガラスの重量を削減するため、特殊な高価なガラスを使い、また、基本となる複雑な鉄筋構造を実現するため、パリのエッフェル塔に使われた量をはるかに超える、1万1000トンの鉄鋼材を用いたという。
こうしたジグザグ線の幾何学的構造が周囲の風景を抹殺しないよう、リベスキンドは建物の正面を東欧産のハリエンジュの木で覆うという工夫も行っている。
ウエストサイド・ベルン は省エネ建築スタンダードである「ミネルギー ( Minergie ) 」に基づいた建築としても最大級の規模を持つ。二酸化炭素 ( CO2 ) を排出する重油は全暖房の15%を占めるのみで、残りは木材を使うが、CO2ゼロの方法が使われる。
また、ベルン市から5キロメートルにあるこのシッピングセンターは、高速道路A1 を覆うトンネル上に位置し、連邦鉄道のベルン駅からは電車で数分。
ユネスコの文化遺産に指定されたベルンの旧市街からは、東に建築家レンゾー・ピアノ設計の「パウル・クレー・センター ( Zentrum Paul Klee ) 」、西にこのリベスキンドの作品が位置するようになり、観光客をさらに惹きつける ことになりそうだ。関係者は買い物客だけでも1日1万人を想定しているという。
swissinfo、ガビ・オシェンバイン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
1999年にベルン州民は、ベルン州のブリューネン ( Brünnen ) に総合ショッピングセンター建設を承認した。
2006年にダニエル・リベスキンドの設計「ネクサス ( Nexus ) 」がコンクールで選ばれた。
2008年10月8日に、オープニング式典が行われる。
総建設費は5億フラン( 約500億円 ) 。敷地面積は14万1500平方メートルで、
およそ60件の店舗が入居する。
2018年までにはおよそ800戸のアパートも建設される予定。
1946年、ポーランドでホロコーストの生存者を両親に生まれる。イスラエルで少年期を過ごし、音楽を勉強するため1965年ニューヨークに渡る。
高校卒業後に音楽から建築に方向転換した。1998年完成されたベルリンの「ユダヤ博物館」やマンチェスターの「帝国戦争博物館」が有名。
現在、ニューヨークとチューリッヒに建築事務所を構えている。博物館、美術館などを専門に手がけてきたが、今回初めてショッピングセンターを設計した。
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